「自分は他の子に劣っている」という劣等感が…15歳の当事者が語る“あなたが知らない「読み書き障害」の世界”

エッセイ・コラム

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クラスに一人。全国の小・中学校に32万人もいる「読み書き障害」。頭が悪いわけではないはずなのに、字が読めない、字が書けない。私はその「書けない」のほうだ――。

14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』(新潮社)で自身の書き障害を綴った朝野幸一さん(15)。当事者はどんな世界を見ているのか、特別に文章を寄せてもらった。

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あなたが知らない「読み書き障害」の世界 朝野幸一

 例えば私が結婚式に出かけたとします。そもそも私は15歳になったばかりで、招かれることもそうはないでしょうが、出かけたとします。受付で「朝野幸一です」と名乗ると、受付の青年が仮にこう返したとしましょう。「では、こちらにご芳名と、あと新郎新婦のお二人にメッセージをいただけると…」「あ、ちょっとそれは遠慮しておきましょう。あの〜、つまり、私、字が書けないんです」
 変なセリフですが、別に物理的にペンが握れないわけではないのです。たとえば、氏名・住所・電話番号ぐらいは書けます。
 加えて、小学一年生レベルの漢字とひらがな、カタカナ、数字、あとはアルファベット。けれど、書けるのはそのぐらいなものです。

 この「書けない」というのは、別に勉強をサボった結果ではありません。小学4年生ぐらいのころまでは、どうにか漢字を脳みそに詰め込もうと、母と一緒に語呂合わせを記載したカードを作り、毎日2、3時間ほど漢字の書き取りを練習したりもしていましたが、前述の限られた文字以上に覚えることはできず、小学1年生レベルの簡単な文字と頻繁に書く文字(氏名や住所ぐらい)しか覚えられませんでした。

 つまり、私は「書き障害」なのです。悲しいことにあまり日本では知られていないので、初耳という方も多いのではないでしょうか。
 書き障害を含む読み書き障害(Dyslexia)は、その名の通り、読み書きに大きな困難が伴うことが特徴の限局性学習症(学習障害・SLD/LD)です。そのうち、私は字を書くことだけができません。


著者が小学1年生のときに超大型重機「バケットホイールエキスカベータ」について書いたプリント。「り」「じ」「な」など、ところどころ不完全な文字も


 書き障害だといろいろと苦労が絶えません。
 当たり前ですが、漢字テストはどれだけ勉強しようと平均点以下ですし、あまりに書くことが苦手すぎてノートすらまともに取れません。というか、学校は基本的には紙社会なので、何をするにも手書きがついて回ります。授業ではもちろん、修学旅行ですらしおりに記入することはたくさんあります。私がこれらをすべて手書きで行うとなると、授業のプリントを埋めるにも、作文を書くにも、日記をつけるにも他の児童生徒の後塵を拝することになるわけです。私は自分の持つ考えをうまく言語化することも、授業をまともに受けることもできず、やがて授業への参加を放棄するようになりました。実際、小学4年生頃には、自分は他の児童と比べて劣っているのではないかという劣等感を常に抱えていたように思います。
 一方で、現にこうやってこの文章を書いていることからもわかるように、私はタイピングによって文章を書くすべを身に着けていました。

 自分が書き障害だと知ったのは小学5年生の時でした。

 同じ頃、障害者差別解消法による合理的配慮(ある人が日常での生活をするにあたって著しい障壁がある場合、その障壁を取り除くことでその人が生きやすくなるように調整すること。この場合、障壁は手書きをすること)によって、学校でもIT機器を使って授業を受けたり、宿題を提出したり、テストを受けることができる、ということも知りました。
 学校との交渉を経て、合理的配慮を受け始めたのは小学6年生になるころでした。
 方法は違うにせよ、文章を書き出すことができるようになって、私はようやく「手書きができない」という劣等感をなくすことができました。


本の原稿執筆時に使用していたキーボード。後に水没した

 私は多分幸運なのでしょう。様々な要因が重なった結果、私は自分の能力を存分に発揮することができたのですから。
 しかしながら、読み書き障害なのは私だけではありません。文部科学省が令和4(2022)年に実施した調査結果によれば、小・中学生のうち6.5%に学習障害があり、読み書き障害だけに限定したとしても3.5%にその可能性があるとされています。現在の小・中学生の総人口は約891万人(2025年)、すると全国の読み書き障害をもつ可能性がある小・中学生は31万人程度になります。これはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの一週間あたりの平均来場者数とほぼ同じです。また、35人学級のうち、平均で1.2人には読み書き障害の可能性があることになります。

 これは、まだかなりの数の読み書き障害者がそのハンディの陰でその能力を発揮できていない、ということを示しているように思います。かなり突飛な発想に思えるかもしれませんが、実際に読み書き障害に気づくこともなく、苦しんでいる当事者たちがいてもまったく不思議ではありません。
 これだけの人数がいながら、あまり世間に認識されていないというのは不自然に映るかもしれません。それは、この障害の特性として、他の理由で勉強ができていない児童生徒との区別が難しく、もともとの認知度も低いために、読み書き障害の存在に気づくことができない事が多いからでしょう。

 その児童生徒たちは、今日も想像を絶する苦労と絶望を経験しているかもしれません。もう学ぶのを諦めてしまったかやもしれません。あるいは、ーかつて私がそうであったように、彼らもまた、読み書きできないことに絶望し、そんな自分を嫌っているかもしれません。
 しかし、私は合理的配慮がそんな児童生徒の自己肯定感を支えるものであり、彼らの人生を救うことができる制度であると感じているのです。

 拙著『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』(新潮社)では、書き障害とはどんなものなのか、それによって私に何が起きたか、合理的配慮によって何が変わったのか、などの心境の変化や、私が感じた書き障害の「実際」について更に詳しく、そして当事者が社会で更に活躍できるような制度設計の提言などを綴りました。読み書き障害にご興味のある方に届けばと思います。

 一日でも早く、読み書き障害にまつわる問題が解決しますように。

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朝野幸一
2010年生まれ。東京都下に生まれ、幼少期から中学時代までを過ごす。漢字を学ぶ頃から、文字を手書きすることが苦しい「書き障害」に悩み、小学5年生の時に、障害と認定された。発達障害の症状があり、空気を読むこととうるさい環境が苦手。得意なことは読書と執筆。趣味はピアノとカメラ。『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』が初めての著書となる。

Book Bang編集部
2026年8月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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