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- すべて忘れてしまうから
- 価格:649円(税込)
人生はままならない。
だから人生には希望が必要だ。
深夜ラジオを聴いた部屋で、祖母と二人きりで行った富士サファリパークで、仕事のためにこもった上野のビジネスホテルで、仮病を使って会社を休んで訪れた石垣島で、ボクが感じたものーー。
「エモい」といえば燃え殻さん。初のエッセイ集『すべて忘れてしまうから』より、冒頭の「はじめに」を公開します。
はじめに
人生のほとんどの時間を“ままならない”で過ごしてきた。
最終学歴は金さえ振り込めば全員合格できる広告の専門学校だし、コンビニのバイトに日本人というアドバンテージを活かせず落ちたことも二度ある。その後は自分以外ほぼブラジル人というエクレア製造工場で働き、今の会社にはバイトで潜り込んで、そのまま正社員になった。
そんな僕が、四十を過ぎて小説を書いた。人生で唯一自分より好きになった人と、サヨナラも言えずに別れたことを綴った小説を書いた。
小説を出版しておきながら、たぶん人生で小説は数える程度しか読んでこなかったと思う。集中力が続かず、気づくと同じ行を何度も繰り返し読んでしまう癖があるからだ。初めてちゃんと全部読めたのが、大槻ケンヂさんの『リンダリンダラバーソール』だった。僕は、作中に出てくる彼女「コマコ」と主人公である大槻さんとのやりとりが大好きだった。
幸運にも昨年、そんな大槻さんと自分の小説の出版記念トークイベントで対談させてもらえる機会があった。新宿紀伊國屋の控え室のドアを開けると、そこには大槻さんがひとりで座っていた。
本当に好きな人に会うのは健康を害するので避けたほうが良い、と今の僕なら言える。ガチガチで挙動不審な僕に、大槻さんは「どもども、ちょっと二人で話さない?」なんて気軽に声をかけてくれた。
拍子抜けするぐらいのフレンドリー具合に僕は、ここは踏ん張り時だと、覚悟を決めて『リンダリンダラバーソール』のコマコと主人公のやりとりにどれだけ救われてきたかを話した。
大槻さんが初めてオールナイトニッポンのDJをする日、生放送を前にしてプレッシャーのあまり「オレ、このまま逃げるよ」とコマコに弱音を吐いたら「ブロン液」を渡され、それを飲んでなんとかO.A.をこなすくだり。そして、それから十数年後、地方のライブハウスをツアーで回っている大槻さんのもとにコマコが現れ、結婚して年を重ねていた彼女が「あなたは何も変わらないね」と言って、最後に「わたしにラバーソール買ってよ」と言うくだり。
「僕は涙しました!」と興奮しながら言うと、大槻さんは少しうつむきながら、「あー、それは全部なかったかもなぁ」と言った。「え?」なんて口ぽかんの僕に続けざま、「ブロン液はひとりで飲んだの。地方のライブハウスの鏡を見たら老けた自分がいてさぁ、俺は変わらないって言い聞かせてたんだよ」と言って、へへと照れくさそうに笑った。
その後、大槻さんはこちらを真っすぐ見て言った。
「あそこはね、僕の希望なの。で、燃え殻くんの小説の中の希望はどこ?」
人生はままならない。だから人生には希望が必要だ。ままならなかった僕も大槻さん同様、希望を書いた。思えば、その小説はタイトルからして希望を込めたものだった。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。あの頃思っていた“つまらない大人”に限りなく近い存在になってしまった僕が、精一杯の希望を込めて付けたタイトルだった。
(以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて)
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