業界屈指のミステリーマニア作家・阿津川辰海が先人たちを徹底オマージュ! 『少女は殺人の夢を見る』試し読み

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 近年のミステリランキング上位を席巻してきた阿津川辰海さんは、2023年に『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第23回本格ミステリ大賞〔評論・研究部門〕を受賞するなど、業界屈指のミステリーマニアとしても知られています。

『少女は殺人の夢を見る』(新潮社刊)は、著者の本格ミステリー愛が「これでもか!」というほど詰まった最新刊です。

 東京大学の読書サークル〈月夜のお茶の会〉に入った1年生・獏田格(ばくたいたる)は、2年生の先輩・夢見灯(ゆめみあかり)主催の読書会に参加します。はじめての読書会に戦々恐々としつつも、灯が淹れてくれた紅茶を飲んでほっと一息つけたと思ったら……、どういうわけか強烈な眠気に襲われ、気づけば課題本のミステリーとそっくりな「事件」に巻き込まれてしまいます。そこは灯が作り出した「夢」の世界でした。

 本の世界に熱中し、想像力が全開になったとき、最近読んだ作品をモチーフにしたミステリー劇を作り上げ、自身が淹れた紅茶を飲んだ人々を引きずり込む。灯はそんな特殊な力を持っていたのです。「夢」の世界で謎を解かない限り、獏田やほかのサークルメンバーたちは現実に戻ることができない!?

 本作で阿津川さんが挑んだのは、課題本として登場する歴史的名作を「ネタバレなし」でオマージュすること。ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)『第三の銃弾』、アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』、エラリー・クイーン『スペイン岬の謎』、国内作品では綾辻行人さん『十角館の殺人』、法月綸太郎さん「死刑囚パズル」(『法月綸太郎の冒険』所収)が元ネタとなっています。綾辻さん、法月さんからはこちらのコメントをお寄せいただきました。

 軽やかで知的な遊び心に満ちた一冊。「九角館の殺人」も愉しかったです。──綾辻行人

 毒入りキケン! これを読んだらもうフツーの犯人当てでは満足できないカラダになるよ。──法月綸太郎

「ネタバレなし」かつ、〈月夜のお茶の会〉の「読書会」もたっぷり描かれているため、元ネタとなっている作品を既読の方にも、未読の方にもお楽しみいただけます。

 2026年最高濃度の謎解き&パスティーシュ集に仕上がった本作冒頭部分の試し読みを公開します。

第一話 第三の短剣

*

「見たまえ。この部屋は、犯行当時完全な密室だったのだ!」
  力石啓志(りきいしけいし)は声高に宣言した。
「そして密室の中には、死体が一つと、その傍に呆然と突っ立っているこの男だけ」
 力石はそう言い、俺を指さした。
「これほど結論が明白な事件もあるまい。この男が被害者を殺したのだ!」
 俺は目の前の状況の異常性に慄いていた。さっきまでサークルの仲間たちと古本屋で読書会をしていたはずで、被害者と呼ばれているのもサークルのメンバーの一人だ。
 これは、なんの悪夢なのか?
 そして何よりも異常なことに、目の前の状況はさっきまで読書会で扱っていた本の内容にそっくりだった。
 俺は、本の世界に取り込まれてしまったのかもしれない――。

阿津川辰海
1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は噓をつかない』でデビュー。20年『透明人間は密室に潜む』で本格ミステリ・ベスト10の第1位に。23年には『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第23回本格ミステリ大賞〔評論・研究部門〕を受賞。他の著書に『紅蓮館の殺人』などの<館四重奏>シリーズ、『ルーカスのいうとおり』『犯人はキミが好きなひと』『デッドマンズ・チェア』など。

新潮社
2026年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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