大事な会議の前日も一晩中「オトナの動画」を見続けた…自慰をやめられないビジネスマンの切実な告白 『ドーパミン中毒』試し読み
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- (医学一般/臨床医学一般/心理学)
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大事なプレゼンの前日、一睡もせずポルノを見続けてしまう…
最近、ドーパミンがにわかに注目を集めている。「ドパガキ」「ドパる」など、“ドーパミン中毒”になっている若者や様子を指す言葉がSNSなどで急速に広まっているのだ。
このドーパミンを含む依存症医学の分野における第一人者、米国スタンフォード大学医学部教授で精神科医・医学博士のアンナ・レンブケ氏が書いた書籍が『ドーパミン中毒』(新潮新書)だ。同書では、ドーパミンとは何か、なぜドーパミンにより依存してしまうのか、どうやって依存から抜け出すのかなど、ドーパミン中毒について分かりやすく解説し、著者が精神科医として接してきた患者の様々な症例を紹介している。
なかでも目を引くのが、60代前半の男性・ジェイコブ氏(仮名)のエピソードだ。やさしそうでハンサムな顔立ちのジェイコブ氏には、深刻な悩みがあった。自慰行為の“中毒”になってしまったのだ。幼少期から自慰行為をしてきた彼は、大学に進学して物理・工学を学ぶ頃に、レコードプレイヤーを改造して“自慰行為マシーン”を自作する。レコードの回転数と連動する機械でギリギリの状態を何時間も維持し、一日に何度も行為に耽る……。やめようと決意して機械を解体しゴミ捨て場に置きに行っても、しばらくすると拾って組み立て直しているのだった。
やがて、ジェイコブはバルコニーから身を投げようと思うほどの失敗を犯してしまう。『ドーパミン中毒』の第一章より、このエピソードの一部を公開しよう。
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- ドーパミン中毒
- 価格:1,320円(税込)
資本主義のダークサイド
23歳の時、ジェイコブは妻と出会って結婚した。二人は彼女が両親と共有していた3部屋あるアパートに引っ越し、一緒に住むことになった。彼はさすがにあの機械は置いていった──もう永遠に持ちたくないと彼は思っていた。二人は自分たちだけのアパートを申し込んだのだが、25年待ちになると言われた。1980年代当時、彼と彼女が住んでいた東欧の国ではよくあることだった。
彼女の両親と一緒に何十年も窮屈に暮らすのは嫌だったから、もっと早く自分たちの場所が買えるように副業を始めることにした。大きくなりつつあった闇市で台湾から機械を輸入するコンピュータビジネスを始めた。
ビジネスは成功し、すぐにその地域の基準からみて裕福になった。家も土地も手に入れた。さらに息子、娘という二人の子供に恵まれた。
ジェイコブがドイツで科学者として働かないかと仕事の誘いを受けたとき、二人の人生はさらに上向いていくことが確実になったかと思われた。すぐに西へ引っ越し、彼はキャリアを積み、西欧が提供し得る限りのチャンスを子供たちに与えた。引っ越しは多くのよい機会を与えることになったが、全てがよかったわけではなかった。
「ドイツに移ってみると、ポルノ雑誌、ポルノ映画、ライブショーと出会うことになりました。私の住んだ町は、それで有名な町でしたから仕方がないんです。だけど、なんとか耐えなければならない。10年も持ちこたえたんですよ。科学者として働いて、一生懸命働いて、だけど1995年に全てが変わってしまうんです」
「何が変わったんですか?」一応尋ねたが、私はすでに答えを予想していた。
「インターネットです。私は42歳で、まあまあうまくやっていて、でもインターネットが出てきたおかげで人生は崩壊し始めます。1999年のある日です、多分50回はそれまでに泊まったことがあったホテルの部屋にいました。大きな会議があって、次の日には大事なプレゼンをしなければならなかった。しかし私はその準備をする代わりに一晩中起きてポルノを見ていたんです。眠らず、準備なしで私は会議に出ました。スピーチしましたが、ひどいものでした。私は仕事を失うところでした」。彼は思い出してうつむき、頭を振った。
「その後、私には新しい儀式ができました」と彼は続けた。「ホテルの部屋に行くたびにポストイットをそこら中に貼るんです。バスルームの鏡、テレビ、リモコン。“やるなよ”って書いて。だけど一日も持たないんです」
ホテルの部屋がベッドとテレビとミニバーが備え付けられた、現代版のスキナー箱になるとは思ってもみなかった。アメリカの心理学者バラス・スキナーが開発した、ラットなどに条件付けを行う箱、レバーを押せば薬物が出てきて、レバーを押す以外にラットは何もしなくなってしまうあの箱である。
彼はまたうつむき、沈黙した。私は彼に時間を与えた。
「その時初めて、人生を終わりにしようと思いました。世界は私がいなくなっても困らないし、私がいない方がむしろいいだろうと。それでバルコニーまで行き、下を見ると、4階で……充分だろうって」
著者:アンナ・レンブケ(Anna Lembke)
1967年アリゾナ州フェニックス生まれ。精神科医。医学博士。スタンフォード大学医学部教授。同大学依存症医学部門メディカル・ディレクター。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で医学を修める。依存症医学の第一人者であり、研究に対する授賞多数。臨床、研究、教育の各分野に力を注ぎ、アメリカの連邦議会が設置する各委員会にも名を連ねる。4人の子供の母親であり、現在、カリフォルニア州在住。前著"Drug Dealer, MD”は全米ベストセラーとなっている。
訳者:恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)
1979年神奈川県生まれ。脳科学者。東京工業大学大学院後期博士課程修了(学術博士)。専門は人間の感情のメカニズムと自意識。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書にジョナサン・コール著『顔の科学』、茂木健一郎著『IKIGAI』など。金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。
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