スイカは縞模様に沿って切れば断面にタネがでてこない説は本当か? 植物学者が回答

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


スイカのタネは縞模様に集まるのか?(写真はイメージ)

夏の風物詩「スイカ」。スイカならすでに初物を味わったという方も多いかと思うが、包丁でスイカを切る際に毎回悩むのが、刃を入れる位置。

切った時に果肉に黒いタネがきれいに見えるようにしたい派、見せたくない派、それぞれ好みはあるだろうが、「縞模様に沿って切ればタネが見えないらしい」という話を聞いたことがある人は多いのではないだろうか?

ただ、実際にやってみても上手くできたためしがない。「たまたまダメだったのかなぁ~」と深く考えずに翌年もまた同じことをしている始末…。

そんな噂の真相に挑んだのが、NHKラジオ「子ども科学電話相談」の回答者としておなじみの植物学者、東京大学大学院教授の塚谷裕一(つかや・ひろかず)氏。

スイカのタネは、実際に縞の位置と関係があるのだろうか? まだ夏は始まったばかり。知っていると今夏ちょっと自慢できるスイカのタネの秘密とは?

(以下、塚谷氏の著書『根も葉もある植物のはなし その多様なすがた・かたちについて』より一部抜粋・編集)

発端はサイトに届いた1通の質問

日本植物生理学会では、「みんなのひろば」と称して、一般の方からの植物の仕組みに関する質問を受け付けている。このサイト、非常に人気が高く、続々と質問が寄せられており、その質問も多岐にわたる。そのため回答係は固定せず、その内容に応じて、学会の会員に随時割り振られることになっている。

私のところには、専門とする葉の形づくりに関した質問以外にも、ほかで手に負えなかったような難問が降ってくることがなぜか多い。一度、スイカの縞模様についての質問がやってきた。

質問は、スイカの実の中でのタネの位置と表面の縞との関係についてであった。要は、スイカを切るときに、表面の縞を目安にして切り分けると、切り口にタネが出てこないのはなぜか、というものである。実際に家人が、質問者の目の前でそういう実演をしてみせたのだという。


写真(1)スイカの断面(c)塚谷裕一

スイカの断面を眺めてみると…

この質問を見て正直なところ、まずは唸ってしまった。

そんなはずはないからである。

スイカのタネができる位置は、実の構造と関係がある。スイカを含むウリ科の植物の実は、3枚の葉が向かい合わせに癒合した形でできている。

その名残は、スイカなら実を縞に対して直角に切った時、あるいはキュウリの実を切った時、中心から放射状に走る3本の薄い線に見て取れる(写真(1))。

スイカでもキュウリでも、その断面をよく眺めてみると、この3本の線が中心から外に向かってまっすぐ伸びたあと、皮に近づいたところで分岐し、彎曲するのがわかるだろう。タネは、この彎曲した先のところに固まってついている。このタネのつき方は、実をつくるように変形した葉(心皮という)の性質に由来している。

だから、もしスイカをタネのない位置で切りたいのであれば、まずは縞に直角に切って2つに割ったあとで、断面に見える3本の線に沿って切るか、線と線の間の真ん中付近で切るのが確実なはずである。実際、試しにやってみると、これはうまくいくことがわかった。


写真(2)スイカの縞模様(c)塚谷裕一

スイカの縞模様はビーチボールとは違う

では縞はどうか。

まず縞の数は、スイカの実ごとにさまざまであって、心皮やタネのつく位置の数と異なり、3の倍数にはかならずしもなっていない。

これは、縞が心皮の構造と無関係にできていることを示している(そもそも、でんすけスイカのように全面真っ黒で縞模様をつくらない品種もある)。

すなわちタネの位置とは関係がないはずだ。

その上、写真(2)でもおわかりのように、スイカの縞模様は意外に不規則である。ビーチボールのスイカは、縞が平行に走っていて途中で交わったり消えたりしないが、本物のスイカの場合は、縞がまっすぐ実の端から端まで走っているとは限らない。いろいろなところで分岐したり消えたりさまざまだ。

これは、スイカの縞模様が、内部の構造と関連してできるものではなく、あくまで表面の成長に伴って生じるものであることを意味している。だから、タネの位置とは関係がないはずだ。

しかしものは試しである。スイカは好きだから、さっそくスイカを3個買い、縞に沿って、あるいは縞と縞の間を狙ってと、いろいろな向きから切ってみたが、結果は予想通り。

縞とタネの位置とは、関係がなかった。

いろんな説が独り歩き

ではなぜ、こういう話がわいて出たのだろう?

よくありがちなのは、テレビのバラエティ番組やネットのうわさ話である。試しにネットサーフィンをしてみると、たしかに諸説乱れ飛んでいることがわかった。

縞に沿ってタネがあるという説、逆に縞を避けてタネがあるという説……。関係ないという説は、むしろ少数派であったが、事実無根であるという結論を、正しく紹介したテレビ番組もあることがわかった。

どうやらたまたまうまくいった事例が、それぞれに独り歩きしているもののようである。

塚谷裕一(つかや・ひろかず)
1964年神奈川県生まれ。東京大学理学部卒。同大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。岡崎国立共同研究機構・基礎生物学研究所;統合バイオサイエンスセンター助教授を経て、現在、東京大学大学院教授。専門は植物学で、葉の発生を司る遺伝子経路の解明を主テーマとしつつ、東南アジア熱帯雨林でのフィールド活動など、さまざまな角度から植物の〈生〉を研究している。植物探索と撮影、読書、エッセイ書きが趣味。2021年、紫綬褒章受賞。2023年、南方熊楠賞を受賞。NHKラジオ「子ども科学電話相談」回答者。著書に『カラー版スキマの植物図鑑』『カラー版スキマの植物の世界』『カラー版ドリアン―果物の王』『植物の〈見かけ〉はどう決まる』(いずれも中公新書)、『漱石の白百合、三島の松』(中公文庫)、『森を食べる植物―腐生植物の知られざる世界』(岩波書店)ほか多数。

塚谷裕一(植物学者)

山と溪谷社
2025年8月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社山と溪谷社のご案内

1930年創業。月刊誌『山と溪谷』を中心に、国内外で山岳・自然科学・アウトドア等の分野で出版活動を展開。さらに、自然、環境、ライフスタイル、健康の分野で多くの出版物を展開しています。