中村が新卒採用チームに加わったのは二年前の話だ。前は「ビジネス・ソリューション・グローバル・エンゲージメント・マネジメント部」という正直よくわからん部署にいたが、この異動は実は出世コースの一環で、Kエンジでは幹部候補には必ず数年間の人事部経験を積ませる。そのため私からすると何ら突出したところのない中村だが、実のところ未来の重役だった。
中村は太田とは違い典型的な爽やか採用担当、もとい「会社の顔」だ。どういう張り切りかこのまえ歯をいきなりホワイトニングし「私、二週間はコーヒー飲めません」などとはにかんでいた。したがって崩れた段ボールを前にして歯だけが異様に白かった。
私も他人の荷崩れなどは無視したかったが、曲がりなりにも我々はチームだ。天竺には三人で到着しなければ意味がない。私は引っ越し屋のようにザ・絶対に荷崩れしない紐の結び方を実演し、中村に(来年も採用担当やるならよお見とけよ……)と背中でメッセージを発しつつ、どうせ私の手許など見ていないだろうと諦めていた。事実、中村は「今時パンフレットとか古いんですよ」とか「紙だと環境負荷も大きいですしね」とかうるさい。私が立ち上がったとき太田の後ろ姿は点のように小さくなっていた。
なに、太田の一等賞には何の意味もない。私は荷物をしょい直すと一転のんびりと歩きだした。生憎それを見せないと中に入れない「関係者パス」は三枚とも私が持っている。せいぜい鍵を忘れた小学生のように受付の前で待っていてくれ。
***
私が新卒採用チームの一員になったのは今から十年前のことだ。チームの面子は数年おきに入れ替わるが、今では私が最古参である。私の本来の所属は人事部ではなく「プロセス部」だった。それも花形の「尿素・アンモニアチーム」にいたのだ、私は。
(以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて)
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