実は大阪弁の敬語表現「でんがなまんがな」を駆使した明石家さんま “驚異のトーク力”に迫る『人間・明石家さんま』試し読み

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 人を笑わせることに関しては恐ろしいほどに貪欲で、70歳にして今なお第一線で活躍を続けるお笑い芸人、明石家さんま。

 率直な物言いと底抜けに明るい人柄には見る者の多くが惹かれてきたが、どこか人間離れしたそのエネルギーの奥底にいったい何があるのか――?

 番組プロデューサーとして長年、公私にわたって親交の深い著者が、豊富なエピソードとともに“お笑いモンスター”の人間像に迫ったのが本書『人間・明石家さんま』です。
 
 あまりの勢いと切れ味に「さんまのトークには台本があるに違いない」というあらぬ噂まで蔓延ったという驚異的なトークスキルについて、著者ならではの視点で解説した第一章から一部を公開します。

「緊張と緩和」を駆使する

 さんまが「笑っていいとも!」で雑談芸を開花させていた頃、まだ直接知り合う前であったが、分析癖がある私は「オレたちひょうきん族」とも違うさんまを「いいとも」で見ていて感じていた事がある。
 
 かつて若い頃に出ていたテレビ東京の深夜番組「サタデーナイトショー」(1981年~84年)とも微妙に違う。「いいとも」でバージョンアップしたさんまが放つ関西弁は、とても心地よくストレートに耳に入ってくるのだ。

 同じ若手の紳助竜介達の若者言葉の大阪弁とは違う。落語家出身のさんまのそれは大阪弁、関西弁ではあるが「でんがなまんがな」(実は大阪弁の敬語表現)などの伝統的なフレーズをデリケートに駆使しつつ、上手く“かつお節”の出汁のとれた上質なお吸い物の様な感じすら漂わせる。
 
 旧来のお笑い芸人独特の、寄席の場での“色物芸人的な感じ”が皆無で、当時流行の服を着た明石家さんまの放つ言葉や立ち居振る舞いやその姿形、存在そのものがどこまでいってもお洒落なのだ。
 
「いいとも」でさんまが独自の地位を築いたのと同じ1986年、今も伝説として語られる音楽番組「メリー・クリスマス・ショー」(菅原正豊演出・日本テレビ)が制作された。桑田佳祐が中心となりプロデュースしたこの番組には、松任谷由実を始めとして、原由子、吉川晃司、鈴木雅之、忌野清志郎、チェッカーズ、アン・ルイス、山下洋輔など錚々たる大物アーティストが参加したが、彼らと並んでお笑い芸人として唯一出演したのが明石家さんまだった。これには桑田佳祐の依頼があったとされている。このことからわかる通り、さんまは当時からもはや色物の領域を超えていたのだ。
 
「いいとも」の雑談コーナーの話に戻る。さんまの横に立つ、こちらも天才のタモリも流石に心得ていて、高級な鯛茶漬けの横に添えられた香の物の如くさんまの話の流れを増幅する事はあっても決して邪魔などしない。  

 関西弁のドスの利いた発声などまるで使わずに、さんまが意図的に独自のフィルターをかけて言葉をチョイスし声のトーンにも最大限の注意を払っている様に思えた。 
 
 今思えば、それはさんまが全国区で認められトップの芸人としてのし上がる為に必要な手段であり自己表現の形だった。これは後年になって直接さんまと仕事をして本人に接した時にも感じた。「この人とは何時間でも話していられる」などと思ったものである。

「いいとも」の時、「日本一のサイテー男」と自らを呼びながら、当時から他人の失敗などには全く言及せずに自分のずっこけ振りや人間的な情けなさを強調していたさんまだが、実質は「日本一モテている男」でもあったので、さんまが映る画面からは何やら色気の様なものさえ立ち上っていた。
 
 もちろんモテ男だから男女間の話や恋愛に関する話題も出ていた。その起源かはわからないが「エッチする」という言葉を全国区に広めたのは間違いなくさんまである。フリートークの放送は毎週金曜の昼間である。「セックスする」「ラブホテルに入る」など直接的表現は時間的に品がないと考えたのか、さんまは意図的にこの造語を使った。おかげさまで男女間の性行為に対するある意味でのハードルが日本全国でかなり下がったと想像出来る。大袈裟に言えば、さんまはそれ以降の「日本の男女の恋愛と性文化そのもの」を激変させてしまったのだ。

 さんまはデリケートにも「キス」という何か強引な感じがする言葉を少しだけ言い換えて「キッス」と言う。まさにそれはカップル同士の「キスの壁」を崩し、「キッスしない?」というフレーズによって日本中の男性が女性を(もしくは女性が男性を)口説きやすくなってしまった。このさんま独自の言葉の操り方の繊細さと強烈さに関するエピソードは枚挙にいとまがない。
 

吉川圭三
1957(昭和32)年東京下町生まれ。早稲田大学理工学部卒。1982年日本テレビ入社、「世界まる見え!テレビ特捜部」「笑ってコラえて!」等のヒット番組を手掛ける。ドワンゴ、KADOKAWAを経て2025年10月現在は映像プロデューサー。『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』等著書多数。

新潮社
2025年11月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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