僕の人生には事件が起きない
2019/05/10

ハライチ岩井が組み立て式の棚に精神を破滅させられたワケ

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お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による初めての連載エッセイ。お笑いのこと、ラジオのこと、アニメのこと、この世界のこと……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「組み立て式の棚」です。

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第17回「組み立て式の棚」


イラスト:岩井勇気(ハライチ)

 組み立て式の棚は恐ろしい。自宅で説明書を見ながら自分で組み立てる棚のことだ。もし組み立て式の棚を買おうと思った時には一度冷静になって考え直して欲しい。なぜなら棚というものは場合によっては精神の破滅を招いてしまう悪魔の家具だからである。

 先日、家の本を整理しようと通販で海外製の本棚を買った。天井すれすれの背の高さの、杉でできた温かみのある棚だ。通販サイトで見つけ、見た目重視で注文したのだった。注文する際、その家具を業者の人が自宅で組み立ててくれるというオプションがあったが、知らない人が家に入ってきてしばらく作業するのかと思うと、なんだか不安な気がしてそのオプションを付けずに頼んだ。

 だが、そのオプションを付けなかったが故に僕はすぐに後悔することとなる。

 数日後、注文した棚が家に届いた。見るからに大きい段ボールで2箱、重さもかなりのものだ。箱を引きずりながらやっとリビングまで運んで開封した。中に入っていたのは棚の部品というよりは木。木材が2箱にぱんぱんに詰められている。相当な量の木に驚いたのもつかの間、段ボールの底からビニール袋が出てきた。なんと、そこには組み立てに使うネジが100本近くも入っていたのだ。

 この部品の量を見た僕は、この棚のことは一旦忘れようと思い、段ボール箱をリビングの端に積み重ねてそのまま数日放置した。

 しかし、数日経ってリビングの端にずっと大きい段ボールを2箱置いておくストレスに耐えきれなくなり、棚を作ることに決めた。だがわかるだろうか? こんな部品の多い家具を組み立てる際の、組み立て0パーセントから1パーセントに持っていく大変さが。半日以上時間があって、前日から「明日は棚を組み立てよう」としっかり決め、なおかつ当日の朝起きた時に気持ちが乗っている――こんないくつかの条件がそろわないと棚作りに取り掛かることはできない。

 それでもどうにか半日休みの日を見つけ、その日まで毎晩、買ったサイトの出来上がりの写真を見ることで自分の気分を盛り上げ、完成した棚が配置された部屋を想像し、習字で『棚』と書いた半紙を壁に掲げて過ごした。そしてついに当日を迎え、棚作りに取り掛かったのだ。

 まず箱に入っている木を全部取り出して説明書を読む。しかしこの海外製の本棚の説明書がまた難解で、ほとんどの説明が絵で描かれているのだ。説明文の横に分かりやすいようにイラストが描かれている説明書ではなく、文字のほぼない、絵で読み解く類の説明書だった。

 こうなるとさらに作るのが難しくなってくる。ここで0パーセントから1パーセントの壁を越えた後の、1パーセントから2パーセントへの壁が僕の前に立ちはだかる。様々な木材と部品があるのだが、絵と照らし合わせた時に「どれがどれ!?」となってしまうのだ。その状態になるとせっかく何日もかけて作ってきたやる気が削がれてしまう。案の定、その時作ろうと思った棚も「どう見ても最初に使う木がない!」という状況に陥っていた。そしてしばらく探してもどうにも見つからないので「いやいや、絶対ないじゃん!は? 不良品だろこれ! は??」と1人で半ギレ状態になってしまった。

 微妙に形が違うが恐らくこれだろう、と思う木をどうにか見つけた。組み立ててみると、なんとなく組み立つ。しかし、部品は合っているが説明書の絵とはサイズが微妙に違う。疑問に思って買ったサイトで調べてみると、僕が買った棚は、その杉の棚のシリーズのスタンダードなサイズよりは少し薄いタイプの棚だったのだが、付いてくる説明書は一律でスタンダードなサイズの棚の説明書らしいのだ。

 確かにその説明書で薄いタイプの棚も作れるのだが、部品のサイズが説明書とは少しだけ違う。「は? なんなんだよ不親切な! は?? だったら全部の部品が説明書と違うサイズじゃねぇかよ!」と、またも半ギレ状態になってしまったのだった。

 このように棚の組み立てには要所要所でやる気を削がれる場面がいくつかある。

 例えば、どうにか組み立てが進んで35パーセントまで組み立て終わり、ふと残りの部品を見た時「ウソだろ!? これまだ半分以上あるのかよ!」という、果てしなさへの絶望を感じることがある。そこで一気にやる気がなくなってしまうのだ。

 それと、途中でどう見ても1つ部品が足りないと気付き、「は? なんだよこれ! 1つ部品ないじゃん! は? 意味わからねぇわ! 不良品だろこれ! は??」となってしまい、買ったサイトに電話してみると、「申し訳ございません。こちらのミスで入れ忘れていたみたいです」と言われた場合、「え!? 今から送っても着くの2、3日後ですよね!? 今、作るモードに入ってるんですけど!? このモードどうしてくれるんですか!? 部品が来たらまたモード入れなきゃいけないんですよ!? 部品が無いより、モード抜けちゃうことの方が大変なんですけど!」「これくらい組み立ての難しい棚を送ってくるお店ですからモード入れなきゃ作れないことくらいわかりますよね!?」と激怒してしまいかねない。

 70パーセントまで作り、組み立てた部品を見ると、明らかに1つだけ逆方向に部品が付いていたことに気付き、もう一度解体してその部品の方向を直して組み立てるとなると35パーセントまで戻さなければならないことが発覚した場合、「は? 何これ!? なんで逆なんだよ! は? もう無理じゃん! 今から35パーセントまで解体してそこからまた組み上げられる訳ねぇだろ! は??」と投げ出してしまう。

 しかしどうにか組み立てていき、85パーセントまで組み上がると「もう少しで完成だから、少し休憩しよう」と思って、リビングでしばらくテレビを見ながらお茶でも飲む。すると、組み立てに夢中で何も食べていなかったことに気がつき、ご飯を食べ出す。食べ終わると、熱中して棚を作っていた時に汗をかいていたので一旦風呂に入ることにする。風呂から上がると、疲れから眠くなってきてしまい、ベッドで横になってそのまま寝てしまう。

 そうした場合、不思議と次の日から一切その棚は作らなくなってしまうのだ。心のどこかで「もうここまで作れば完成したのと一緒」「いつでも完成させられるわ!」などと調子に乗っているので、たとえ残り15パーセントでも改めてモードを入れないと作れないことを忘れている。なので、なぜか作る気が起きないまま部屋の端にはずっと85パーセントの棚が置かれているのだ。

 こういった可能性が組み立て式の棚には潜んでいる。そう思うと本格的に棚を組み立てることができず、ダンボールに戻してしまい、今でもリビングの端にはバラバラの木が入った段ボールが2つ、暗い存在感を放ったまま置いてあるのだ。

 組み立て式の棚は恐ろしい。もし棚を買うことがあれば、完成している棚を僕はおすすめする。

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次回の更新予定日は2019年5月24日(金)です。

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