「“よく眠れる音楽”にエビデンスはありません」専門家が語る、睡眠不足のリスクと理想の睡眠環境

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睡眠中、からだではさまざまな修復作業が、脳では栄養補給と掃除が行われている

 日本人の睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最下位。メディアでの報道でご存知の方も多いでしょう。

 全体平均より約1時間も短いという結果もあり、日本人の睡眠不足に注目が集りました。

 では、睡眠不足が続くと、どのような影響が出るのでしょう。

 睡眠研究の第一人者で、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長の櫻井武さんは、睡眠不足はさまざまな疾患の発症リスクが高くなるといいます。

 いったいどのようなリスクがあるのでしょうか。

 睡眠不足がもたらす影響や理想の睡眠環境について櫻井さん監修の『サクッとわかるビジネス教養 睡眠の新常識』から一部抜粋・編集してお届けします。

睡眠不足は健康の敵! 疾患のリスクを高める

 睡眠は単なる休息ではありません。

 睡眠中、からだではさまざまな修復作業が、脳では栄養補給と掃除が行われています。

 睡眠不足が続くとそれらがうまく機能せず、

 肥満、
 高血圧、
 糖尿病、
 循環器病、
 メタボリックシンドローム、
 うつ病、
 認知症

 など、さまざまな疾患の発症リスクが高くなります。

■睡眠時間は脳のお掃除タイム

 睡眠中は、脳脊髄液が老廃物を除去する機能が、活発になっています。

 睡眠時間は、脳にとって、情報を整理する時間であり、栄養補給タイムであり、お掃除タイムでもあるのです。

■ノンレム睡眠中は記憶の定着が行われている

 これまで、記憶や学習に重要な役割を果たしているのはレム睡眠だと考えられていました。

 しかし、むしろノンレム睡眠こそが記憶の強化に貢献しているようです。

 起きているときにえた記憶は、神経細胞同士をつなぐシナプスという装置にたくわえられます。

 シナプスは減ったり増えたりします、増えすぎると脳が機能しなくなるため、重要な記憶をたくわえたシナプスは強化される一方で、あまり重要ではない記憶をたくわえたシナプスは刈り込まれます。

 この一連の作業は、ノンレム睡眠中に行われているという説が、現在では主流です。

 ノンレム睡眠中に脳がスリープモードになるのは、感覚系の入力や筋肉への出力を控えて記憶の整理・強化に集中しているためだと考えられます。

 また、ノンレム睡眠のN3は「深睡眠」とも呼ばれ、シナプスの刈り込みのほかにも、心身にとって重要なはたらきをしています。

●疲労回復:
副交感神経が優位になり筋肉の緊張がゆるむ。エネルギー消費が抑えられ、体力も回復する。

●免疫強化:
感染症やがんといったさまざまな病気からからだを守る、免疫力が増強される。

●美肌・ダイエット効果:
成長ホルモンの分泌により、肌のターンオーバーや代謝が促される。

●ストレス解消:
ストレスホルモンであるコルチゾールが適切に分泌されることで、メンタルのバランスが整う。

睡眠不足と疾患の関係

【肥満】
 睡眠時間が短いと食欲を抑制するホルモン(レプチン)が少なくなり、食欲増進ホルモン(グレリン)の分泌が増えます。

 また、脂肪の蓄積も促進されます。

 このような理由から、寝不足は肥満のリスクを高めます。

 世界各地で行われた大規模調査からも、睡眠時間が短い人ほど太っている傾向があることがわかっています。

【うつ】
 睡眠時間が不足するとストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、気分の落ち込みや抑うつ傾向が強くなります。

 その結果、うつ病を発症するリスクが高まると考えられます。

 ジョンズ・ホプキンズ大学で行われた研究では、慢性的な不眠はうつ病の発生リスクが3倍になると報告しています。

【認知症】
 アルツハイマー型認知症の原因の1つとされるアミロイドβというたんぱく質も、脳にとっては老廃物です。

 レム睡眠が減るとアミロイドβの掃除が間に合わずに脳に蓄積され、認知症を発症するリスクが上がります。

 オーストラリアのスウィンバーン工科大学が行った調査では、レム睡眠が1%減るごとに認知症のリスクが9%増加していました。

眠りを左右する三大環境因子とは?

 睡眠になんらの不満があるなら、寝室の環境を整えてみましょう。

 眠りを左右する三大環境因子は「光」「温度」「音」です。

(1)光
「眠るときは完全に真っ暗に」するのが望ましく、寝室へのスマホの持ち込みはNGです。

 また、朝起きたら太陽の光を浴びるようにしましょう。

(2)温度
夏場の寝室の温度設定は24℃、冬場は20℃くらいがよいでしょう。

(3)音
寝室は無音がベスト。「眠れる音楽」は効果が薄いです。

 とはいえ、何を心地よいと感じるかは人によって違うもの。

 自分に適した環境をつくりましょう。

櫻井武
筑波大学医学医療系教授、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長。医学博士。研究テーマは「神経ペプチドの生理的役割」、とくに「覚醒や情動に関わる機能の解明」「新規生理活性ペプチドの検索」「睡眠・覚醒制御システムの機能的・構造的解明」。筑波大学大学院在学中に、血管収縮因子エンドセリンの受容体を単離。テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターに移り、柳沢正史教授とともにナルコレプシーの発症にかかわるオレキシンを発見。冬眠様状態を誘導するQニューロンを発見、マウスやラットに人工冬眠様状態を惹起することに成功。睡眠研究の第一人者。著書に『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』『睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか 改訂新版』『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』(以上、ブルーバックス)など。

Fun-Life!
2025年12月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新星出版社

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