家族のために書かれた未発表の連作など、谷川俊太郎の遺作を含む最後の最新詩集  『ひとりでこの世に』試し読み

試し読み

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

2024年11月にお亡くなりになった谷川俊太郎さん。『二十億光年の孤独』でデビューなさってから72年、90歳を超えてなお、新境地に挑み続けられました。本書『ひとりでこの世に』は、遺作を含む最新作と単行本未収録の作品、家族のために書かれた未発表の連作などをコレクションした最新詩集です。冒頭の「死んでから」など6篇の詩を公開いたします。

 ***

死んでから

死んでからもうずいぶんたつ
痛かった思い出が死後はむず痒くなった
私という存在が何かに紛れてゆくが
その何かを呼びたくとも
言葉はもう意味をなさない
見えてはいないのに青空が身近だ

生きていた頃はなにかと騒がしかったが
いまは静かになった
前には聞こえなかった音が聞こえる
どこか遠くでオーケストラが調弦している
と思ったらそれは虹の音だった
私の骨は粉になったらしい
それを海に撒き散らしたらしい
私の好みでは草原でもよかったのだが
老いては子に従えと格言は言う

これから何が起きるのか
もう何も起こらないのか
もうちょっと死んでみないと分からない

私は良い人間だっただろうか
もうおそいかもしれないが考えてしまう

死んでからも魂は忙しい

谷川俊太郎 Tanikawa Shuntaro
1931年東京生まれ。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。以来8000を超える詩を創作、海外でも高い評価を受ける。数多くの詩集、エッセイ、絵本、童話、翻訳があり、脚本、作詞、写真、ビデオも手がける。1983年『日々の地図』で読売文学賞、1993年『世間知ラズ』で萩原朔太郎賞、2010年『トロムソコラージュ』で鮎川信夫賞、2016年『詩に就いて』で三好達治賞など。その他の作品に『六十二のソネット』『ことばあそびうた』『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』『定義』『よしなしうた』『はだか』『私』『ベージュ』『虚空へ』など。2024年、92歳で逝去。

装画・挿画 酒井駒子/装幀 新潮社装幀室

新潮社
2026年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社新潮社のご案内

1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

▼新潮社の平成ベストセラー100 https://www.shinchosha.co.jp/heisei100/