【一話全文公開】「成瀬あかり」の受験が一筋縄にいくはずなく…予想外すぎる結末とは? 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』試し読み

試し読み

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我が道を突き進む成瀬あかりの人生は、今日も誰かと交差する。

お笑いコンビ「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の大学受験を見守る父、バイト先に現れたクレーマー、観光大使になるべくして生まれた女子大生。

個性豊かな面々が新たな成瀬あかり史に名を刻むなか、幼馴染の島崎が故郷に帰ると、成瀬が書き置きを残して失踪しており……。最高の主人公が再び登場!

2024年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』シリーズは全3巻。今夏、待望の文庫化となった2巻目の『成瀬は信じた道をいく』より、成瀬の京大受験の様子を描いた「成瀬慶彦の憂鬱」を全文公開します。

成瀬慶彦の憂鬱

 家族で共有しているノートパソコンの検索履歴に「京都 一人暮らし 物件」の文字を見つけたとき、成瀬慶彦は泡を吹いて倒れそうになった。

 ほかにも「一人暮らし 物件 選び方」「京都市左京区 マンション」といった住宅関連のキーワードが並んでいて、ためしにクリックすると不動産サイトがずらっと表示される。

 慶彦は思わず、だれもいないリビングを見渡した。美貴子もあかりもすでに寝室だ。

 壁の上方には、これまであかりがもらってきた賞状を額に入れて飾ってある。小さい賞も含めれば数十枚はあるのだが、スペースの都合上、「大津市長賞」「大賞」「最優秀賞」などランクの高いものを厳選し、十二枚並べている。

 慶彦はほうじ茶を一口飲んで、再びパソコンの画面に目をやった。おそらくこの検索履歴は娘のあかりのものだろう。あかりはスマホを持っていないから、調べ物をするにはこのパソコンを使う。妻の美貴子が離縁を望んで物件探しをはじめた可能性もなきにしもあらずだが、それなら自分のスマホで検索するとか、検索履歴を削除するぐらいの配慮はするはずだ。

 あかりは高校三年生で、二週間後に京都大学の入試を控えている。京大までは電車とバスで一時間ほどの距離で、当然家から通うものだと思っていた。

 だからといって積極的に反対する理由もない。幼稚園から高校まで徒歩で通っていたあかりのことだから、毎日往復二時間を通学時間に取られるのは無駄だと考えているのかもしれない。

 仮に反対したところで、あかりは一度決めたことを曲げない。経済的援助をしなければ、自ら工面して安アパートに住むぐらいのことはする。それならば意に沿って安全なマンションを選んでやるのが親の務めというものだ。

 優秀なあかりのことだから家事一般はこなすだろうけど、親元を離れて危険な目に遭わないか心配だ。そしてなにより、あかりがこの家からいなくなるのが寂しい。
慶彦は本来やるつもりだった楽天のお買い物マラソンそっちのけで、京都市左京区の学生向け物件を調べはじめた。

宮島未奈(みやじま・みな)
1983(昭和58)年、静岡県富士市生れ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021(令和3)年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。静岡書店大賞小説部門大賞、坪田譲治文学賞、本屋大賞など多くの賞に輝き話題となる。「成瀬あかりシリーズ」は『成瀬は信じた道をいく』『成瀬は都を駆け抜ける』の三部作で完結した。他の著書に『婚活マエストロ』『それいけ!平安部』がある。

新潮社
2026年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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