現地の家族と交流して「大反省」…世界一周した日本人女性が明かす“印象が180度変わった国”とは?

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※画像はイメージです

27歳のころ、ふと会社で「自分はどのくらい生きてきたのだろう?」と計算してみたら、ちょうど1万日くらいだったと語るのは、ライターの白石あづささん。それから少し後、会社を辞めて“心を守る夜逃げ旅”として世界一周の旅に出ました。

世界各地を巡る中で、白石さんには「現地の人と仲良くならないようにしよう」と心に決めていた国があったといいます。しかし、実際に現地を訪れて人々とうっかり交流してしまい、「大反省」することに……。その国への印象は、最初に抱いていたものから180度変わりました。

そんな旅の様子を、白石さんの著者『逃げ続けたら世界一周していました』(岩波ジュニア新書)より、一部抜粋・再構成してお届けします。

「なんとなく怖い国」だと思っていたイラン

 皆さんの心の中で「なんとなく怖いと思っている国」ってありませんか?

 軍事政権や監視の厳しそうな共産主義の国、そして伝染病の多い国や殺人や強盗などが多発する治安の悪い国もあります。その「なんとなく怖い国」リストに「イスラム教の国々」がありました。実際は同じイスラム国家でも国によってだいぶ差があることを旅を通して知ったのですが、特にイランは、イスラム教の国の中でも戒律がきびしい国だと聞いていました。結婚前の男女が手をつないだりしてはいけないし、女の人は必ずスカーフをかぶらないと出歩けません。もちろん禁酒です。日本と比べ、なんと窮屈なのでしょう。

 かつて「世界の半分(がここにある)」と言われたほど立派なイランの遺跡や美しいモスク(イスラム教の寺院)は見たいけれど、酒と自由を愛する私としてはパッパと見たいものだけ見て、次の国へと向かおうと思いました。それに敬虔なイスラム教徒の人から見たら、信仰心のない「なんとなく仏教徒」である日本人の私は不真面目に見えるかもしれません。いろいろ聞かれたら面倒だし、あまり現地のイラン人と仲良くならないようにしようと心に決めました。

夜行バスに乗ると「猛烈な親切」が待っていた

 私は中国から中央アジアの国々(イスラム教の国だけどそれほど戒律はきびしくない)を巡った後、イランのマシュハドという北部の街に到着しました。そこから観光地のイスファハーンへと向かうため、夜行バスに乗りました。スカーフを頭に巻いて長めのコートを羽織っているものの、平たい顔に細い目の私は、目が大きく彫りの深いイラン人乗客の中で、どうしても目立ってしまいます。

 隣の席のチャドル(編集部注:体全体を覆う黒系の色の布でイランの女性が伝統的に身に着けるもの)を着た60歳くらいのおばさんが、ペルシャ語でしきりに話しかけてくれるのですが、まるで分かりません。トイレ休憩のため真夜中のドライブインでバスが止まりました。すると同じバスに乗っていた白い髭のおじいさんが、私にザムザムというコカ・コーラそっくりのジュースを買ってきてくれました。お金を渡そうとしても受け取りません。

 別の女性が持っていたパンを、さらに隣の席のおばさんはプラムをくれます。おまけに皆、珍しい東洋人に興味津々で、何やらいろいろ聞いてきますが、誰も英語を話せないので、私は首を傾げるばかりです。イスラムの人とあまり関わらないようにしようと用心していたのに、旅のはじめからめちゃくちゃ人々が関わってきて猛烈に親切にされてしまいました。

「実はちょっと怖かった」……親切なおばさんの本音とは?

 朝4時前にイスファハーンに到着しました。まだ冬の空は暗く、私はバスターミナルそばの適当な安宿に向かおうと大きなリュックを背負いました。ところが、隣の席のおばさんが私の手をつかんで放しません。どうやら「暗いし危ないからうちに来なさい」と言っているようなのですが、断っても他の乗客や運転手たちも「彼女について行きなさい」とジェスチャーして背中を押してきます。

「いや、皆さん、誰もこのおばさんの素性を知らないでしょう。悪い人だったらどうするのよ?」と焦りましたが、おばさんは「ほら、早く」とぐいぐい引っ張ります。まあ、こんな夜中にホテルの受付の人を叩き起こすのはかわいそうだし、とりあえず太陽が昇るまでと思ってお邪魔することにしました。

 バスターミナルから真っ暗な道を20分ほど歩いたところに、プレハブ小屋のような簡素な建物がありました。中に入るとおばさんの子供たち……といっても20代から30代の女性ふたりと男性が待っていました。

 彼らはお母さんがこんな時間にいきなり外国人を連れてきたことにびっくりしたようですが、後で英語のできる二番目の娘さんに聞いたら、実はお母さんも「顔が平たいし、言葉も通じないし、実はちょっと怖かった」そうなのです。だけど、こんな夜中に女の子をほっとけないし、「旅人に親切にしなさい」というイスラムの教えがあるから、勇気を振絞って声をかけ、家に連れて帰ってきたのだといいます。

日本の家のようにイラン人家族と布団で雑魚寝した私の「大反省」

 リビングと息子の部屋だけの1DKの小さなこの家に外国人が来たのは初めてだとか。日本人の私が何を食べるのか分からないので、家にあるパンや果物や煮込み料理を片っ端から並べてくれました。床に布を敷いてピクニックのように食事をする習慣のようです。私が何でもよく食べるので、一家は喜びました。

 それからまるで日本の家のように布団を並べて雑魚寝しました。明るくなるまでと思っていたくせに、私は爆睡してしまい、起きたら昼でした。入国前、現地の人には関わらないようにしようと決心したことなどまるで忘れて一緒にモスクに行き、たくさん話をして、最初の決意とは裏腹にすっかりイラン人に打ち解けていました。

(中略)

 イスラムの国の人は、異教徒を受け入れず頑なで怖そうだというのは、私の勝手な妄想でした。こうして訪れてみれば、顔も言葉も文化も違う異教徒の私にも好奇心を示し、受け入れて一生懸命にもてなしてくれたのです。なぜもてなしてくれるのかというと、イスファハーンの家族もそうですが、イスラム教の「旅人には親切にせよ」「お互いに助け合いなさい」という教えが根本にあり、それを大事にしているのです。

 そして宗教や国は違っても、日々、笑ったり泣いたり、娯楽を楽しみ、好奇心旺盛な同じ人間なのだと、そんな当たり前のことを想像できなかった私は、おおいに反省したのでした。

白石あづさ
ライター&フォトグラファー。大学卒業後、地域紙の記者を経て、3年に渡る世界放浪後フリーに。アジア、ユーラシア、中南米、アフリカ、南極などこれまでに訪ねた国は100以上。著書に『逃げ続けたら世界一周していました』(岩波ジュニア新書)、『中央アジア紀行ぐるり5か国60日』(辰巳出版)、『世界のへんな肉』(新潮文庫)などの旅行記のほか、『お天道様は見てる尾畠春夫のことば』『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(ともに文藝春秋)などのノンフィクションがある。

岩波書店
2026年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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