ミステリ界を席巻した、最高級の頭脳戦! 青崎有吾『地雷グリコ』試し読み

試し読み

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射守矢真兎。女子高生。勝負事に、やたらと強い。友人・鉱田と彼女が巻き込まれるのは、子供の遊びをモチーフにしたゲームの数々。

罠の位置を読み合って階段を上ってゆく「地雷グリコ」、独自手を追加できるじゃんけん「自由律ジャンケン」、歩数とかけ声の文字数を入札できる「だるまさんがかぞえた」。強者を相手に、真兎は譲れないものをかけて勝負に挑む。彼女が負けられない理由とは――。

心揺さぶる、最高級の頭脳戦。『地雷グリコ』(青崎有吾・著)を公開します。

地雷グリコ

1

 待ち合わせ場所の第二化学室はまだ授業で使ったことがなくて、見つけるのに少し手間取った。ドアを開けると、相手側はもう到着済みだった。

 ダブルボタンのブレザーをきっちり着込んだ、スクエア眼鏡がよく似合う男子と、背の高い垢抜けた印象の男子。椚先輩と、江角先輩。直接会うのは初めてだけど名前は知っている。生徒会メンバーは校内でも有名だ。

 椚先輩が指先で腕時計を叩く。

「六分遅刻だ」

「すみません。旧校舎、あんまり来ないので」

「いーよいーよ」と、社交的に微笑む江角先輩。「にしてもびっくりだよ、決勝の相手が一年生なんて。射守矢ってのはどっち? 君?」

「あ、私は介添人で。鉱田っていいます。真兎は……」

 じゅぞぞぞ。

 ストローを吸う音が紹介を遮った。

 身軽なステップとともに、飄々とした少女が進み出て、椚先輩の前に立つ。

 右手にはさっき購買で買ったいちごオレ。亜麻色のロングヘアに短めのプリーツスカート。ぶかぶかのカーディガンはいまにも肩からずり落ちそうで、だらしないから直しなと毎日言っているのだけど改善の気配は一向にない。詐欺師みたいに口元だけで笑うと、彼女は軽快に名乗った。

「どもども、射守矢です。一年四組、射守矢真兎」

「おまえか」椚先輩は値踏みするように真兎を眺めた。「チャイニーズチェッカーで将棋部の大澤を破ったそうだな」

「武蔵の法則が効いたみたいで」

「ムサシ?」

「宮本武蔵。遅れて登場した者が勝つっていうアレです。なので今日も、遅れてみたりして」

「ジンクス頼みで勝てるほど《愚煙試合》は甘くないぞ」

 挑発を受けても椚先輩の表情は崩れない。冷静沈着系三年男子とちゃらんぽらん系一年女子。対照的な二人だ。

 椚先輩は眼鏡を押し上げ、なぜか部屋の隅に声をかける。

「全員そろった。始めてくれ」

「承知しました」

 ぎょっとした。

 いつからいたのか、日陰に溶け込むようにしてもうひとり男子の姿があった。淀んだ印象の目を伏せ、頭の左側が不自然にはねている。

「ど、どなたですか」

「頬白祭実行委員一年の塗辺と申します。本日の審判役を務めます。よろしくお願いします」

「よろしくー」と、真兎。「塗辺くん寝癖はねてるよ」

「無造作ヘアがモテるとメンズノンノに書いてあったので」

「それじゃモテんよ。ちょっとこっち来てみ?」

「いいから早く始めろ」

 椚先輩が急かした。江角先輩も寄りかかっていた実験机から離れる。

「何で決める? チェス? 囲碁? それともポーカー?」

「いえ。誰でも知っているシンプルなゲームを用意しました。まずは外に出ましょう」

「外に?」椚先輩は眉をひそめる。「何をやる気だ」

「ついてきていただければわかります」

 ぼそぼそと言い、ドアへ向かう塗辺くん。審判がそう言うならしたがうしかなかった。生徒会の二人があとを追い、私たちもそれに続く。

 じゅずぞぼ、とまた耳障りな音。一年四組の代表者はいちごオレをすすりながら、映画の上映開始前みたいな目で椚先輩の背中を眺めていた。相変わらず緊張感の欠片もない。

「真兎……わかってると思うけど、うちのクラスの命運があんたにかかってるから」

「わかってると思うけど、そういう重いの苦手だから」真兎はストローから唇を離し、「でもまあ、これおごってもらったし。鉱田ちゃんのためにがんばろうかな」

「なんでもいいからとにかく勝って」

 廊下の窓からは、向かい側に建つ新校舎(新といっても建ったのは二十年前だけど)がよく見えた。均等に並んだ窓と面白味のない白い外壁。それを上へとたどっていき、私は問題の場所を眺める。銀色の柵。貯水タンク。背景の薄水色の空。

 すべての原因はあの屋上にあった。

青崎有吾
1991年神奈川県生まれ。明治大学卒。在学中の2012年『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。24年に『地雷グリコ』で、第24回本格ミステリ大賞(小説部門)、第77回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、第37回山本周五郎賞をトリプル受賞。著作は他に、〈裏染天馬〉シリーズの『水族館の殺人』『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』『図書館の殺人』、〈アンデッドガール・マーダーファルス〉シリーズ、〈ノッキンオン・ロックドドア〉シリーズ、『早朝始発の殺風景』『11文字の檻 青崎有吾短編集成』がある。

KADOKAWA カドブン
2026年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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