6年前から海外一人旅をはじめた銀シャリ・鰻、目的は「アースヒューマンになること」。その真意とは

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パリのカフェにて。「お金を忘れたナポレオンが代わりに置いていった」という帽子と 写真:鰻さんのインスタグラム@unaginigaoeより

今年も残すところあと2か月となった。年末年始の旅行を計画している人も多いのではないだろうか。

M-1チャンピオンかつ、第60回上方漫才大賞を受賞し今ノリにのっているお笑いコンビ・銀シャリ。そのボケ担当・鰻和弘さんの趣味は、国内外問わず旅行に出かけることだ。

ただの旅行ではない。国内だったら原付バイクで、海外だったら一人で出かけるのが常だという。6年前、35歳から毎年続けている海外一人旅は、その方法がユニークで面白い。

一人旅だからこその醍醐味、訪れた国での意外な発見、自分自身の変化などを特別エッセイとして鰻さんに綴ってもらった。

(前後編の前編)

(後編)【リスボン、カイロ、台湾、バンコク。銀シャリ・鰻が海外一人旅で遭遇した忘れられない光景とは】では、ポルトガル、エジプト、台湾などでの不思議で面白い出会いを語ります。

あえて選んだ「一人旅」

「アースヒューマン」になりたい。
 初めて聞いた人は意味がわからないと思う。僕の完全な造語だ。
 アースヒューマンとは、世界を旅して、色々な国の文化、感覚、仕草などを吸収した人間、つまり地球全体の感覚を持った人間のことだ。
 僕は今「何人ですか?」と聞かれれば、「日本人です」と答える。それを「地球人です!」と胸を張って言いたい。世界の良いと思ったところだけを吸収して、地球人の性格になりたい。そして最後は宇宙へ行き、地球を見る。訪れたすべての大陸を見る。壮大な夢であり、ただの趣味だ。
 なぜそう思ったのか?
 初めは仕事で行かせてもらった海外。韓国やイタリア、タイ、台湾、シンガポールなどに行った時に気がついた。同じ人間なのに何もかもが違う。ルールも違う。すべてが違う。「知らないことだらけ」なことに、めちゃくちゃ興味が湧いた。
 そもそも僕は宇宙と地球が好きで、興味があって、関連する本もたくさん読んできた。自宅に地球儀を何種類か置いている。ふとした時、それを眺めている。ここにたくさんの人間が住んでいて、国、人種で分けられている。いや、でも宇宙規模で考えると、ただの一つの星。地球人。「地球人です」と自己紹介するのって、宇宙人に会った時だけだろう。宇宙人に会わずに「地球人です」と自己紹介する人はいない。
 そんなことを考えていたら、「僕はアースヒューマンです」と自己紹介したくなった。地球が地元のやつ。究極の自己満足かつ、「楽しそう!」と、ただそれだけの理由だ。
 思い立ったらすぐ行動。まず何をすればいいか? 世界をできるだけ見て回りたい。知っている場所をできるだけ増やしていきたいと考えた。
 本当は、日本を除いた195ヶ国全部の国に行きたいけれど、仕事をしながらでは難しい。別に老後でも? と思う方はいるかもしれないが、老いてから価値観が大きく変わるのは嫌だ。遅過ぎる。そこからでは何もできない可能性がある。
 変えるなら40代までに変えていきたい。今しかない。無理をしてでも、できるだけ行ってみよう。
 毎年時期をズラして取る正月休みの4日ぐらいを利用して行こうと決めた。6年前、35歳のときだ。
 まずどの国にしようか?
 ネットで「世界の中心」と調べる。イギリス、アメリカ、フランスなどが出てくる。アメリカは最後に回ろう。直感的にそう思った。まずはヨーロッパに行けるだけ行こう。


パリ・ルーブル美術館前で 写真:鰻さんのインスタグラム@unaginigaoeより

 休みは1月の4日間。調べるとイギリスの冬は曇天で雨が多いとの情報。じゃあフランスだ。軽い感じで決めたあと、すぐに旅行会社へ。パリで2泊3日の旅になった。
 旅には一人で出かけると最初から決めていた。ただ、フランスに行ってもフランス語は話せないし、英語もほぼ話せない。中学生レベルだ。
 ただの観光ではなく、目的は「アースヒューマン」。その国のことをなるべく知りたいから、現地在住の日本語が話せる方を探す。周りの人間にフランスに知り合いがいないか聞いて回るが、まったくいない。
 その時思う。海外ロケでコーディネーターってどうやって雇っているんだろう? 知り合いのディレクターに聞いて、フランス在住の日本人コーディネーターさんを紹介してもらった。

 この方はフランスに住んで30年の性的マイノリティでフランス人男性と結婚した方。フランスでは同性婚は合法だ。もう「世界」を感じる。フランス到着日に会う約束をした。
 2日目は一人でウロウロしようと決めて、3日目はフランス人で日本語ができる方を探したところ、なんとか見つかった。
 日本人が感じたフランス、フランス人が感じたフランスを聞けて、一人で歩いて街そのものも感じられる。知りたいことをすべて知ることができそうな気がする。こういう旅の仕方が自分的には良かった。しかし、行くまでの連絡のやり取りは大変だった。
「フランスでどこに行きたいですか?」
 この質問には答えづらかった。向こうからすると、当然旅行だと思ってしてくれる質問。「アースヒューマンになりたいんです!」では通じない。街の雰囲気や人を感じたいだけで、見に行きたい場所なんて考えていなかった。パリといえば、エッフェル塔やルーヴル美術館ぐらいしか知らない。一応目的は伝えたが、会うまではかなり怪しまれていたと思う。
 こんな感じでこれまで、フランス、スペイン、イギリス、ポルトガル、ドイツ、チェコ、オーストリア、エジプト、南アフリカなどを旅した。
 2025年はコロンビアとエクアドルを訪れる予定だったが、ニューヨークのトランジットでパスポートを無くしてしまい、南米へ行けず、そのままアメリカ旅になってしまい……。

鰻和弘(銀シャリ)/うなぎ・かずひろ
1983年生まれ。大阪府出身。2005年に橋本直とお笑いコンビ「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝。テレビやラジオ、劇場を中心に活躍し、幅広い世代から人気を得ている。2014年には特技のイラストを生かした著作『どう使うねん』を刊行した。

新潮社 波
2025年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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