廃集落で大学生が目撃した忌まわしい真実を描く最恐ホラー 遠坂八重『廃集落のY家』試し読み

試し読み

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 あの廃集落には、絶対に入ってはいけない。
 一度足を踏み入れた者は、二度と日常には戻れない……。

 遠坂八重が初めて挑んだホラーミステリ『廃集落のY家』は、静かに忍び寄る恐怖が読者を絡め取る物語だ。

『怪異研究会』を立ち上げた小佐野菜乃(おさのなの)と蓬莱倫也(ほうらいのりや)、泉秋久(いずみあきひさ)だったが、活動開始から間もなく蓬莱が音信不通になり行方がわからなくなってしまう。

 泉がXで見つけた動画には、草むらに首を傾げて立ち尽くす蓬莱に酷似した男が映っていた。菜乃と泉は動画が撮影されたと思われる場所へ向かい、そこで目は虚ろで禍々しい黒い靄をまとった無機物のような“蓬莱”の姿を目撃する。

 同じ頃、菜乃のもとに18年前に起きた凄惨な事件を告げる差出人不明のメールが届く。そして泉と菜乃の身にも異変が起こり始める…。

『死んだら永遠に休めます』で注目を集めた遠坂が放つ、逃げ場のない極上の恐怖体験を描いた同書の冒頭を公開する。

 ***

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。

からたちのとげはいたいよ。
青い青い針のとげだよ。

からたちは畑の垣根よ。
いつもいつもとほる道だよ。

からたちも秋はみのるよ。
まろいまろい金のたまだよ。

からたちのそばで泣いたよ。
みんなみんなやさしかつたよ。

からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。

プロローグ

『とりかへばや』
 投稿者:H・L
 投稿日:2004年9月10日23時19分

 こういうことを怪談話として語るのって、なんだか趣味が悪いというか、ちょっと気が引けちゃうんですけど。
 もう十年近く前の話だし、掲示板にコッソリ書くくらいならいいかなって。
 私が神奈川県のY市に住んでいた頃のことです。
 近くの高級住宅街に、ひときわ大きな白亜の邸宅がありました。
 そこには橘さん(仮名)という四人家族が暮らしていました。
 お父さんが開業医、お母さんが専業主婦の裕福なご家庭で、双子の息子さんは小学六年生でした。
 お兄さんをトシオくん、弟さんをアキラくんとします。
 二人とも見た目はそっくりで、お母さんに似てきれいな顔立ちでした。
 けど、見た目以外は正反対というか……、まあはっきり言ってしまうと、出来不出来が極端な双子でした。
 弟のアキラくんは成績優秀スポーツ万能、人当たりもよくて学校の人気者。
 いっぽうで兄のトシオくんは……あまり言葉がよくないですけど、だいぶ「足りない」子だったんですよね。
 勉強も運動も全然だめどころか、日常生活さえきちんと送れない。
 ご両親が世間体を気にされて、学校に頼みこんでなんとか普通の小学校に通わせてたみたいですけど、いつも抜け殻みたいにぼーっとして、会話すらままならない。
 そんなふうなので、ご両親の期待も愛情も、すべてアキラくんだけにそそがれているようでした。
 スーパーとかでお母さんに会っても、アキラくんのことしかしゃべらない。
 トシオくんについては無関心とかあきらめを通り越して、まるで存在しないかのようにふるまっていました。
 状況が一変したのは、ある夏の夕方のことです。
 塾帰りのアキラくんが、左折した大型トラックに巻きこまれて、大怪我を負ってしまったんです。
 一度お見舞いに行きましたが、包帯をぐるぐる巻きにされた状態でも、顔の右半分が凹んでいるのが、はっきりとわかりました。
 いわゆる植物状態で、半開きのまぶたからは虚ろな目がのぞいていました。
 お母さんとお父さんの悲しみようといったら、それはもう……。
 そして我々がいるのもおかまいなしに、両親そろってこう嘆いていたのです。
「なんでアキラがこんな目に遭うんだ。トシオだったらよかったのに」って……。
 そのときトシオくんもいたのですが、病室のすみに立って、首を傾げながらぼーっと天井を眺めているだけでした。
 アキラくんが大怪我を負ったことも、自分がそこにいる理由も、お父さんとお母さんの言葉の意味も、何もわかっていないようでした。
 事故から八日目の夜です。
 突然、ご両親がトシオくんを連れて失踪したんです。
 みんな、病床のアキラくんを置いて夜逃げしたんじゃないか、あるいは心中でもはかったんじゃないか……なんて不謹慎ながら噂していました。
 ですがそれから四日後、失踪していた三人が、そろって病院に戻ってきたのです。
 どこに行っていたのかとたずねても、曖昧にはぐらかすばかり。
 それに、どうも様子がおかしい。
 失意のどん底にいて、ひどくやつれていたご両親が、とっても幸せそうに笑っていたんです。
 何よりみんなを驚かせたのは、トシオくんの変貌ぶりでした。
 あんなにぼーっとしていて感情の乏しい子が、まるで事故に遭う前のアキラくんのように、瞳を輝かせてニッコリ笑っていたそうなんです。(ちょっと妙だったのが、トシオくんの足が生まれたての子鹿みたいにふるえていて、お父さんが後ろで支えていたそう……。)でもそれも最初のひと月くらいで、それ以降のトシオくんというのは、勉強もスポーツもなんでもできるようになって、人当たりもとってもよくなって、たちまち学校の人気者になりました。
 そうするとご両親も、今まではトシオくんなんていないかのようにふるまっていたのが、急にトシオくんのことばっかり目にかけるようになって。
 お母さん、それまでは毎日アキラくんのお見舞いに通っていたのに、徐々に足が遠のいて、ついにはまったく来なくなったそうです。
 一連のできごとをきっかけに、まるでアキラくんとトシオくんの中身が入れ替わってしまったみたいだと、みんな不思議がっていました。
 まあ、現実的に考えて、そんなことありえないんですけどね……。
 一家そろってあまりの変貌ぶりだったので、すごく不気味な感じがして、今でもはっきり覚えています。
 失踪していた四日間のあいだに、いったい何があったんでしょう?
 真相は闇の中。
 駄文&長文失礼しました。
 以上、ウソみたいなホントの話です。

 P.S アキラくんはその後容態が悪化して死亡しました。

 ===

 コメント(全13件)
 No.6
 Y市のM家ですよね? これ後日談あってお兄さん(=トシオくん)は大学生のときに殺人事件を起こしてその後死亡しています。その数か月後にはご両親も自殺しています。

〇××市 不審者情報   ─── 2008年10月13日

 ××警察署よりお知らせ
 12日22時から深夜にかけて、××市■■付近の公園において、不審な男性の目撃情報が複数回ありました。

《状況》数時間にわたり首を傾げたような体勢で砂場に立ち続け、向かいにあるマンションをずっと見ていた。目撃者のひとりが声をかけたが、意思疎通が不可能だった。
《不審者の特徴》中年男性、小柄、上下黒のジャージ

〇××市 不審者情報   ─── 2010年7月2日

 ××警察署よりお知らせ
 1日13時20分ごろ、××市■■付近の路上において、児童が不審な男に手招きをされる事案が発生しました。

《状況》意味不明な言葉をつぶやきながら、下校中の小学生たちに手招きをした。
《不審者の特徴》中年男性、小柄、上下黒のジャージ

〇××市 不審者情報   ─── 2010年12月26日

 26日17時ごろ、××市■■付近の路上において、30代の女性が不審な男につきまとわれる事案が発生しました。
 
《状況》童歌のようなものを歌いながら、女性の手をつかもうとつきまとった。女性が周囲に助けを求めたところ、駆けつけてきた男性が男の手を引いて連れて行った。
《不審者の特徴》中年男性、小柄、上下黒のジャージ

 受信日時:2024/6/28 13:25

 古賀様

 お世話様でございます。
 先日の集会でご説明ありましたとおり、蓬莱家のご子息におかれましては、一刻も早い救済措置が必要と思われます。
 ご承知のとおり、蓬莱様はM家の跡地に建ちました住宅の、一番右手に住んでおられますご家族です。
 古賀様もあの件を思い出されたことでしょう。めぐりめぐって数奇なご縁ではありますが、悲劇を二度と繰り返さぬためにも、どうぞ寛大なご判断をお願い申し上げます。

ながら相互扶助の会 浅間 

 受信日時:2024/7/7 18:11

 皆さま

 蓬莱家のご子息におかれましては、二日の集会において、適用者扱いとすることを決定いたしました。
 これをもって六日に古賀様が蓬莱家をご訪問、対面にてご説明を実施しましたところ、その場でご両親より正式に申し入れがございました。
 これにより、蓬莱倫也様を十一人目の適用者と正式に認定しましたので、キコク様とのご対面に向けて、早速準備を進めてまいります。

ながら相互扶助の会 浅間 

遠坂八重(とおさか・やえ)
神奈川県生まれ。2022年、『ドールハウスの惨劇』で第25回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。その他の著書に、『怪物のゆりかご』、『死んだら永遠に休めます』がある。

角川春樹事務所 ランティエ
2025年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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