僕の人生には事件が起きない
2019/02/08

ハライチ岩井が空虚な誕生日パーティ会場に落とした“魚雷”の正体

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お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による初めての連載エッセイ。お笑いのこと、ラジオのこと、アニメのこと、この世界のこと……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「誕生日パーティ」です。

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第11回「誕生日パーティ」


イラスト:岩井勇気(ハライチ)

 ある日、僕の携帯電話に1通のメールがきた。

「○月×日、私の誕生日カウントダウンパーティをやります! 岩井さん良かったら来てくださいー!」

 知り合いの女の子からの誘いだった。その女の子と最後に連絡をとったのは何年も前になる。しかもその子とは遊んだことも無いのだ。謎の誘いに僕は戸惑った。

 僕は人が沢山集まるようなパーティや飲み会が苦手だ。社交性が無いというわけではない。見ず知らずの人間達が集まっているにも拘わらず、さも楽しそうにしていないと「感じが悪い」だの「空気が読めない」だのと言われかねない雰囲気が好きではない。それと、そこで会った相手に対して、この人はどんな思惑を持ってこのパーティに来ているんだろう。と考えてしまうのが非常に疲れる。

 僕がそういう考えを持っているというのは、自分を客観的に見ればイメージ通りだと思う。周りが僕に抱いているイメージは、恐らく「パーティとか嫌いそう」で間違いはないだろう。しかも誕生日会を盛り上げるタイプにも見えていなさそうだ。その僕をパーティに誘う理由がわからない。しかも自分の誕生日パーティに。

 自分の誕生日パーティに自ら人を誘うというのはすごい。お祝いというのは基本的に、祝う側に「祝いたい」という気持ちがあって成立するものだ。自分の誕生日パーティに人を誘うというのは「祝いたい」という気持ちがあるかどうかを無視している。気持ちがあろうが無かろうが、とにかく強制的に祝わせるのだ。「祝いたい」という気持ちが無いかもしれない人に強制的に祝わせて、嬉しいと思える。それがすごい。

 僕を誕生日パーティに誘う理由で考えられるのは、岩井という名前だけ見て「いかにも祝ってくれそう」と思ったか、もしくは誘いに乗ってノコノコ行った僕を、普段から仲の良い友達と「こいつホントに来てやがるよ! なに本気にしてんだよ!」と笑い者にするかだ。それはクラスで1番可愛い女の子がヤンキーグループと一緒になって、クラスの冴えない男子生徒に告白するというドッキリのような、悪質な遊びである。

 この誘いがそうであったらと考えると非常に腹立たしく思えてきた。僕にはそこで『断る』という選択肢もあったが、受けて立とう。という気持ちが逆に芽生え、『行く』と返事を出したのだ。

 その時、当日は友達や後輩を連れて行こうか。という考えも一瞬頭をよぎった。だが、このパーティに行くのに僕の友達や後輩を連れて行ってしまっては、真っ向から受けて立つことにならない。僕は単身乗り込むことにした。

「祝いたい」という気持ちが無いまま行くのだが、それでも礼儀として誕生日プレゼントは用意しなくてはならない。僕は色々考えた末、100円の色紙と1500円の色紙サイズの額縁を買ってきた。そして高校の頃美術を専攻していた腕前で、色紙に油絵の具で雰囲気のある魚の絵を描き、額縁に入れ、これを誕生日プレゼントとした。

 誕生日に、あまり仲良くもなく、画家でもない知り合いが描いた奇妙な魚の絵をもらう。その場は謎の重たい空気に包まれるだろう。しかし、自らこのパーティに招待した知り合いからのプレゼントだ。相手は無理矢理にでも喜んでいる態度を見せるしかない。誕生日パーティにひとときでもそんな不穏な時間を作り出せたなら僕の勝利だ。ただでは死なない。一太刀浴びせるための魚の絵。さながら魚雷である。

 当日、僕は紙袋に入れた魚雷を持ち、会場に向かった。パーティは六本木のバーを貸し切って行われるらしい。土地も店も想像通りである。パーティ自体は夜9時から行われているが、カウントダウンパーティなのでメインは12時だと思い、到着を11時ごろに合わせて家を出た。

 店に到着し、黒光りした外壁の、遊び人の巣窟のようなバーの『本日貸切』という札が貼られた扉を開け、中に入った。20畳ほどのそこまで大きくない店ではあったが、店内には大勢の人がいた。暗めの店内、絵に描いたようなチャラい男女、爆音で流れる重低音の効いたクラブミュージック、ワニ革のような模様のソファー、スクリーンに延々流れるスノボーの映像、シャンパンの開く音、「イエーイ!」という無意味な言葉。余すことなく想像通りである。

 チャラい男女がパーティを楽しみながらも僕に対して時おり見せる「誰の知り合いだろう?」という視線が絡みつく。僕は視線をくぐり抜け、バーカウンターに行ってハイボールを注文した。すると人ごみの奥から今日の主役の女の子が、誰が見てもすぐに主役とわかるような真っ赤なパーティドレスで現れた。「来てくれたんだー」とその子が僕に話しかけると、僕をチラチラ見ていた男女達も「主役の知り合いか」といった様子で僕から視線を逸らした。とんだレジスタンス扱いである。今日の主役は僕と一言二言交わすと元居た友達の所へ戻っていった。主役しか知り合いのいない僕はバーカウンターでちびちびとお酒を飲みながら、誰にも話しかけられることなく12時を待った。

 そして12時前になった。ループで流れるスノボーの映像を楽しんでるフリで1時間近くを過ごした僕は、日付が変わる瞬間を待つ。12時になり店内BGMが切り替わって、知らないバースデーソングが流れた。定番の『ハッピーバースデートゥーユー』でもスティービー・ワンダーの『Happy Birthday』でもなく、知らないバースデーソングだ。それと同時に大きい誕生日ケーキが主役の女の子の元に運ばれてきた。女の子がろうそくを吹き消すと、とりあえずの「おめでとー!」という歓声が上がり、全員貼り付けたような笑顔で拍手をした。

 その後はいよいよプレゼントを渡す時間である。各々が、化粧品、ボディークリーム、ピアスという定番のプレゼントをあげている中、紙袋に入った魚雷を持って僕はゆっくりと主役に近付いていった。そしてついに僕の番になる。僕は「おめでとう」と言いながら主役の女の子に紙袋を渡した。その子は「ありがとー! なんだろー?」と一応の興奮を演出しつつ紙袋を受け取り、中に入った布に包まれたものを手に取った。布を広げていくと額に入った謎の魚の絵が現れた。プレゼントを見た周りの男女が少しずつざわつき出す。主役の女の子は一瞬言葉を失った様子だったが、それを悟られまいと間髪入れずに「あ、すごーい。絵だー」と絞り出すように言った。それに続くように周りの男女が口々に「あー、いいなー」「かわいいねー」などと心にもない感想を述べ出す。正直良くも可愛くもないだろう。僕もこの絵を何とも思っていないのだ。不穏な空気の中、主役の女の子が「これ誰の絵ー?」と聞いてきた。僕は少しだけ間を空けて言った。

「俺が書いたんだよ」

 その場は一瞬で凍りついた。誰もがリアクションを取れず、絶句していた。そして喋り出すきっかけを誰も見つけられず、沈黙は続いた。

 これこそ僕が作り出したかった空気。普通の誕生日パーティで流れることのない時間。空白のプレゼントである。僕は心の中で歓喜した。

 そんな沈黙の中、僕は持っていたグラスの中のハイボールを一気に飲み干し、テーブルにコツンッと置いて「誕生日おめでとう」と言い、振り返ってカウンターに置いてあった荷物を取りに行った。

 魚雷大爆発。無音という爆発音を背中で聞きながら、僕は店を後にした。

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次回の更新予定日は2019年2月22日(金)です。

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