
2017年に46年ぶりの訪日をしたサウジアラビアのサルマン国王と、当時皇太子として歓待された天皇陛下
外交の場でのトップの振る舞いは常に注目を浴び、厳しい視線が向けられる。高市早苗首相のトランプ米大統領へのボディタッチその他は「親密さのあらわれ」「コミュ力発揮」といった賞賛と共に、「媚びている」といった批判も散見される。先日のG7サミットにおいては、会話の輪に入れていない、といった指摘をする人もいた。
石破茂前首相も、一人でスマホばかりいじっていたとか、相手があいさつに来た際に座ったまま応じていたといったことが批判の対象となった。
こうした批判は歴代首相においても見られたもので、日本におけるある種の有名税といった側面もあるのかもしれない。実のところ、欧米各国はそこまで日本の首相の振る舞いに強い関心を持っていないことが多い。
対照的に、天皇陛下ら皇族が海外に行った場合、その振る舞いが批判されることはまず見られず、賞賛の声があがるのが定例である。これは日本国内のメディアが忖度して「大本営発表」をしているからではない。天皇陛下御夫妻の6月のオランダ、ベルギー訪問に関しても好意的な見方が支配的である。
現在、世界にある君主国の中で最古の歴史を誇るのが日本の皇室だ。他の王室はもちろん、すでに王室を失った国々からも皇室は深い敬意を向けられている。敗戦後、世界から厳しい目を向けられていた日本の印象が皇族の努力によって大きく変わったというのは事実である。
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- 皇室はなぜ世界で尊敬されるのか
- 価格:946円(税込)
ジャーナリストの西川恵氏は、著書『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』の中で、次のように述べている。
「皇室は政治にかかわらない。しかし皇室が日本にとって最大の外交資産であることは論を俟(ま)たない」(「はじめに」より)
そして皇室を外交資産たらしめているのは、その長い歴史と伝統の蓄積に加え、「それに立脚した先の両陛下を中心とした皇族の人間力ともいうべきものだ」(同)と指摘している。
世界の受け止めの一例として、ここでは同書からアラブの王室が皇室を尊敬する理由を見てみよう(以下、同書より抜粋・再構成しました)。
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アラブの王室が皇室を尊敬する理由
中村滋(しげる)氏は2006年から09年までの3年間、駐サウジ大使を務めたが、「サウジの王族は日本の皇室に尊敬と強い関心を寄せている」と指摘する。在任中、日本からの要人がアブドラ国王(在位05年8月~15年1月)に謁見するとき、中村氏は必ず陪席したが、国王の最初の発言は決まって「天皇陛下はお元気でおられるか」との質問で始まった。
同国王は皇太子時代の1998年10月、公賓として来日し、東宮御所で徳仁皇太子(注・現天皇)夫妻から夕食のもてなしをうけた。翌日には天皇(注・現上皇)が徳仁皇太子、小渕恵三首相(当時)らを交えた昼食会をもった。この訪日を通して皇室にアブドラ皇太子がひと際強い印象を抱いたと中村氏は感じ、国王になってから日本の謁見者に冒頭、決まり文句のように「天皇陛下はお元気でおられるか」と言う言葉にも懐かしさのこもった響きがあったという。ちなみに先に触れた徳仁皇太子、雅子妃の94年の中東4カ国歴訪でサウジに立ち寄った際は、国王になる前のアブドラ皇太子がもてなしている。
長年、サウジの駐米大使を務めたバンダル・ビン・スルタン王子は帰国後、国家安全保障会議の事務局長という重要ポストに就いた。面会が極めて難しいことで知られたが、中村氏とは二度私邸で会い、イランとの水面下の交渉などを明かしてくれたという。この時、事務局長は、「自分は通常、外国の大使には会わないが日本は例外である。なぜなら日本の皇室を尊敬しているからだ」と述べたという。04年9月、徳仁皇太子がブルネイのビラ皇太子の結婚式に参列した際には、スルタン王子と席が隣同士になり、歓談している。
皇室に対するサウジの敬意について中村氏はこう指摘する。第一に、日本の皇室が万世一系と言われる、世界でも珍しい長い歴史と伝統を保持していること。第二に、皇室が日本国民の幅広い尊敬と支持を集めていて、「自分たちもこうありたい」という願望。第三に、華美や贅沢から一線を画した精神性の高さ、だ。これは先に触れたように、彼らが信奉するイスラム教に通じるものがある。
奥田紀宏(のりひろ)氏は駐サウジ大使を15年から17年末まで務めたが、サウジの王族が日本を訪問するときは、なるべく徳仁皇太子に空港に出迎えてもらえるよう外務省を通じて宮内庁に要望していた。皇位継承順位第1位の皇太子の出迎えは「自分たちを手厚く遇してくれている」との証になるからだ。奥田氏の要望は聞き入れられたこともあれば、皇太子の都合がつかなかったこともある。
実はサウジだけでなく、アラブの王室が日本の皇室を尊敬していることは、アラブに通じた人の共通認識である。70年代の石油危機のとき、大協石油(いまのコスモ石油)の中山善郎社長は、アラブ諸国から石油の安定供給を受けるには「皇室外交があれば最高」「菊の御紋の威光はアラブの王様に絶大」と語っている。
シンプルな美しさへの感嘆
サウジのジャーナリストが2018年10月、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件で、サウジのムハンマド皇太子が殺害を指示したのではないかと報道されている。事実は不明だが、石油依存からの脱却など経済の近代化に着手する一方、女性が車を運転することを認め、映画館も解禁するなど、「乱暴なところもあるが、改革者」と見られてきた同皇太子のイメージが大きく傷付いたのは間違いない。
実はムハンマド皇太子はまだ副皇太子だった16年8~9月、公式実務訪問賓客として日本を訪れ、9月1日に皇居・御所で天皇に謁見した。このとき二人が向かい合って話している写真が大きな話題となった。
天皇への謁見は皇居・御所の一室で行われた。ここで天皇が「東日本大震災の際にお見舞いをいただいたことに感謝します」と述べると、副皇太子は「それは我々の義務です。日本は極めて重要なパートナーなので、困っているときにはそばに寄り添うのが真の友人です」と語った。
この時の写真がフェイスブックやツイッター(注・現X)などSNSを通じて世界で大きな反響を呼んだ。何の飾り気もない部屋で、装飾といえば草花を活けた花瓶が一つあるだけ。障子から明かりが差し込む凜とした気品ある空間の中で、天皇と副皇太子が向かい合い、言葉を交わしている。
フェイスブックとツイッターの声――
「この写真を見ると嬉しく感じる。サウジアラビアの副皇太子が、シルクやジュエリーなどの派手な装飾に頼らずとも、とても穏やかな気持ちで対談されていることが分かるからだ」「本当に素晴らしい場所だ。うるさくないシンプルな作りで、大事な部分一点にまとめられている。日本らしいよ!」(サウジアラビア)
「日本の天皇陛下と最高のミニマリズムの形」(カタール)
「これこそが真のミニマリズムだ!」(マレーシア)
「金も装飾もなく、衝撃的な一枚だ。この謙虚さが美しいのだろう」(米国)
「写真は最低限のものしか置かれていないにもかかわらず、部屋から美しさや気品があふれている」(モロッコ)
ミニマリズムとは、華美を排したシンプルさに真の美しさを見出す装飾やデザイン、またそれに基づく考え方、生き方を指す。両陛下の私邸である御所もそうだが、皇居・宮殿も、そこに足を踏み入れた外国の賓客の多くが、そのたたずまいに感嘆する。装飾を排し、趣味のいい花瓶がただ一つ、広い空間に置かれているだけ。これでもかと装飾を重ねていく欧米のインテリアとは対極の引き算の美だ。ここに日本の精神性を見る賓客は多い。
先の奥田紀宏氏は副皇太子の訪日に同行し、サウジに帰任して謁見の感想がSNSで出回っているのに気が付いた。「写真がコメントとともにSNSで次々とリツイートされ、サウジ国内で拡散していました」と語る。
同氏は同国を含めた湾岸諸国の日本や皇室への親近感の底流には、日本人はあまり気付かないことだが「自分たちも同じアジアの人間」という感情があると指摘する。加えて、日本人が欧米のような上から目線ではなく、対等に見てくれることへの好感もある。だれに対しても等しく平等に接遇することを旨とする皇室は、アラブの国々にとって日本そのものを象徴しているのだろう。
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