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- 知性の未来
- 価格:3,960円(税込)
AI起業家でありながら、進化神経科学と知性をテーマにした多数の研究論文を査読付きジャーナルに発表しているマックス・ベネット氏。
人類とAIの未来を考え続けた成果をまとめたのが『知性の未来』だ。生命と知性の壮大な歴史を最新のAI研究と比較しながら辿り直し、「5つのブレイクスルー」が知性を発展させてきたことを解き明かす。
人間の知性とAIは何が違うのか。ここからどのように発展していくのか。ここでは、「プロローグ」の一部を抜粋・編集して公開する。
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1962年9月、世界は宇宙開発競争、キューバミサイル危機、新しいポリオワクチンの登場で大騒ぎになっていたため、あまり報道されなかったが、おそらく人類史上それらと同じくらい重大で、記念碑的な出来事があった――来たるべき未来がはっきりと予測されたのがこの62年の秋だった。
100年後の未来を生きる家族を描いたアニメ『ジェットソンズ〔邦題『宇宙家族ジェットソン〕』が、アメリカの最新式のカラーテレビで放映されたのだ。これはホーム・コメディという体裁をとっていたが、実際には未来の人類がどのように生活して、どんなテクノロジーが彼らのポケットに入り、彼らの家を飾っているかを予測していた。
『ジェットソンズ』は、ビデオ通話、薄型テレビ、携帯電話、3Dプリンター、スマートウォッチという、1962年にはとても信じられなかったが、2022年にはどこででも見かけるようになったテクノロジーを正しく描いていたのである。しかし、我々が未だ創ることができないでいるテクノロジーも含まれていた。未来の学者の功績となるべき、ロージーという名の自律型ロボットだ。
ロージーはジェットソン家の世話係で、子どもたちの面倒を見、家の手入れをしていた。6歳のエルロイが学校で苦労していたとき、宿題を手伝ったのはロージーだった。15歳の娘ジュディが運転に興味を持ったとき、教えたのはロージーだった。ロージーが食事をつくり、食卓を整え、皿洗いをした。
ロージーは忠実で、敏感で、すばやく冗談を返すことができた。彼女は家族にいさかいや誤解が生じていると、すぐに気がつき、それぞれが相手の目線に立って物事を見られるように手助けをした。一度など彼女はエルロイが家族のために書いた詩に感動して涙を流している。ロージー自身が恋に落ちたこともある。
つまり、ロージーは一人の人間としての知性を持っていた。複雑な仕事を物理的世界で遂行するために必要な推論能力や、常識や、運動技術だけでなく、我々の社会的世界でうまくやっていくために必要な共感能力や、相手の立場に立つ力や、社会的技巧をも身につけていた。ジェーン・ジェットソンの言葉を借りれば、ロージーは「家族の一員のよう」だった。
『ジェットソンズ』は、携帯電話やスマートウォッチが登場することを正確に予測していたが、我々はまだロージーのようなものは手にしていない。この本が印刷される時点では、ロージーのとっていた最も基本的な行動さえ機械で実現することができない状態である。
「食器洗い機に食器をセットする」だけのロボットでも、最初につくれたならたちまちヒット商品となって、企業は大成功するだろう。この試みはすべて失敗してきた。それは根本的には「機械的」問題ではなく、「知性的」問題だからだ。シンクの中の物を識別し、適切に掴み上げ、何も壊さずに詰める能力の実現は、以前考えられていたよりもはるかに難しかったのである。
もちろん、まだロージーをつくれていないとはいえ、1962年以降の人工知能(AI)分野の発達は目覚ましいものがある。AIは現在、チェスや囲碁をはじめとする高い技術が必要な数多くのゲームで世界一の人間を打ち負かすことができる。またAIは、人間の放射線科医と同じように、放射線画像から腫瘍を見つけることができる。そして自律的に車を運転できるようにもなりつつある。
ここ数年のこととしては、大規模言語モデルに技術革新があり、2022年秋に登場したChatGPTなどでは、詩の創作や、言語間の自在な翻訳、そしてプログラムのコードを書くことさえもできるようになった。地球上すべての高校教師が残念がっていることだが、ChatGPTは、おそれを知らない生徒が何を質問したとしても即座に答え、驚くほど独創的でよいエッセイを作成することができる。ChatGPTは司法試験に合格することもでき、90%の弁護士よりも良い点数を取る。
どっちなのだろうか。ロージーのような人間同様の人工知能がついに誕生するところまでもう来ているのか、あるいは、ChatGPTなどの大規模言語モデルを採用した対話型AIは、人間レベルにはまだはるか遠く、単に今後何十年と続く長い旅路における、直近の一つの成果に過ぎないのだろうか。
我々がこれらの疑問に答えるのに苦労するのは、自分たちが再現しようとしているもののことをまだ理解していないからである。要するに、これらの疑問はすべて、AIについての疑問ではなく、人間の知性そのものの性質についての疑問なのである。我々の知性はどのように働くのか、なぜそのように働くのか。そしてこれからすぐに見ていくように、最も重要なのは、どのようにそれが生まれたのかということなのである。
マックス・ベネット Max Bennett
ニューヨーク市に拠点を置くAI企業Albyの共同創業者兼CEO。ワシントン大学を首席で卒業し、経済学と数学の学士号を取得。同大学では、最優秀経済学優等論文に与えられるジョン・M・オリン賞を受賞した。ゴールドマン・サックスのトレーダーを経て、AIを使用して世界最大手のブランドがマーケティングをパーソナライズするのを支援するBluecoreの共同創業者兼最高製品責任者。同社は最近、評価額が10億ドルを超え、Inc500の米国で最も急成長している企業に何度もランクインし、2018年のGlassdoorの「働きがいのある会社」リストにも選ばれた。AI関連技術の特許を複数保有しており、進化神経科学と知能をテーマにした査読付きジャーナルに多数の研究論文を発表。2016年、マックスはフォーブスの30歳未満の30人のリストに選ばれました。現在は妻のシドニーと愛犬のチャーリーとともにニューヨークのブルックリンに住んでいる。
訳者 恩蔵絢子 Ayako Onzo
1979年神奈川県生まれ。脳科学者。東京工業大学大学院後期博士課程修了(学術博士)。専門は人間の感情のメカニズムと自意識。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書にジョナサン・コール著『顔の科学』、アンナ・レンブケ著『ドーパミン中毒』、茂木健一郎著『IKIGAI』など。金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員。
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