僕の人生には事件が起きない
2018/11/09

ハライチ岩井がハンバーグ屋で思わず叫びそうになった理由

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お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による初めての連載エッセイ。お笑いのこと、ラジオのこと、アニメのこと、この世界のこと……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「マニュアル」です。

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第5回「マニュアル」


イラスト:岩井勇気(ハライチ)

 多くのものに教科書やマニュアルが存在する。しかし、そのマニュアルに従うが故に不便なことが多々ある。

 例えば「教科書通りの~」という言葉は、褒め言葉としても使われるが、自分たちの漫才を「教科書通りの漫才」と評価されたら嬉しくはない。むしろその逆を目指すべきではないかと思う。

 
 飲食店もマニュアルがしっかりしている店は、逆に柔軟性を失っていたりする。

 20代前半に大手チェーンのファミレスに行った時のこと、デザートを注文しようとメニューを見ると、グラスにバニラのアイスと抹茶のアイスを乗せたものがあった。抹茶アイスが好きな僕は、店員を呼び止め、バニラアイスの方も抹茶アイスに変更して、抹茶アイス2つの盛り合わせで注文できないかを聞いた。すると店員は「すいません。それはできないんですよ」と答えた。しかしさらに僕は、追加の料金を払ってもいいのでバニラアイスを抹茶アイスに変更できないかを聞いた。すると店員の答えは「すいません。追加料金というシステムはやっていないので、できないんですよ」というものだった。

 そういうことなら仕方ないと諦めかけたが、僕は最後に試しに、そのバニラアイスと抹茶アイスのデザートを2つ注文するので、盛り付けをバニラアイスとバニラアイス、抹茶アイスと抹茶アイスの組み合わせで出してもらえないかを聞いてみた。すると店員は「すいません、それもできないんですよ」と答えた。

 こういう店こそがマニュアルに縛られた店なのだ。バニラアイスを抹茶アイスに変更できないというのは理解できる。しかし盛り付けを変えるのは多少の柔軟性があれば店員のさじ加減でどうにかなるはずだ。バニラアイスと抹茶アイスの盛り合わせで出さないといけないと頑なに思っている。「その組み合わせが絶妙な相性で、味の相乗効果をもたらす」などというコダワリがあるわけではなく、あくまで「マニュアルにそう書いてあるから」ということだろう。マニュアル至上主義の店は恐ろしい。

 
 つい先日、収録の空き時間、番組スタッフ2人と、どこか外の店で昼食をとろうということになった。スタッフの1人が「最近近くにハンバーグの店ができたらしいですよ」と言うので、3人でそこに行くことにしたのだ。

 店に着くと、オープンしたての綺麗な佇まいで、席は空いていたのですぐに案内された。

 席に座りメニューを見ようとすると、紙のメニューとタブレット端末で見れるメニューがあった。今やそういう機械を導入している店は珍しくはないが、そのタブレット端末の操作に慣れるのが面倒くさいということと、今更タブレット端末を操作することにテンションも上がらないという、時代に取り残されているのか、機械にありふれた今を生きているのかわからない理由で、3人とも紙のメニューを見て注文を選んでいた。

 
 ランチメニューはそれぞれ肉の種類が違うハンバーグのA、B、Cというセットがあった。僕はBセットに決め、さらにメニューの端に『プラス400円でハンバーグ増量!』の文字があったのでハンバーグを増量することにした。店員を呼び止め、Bセットのハンバーグ増量を注文すると、店員が「すいません、注文はタブレット端末からお願いします」と言った。結局タブレットを操作する事になり、僕以外の2人も「そのタイプの店か」という顔つきになっていたが、店の決まりならしょうがないと3人でタブレットを操作し始めた。

 セットメニューに辿り着くまでの操作がいくつかあり、どうにかBセットの画面に辿り着いて注文ボタンを押そうと思ったが、ハンバーグ増量のボタンがどこにも見当たらない。隅々まで探しても見つからなかったので、もう一度店員を呼び止めて、ハンバーグ増量のボタンがどこにあるのかを聞いた。すると店員が「すいません、ハンバーグを増量したBセットはタブレットのメニューだとEセットです」と言った。3人とも、この店員が何を言っているのかすぐに理解できなかったが、よくよく聞いてみると、A、B、Cというランチセットがあり、タブレット端末だと、それぞれのセットのハンバーグを増量したものはD、E、Fセットという別のセットになっていると言うのだ。しかし、紙のメニューには全くそんなことは書いていない。何という複雑な構造だろう。そもそもタブレット端末で注文しなくてはいけないのだから紙のメニューはいらない。紙のメニューは罠なのだ。タブレット端末を面倒臭がって紙のメニューという簡単な方に食いついてしまった3人が、さらに面倒臭いことになるという、昔話のような事になってしまった。

 
 昼食をとるだけでこんなにつまずくとは思わなかったが、とりあえずタブレット端末でEセットを注文し、料理が来るのを待った。そして、しばらくするとEセットのハンバーグとライスが運ばれてきた。しかし、そのハンバーグを見て違和感を覚えた。僕はその違和感の正体がすぐにわかった。ハンバーグが小さい。ハンバーグを増量したはずだが、ハンバーグはどう見ても大きいとは思えないサイズだ。

 通常サイズのハンバーグを頼んだスタッフのハンバーグと比べても大差ない大きさだった。店員を呼び止め、ハンバーグは増量されているのか聞くと、店員は焦った表情で「申しわけありません! 増量し忘れていました!」と言ったのだ。驚愕した。これはもはや異次元のミスだ。紙のメニューを見て「Bセットのハンバーグ増量で」と注文したなら増量を忘れたというミスは起こりうる。しかしタブレット端末でEセットを注文しているのだ。ハンバーグは増量しかあり得ない。店のメニューの複雑な構造に店員までもが付いていけていない。

 恐らく僕ら3人は紙のメニューを見て頭の中でタブレットメニューに変換してタブレット端末に入力したが、店員は店員でタブレット端末で注文されたメニューを頭の中で紙のメニューに変換して作っている。そうでないと増量を忘れるというミスは起こらない。今すぐ店中のタブレット端末を破壊したほうがいいと思った。そして、その後の対応も驚いたのだが、店員が申し訳なさそうに増量分の小さなハンバーグを持ってきたのだ。お弁当のハンバーグかよ!と思ったが、言う気力も無く、黙って小さなハンバーグを食べた。

 
 食べ終わり、店を出るのに会計を済ますため、レジまで行った。するとレジにいた店員が「すいません。お会計はお席のタブレット端末で会計のボタンを押してもらえますか?」と言ってきた。これには流石に呆れざるを得ない。どこまで機械に支配されていてマニュアルに忠実なのだ。臨機応変にできないものかと思いながら席まで戻り会計のボタンを押しに行くという謎の一往復。レジまで戻り会計を済ますと、店員はお釣りとともによく駄菓子屋で売っている10円のガムを、床屋さんが店に来た子供にあげるように僕ら3人に配った。ここだけめちゃくちゃアナログだな!と、僕は心の中で叫んだ。

 
 利便性を求めるが故に生み出されたものは便利だ。しかし「必ずその通りにしよう」という人間の意思は時として不便である。10円のガムを噛みながら僕はそう思った。

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次回の更新予定日は11月23日(金)です。

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