僕の人生には事件が起きない
2021/06/11

誕生日が苦手なハライチ岩井、欲しかった「VR」を貰えたのに微妙な気持ちになった理由とは

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お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による連載エッセイふたたび。「人生には事件なんて起きないほうがいい」、独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「誕生日プレゼント」です。

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「誕生日プレゼント」


イラスト:岩井勇気(ハライチ)

 自分の誕生日というものがあまり得意ではない。祝われるのが嫌いというわけではないのだが、いざ祝われた時に、僕が喜ぶ様子を相手は楽しみにしているんだろうな、ということばかり考えてしまい「さぁさぁ、喜んでるところ見せてくれよ」という一種の強迫観念のようにまで感じてしまうので、もう純粋には喜べない。

 人が自分のことをどう思っているか、という自意識が高い考え方があまり好きではないが、自分の誕生日ともなれば、考えが自意識に基づくことは避けられない。
 

 少し前に、僕の誕生日があった。特別なことはせず、いつもと同じように過ごしていたのだが、夜、友達と飲みに行った際「誕生日だからこれあげるよ」と、大きい紙袋を渡してきたのだ。

 正直、僕の誕生日など知らないと思っていた友達なので驚いたが、直後、喜びを求められているんではないか、ということが頭をよぎり「え? 本当!? いや~ありがとう!」などと、大きめのリアクションをとることに全力を注いだ。

 そしてここからが問題だ。誕生日プレゼントの中身が何なのかということである。もちろんどんなプレゼントであろうが喜ぶ準備はできている。家族や、僕のことを本当によく知る人以外のプレゼントなど、しょうもない物か趣味に合わない物、良くても極めて無難な物ってのが関の山なので、そもそも期待していない。

 だが、呆れるほど酷いプレゼントや、とにかく自分の趣味を押し付けるようなプレゼントだった場合、喜びのリアクションの中にも若干の嫌悪感や怒りが含まれてしまい、漫画の表情で言うと、目は笑っているのにこめかみに怒りのマークと「ピキッ」という描き文字が入るような顔になってしまうのだ。

 それを想定しつつ、僕は大きい紙袋から包装された箱を取り出した。この“大きい”というところがまた怪しい。大きいプレゼントにろくなものはないからだ。僕は恐る恐る包装紙を取り去った。

 中身はなんと、VRが家でできる機械だった。その時、僕は本当に驚いていた。このVRが家でできる機械は、前から欲しいと思っていたからだ。欲しかったものがもらえた驚きもあるが、本当に僕が欲しいものをくれる友達がいるんだという驚きがとにかく大きかった。

「欲しかったんだよ! すごい! ありがとう!」と喜びの意を伝えた。僕も自然と喜べるものだ。この友達はセンスがある。僕は、心の友達リストのこの友達の欄に“センスがあるスタンプ”を、ぎゅっと強めに押した。

 その夜、僕は帰って早速VRを体験しようと、機械を箱から出して配線を繋いだ。そしてまずは、この機械と一緒に付いているいくつかのVR体験ができる初心者用ソフトをやってみようと思い、VRゴーグルを頭に装着し、ソフトを起動したのだ。ソフトの中には、海の中でダイビングをできるものや、すごいスピードのレーシングカーに乗れるもの、そして宇宙空間に行って宇宙を探索できるものなどがあった。

 VRはとても素晴らしい。360度どこを向いてもその世界が広がっていて、本当にそこにいるような没入感がある。海の中では綺麗に水中が見渡せ、ものすごいスピードのレーシングカーに乗っている疾走感とクラッシュの恐怖感もあり、宇宙空間で浮遊している感覚も味わえるのだ。これは一度体験してみてほしい。

 と、こんなVR体験記を書いたり話したりしたいのだが、VRが世の中に出回り始めたのは7、8年前。VRでこんなことができ、没入感があることなど、もやは多くの人が知っていて体験したこともあるだろう。でも自宅で気軽に体験できるVRの機械を僕は欲しかったのだ。

 欲しい欲しい、とは思っていたが、買いあぐねていたところにプレゼントされたので、嬉しいことには変わりはない。ただ世の中的に、手に入れるのが少し遅いのである。

 VRの機械を手に入れたらわかるのだが、自宅で最初体験したときに「こんな素晴らしいものが自宅にあるなんて!」という高揚感がある。だが手に入れるのが遅かったせいで、話の鮮度が薄く、誰に話しても反応が良くない。

 なので今、初心者用の体験ソフトを付けるのであれば、海中やレーシングカー、宇宙空間といったありきたりなVR体験ができるものではなく、いろんな人が代わる代わる僕の元へ来て「え? VR買ったの!? マジかよ! スッゲー!」「どんな感じだった!? 本当にVRの世界にいる感じするの!?」「頼むよ、俺にも一回体験させてくれよー!」と、前のめりで羨ましがってくれる、という映像が見られるソフトを付けてほしいのだ。

 シチュエーションはいろんな場所があってもいい。学校の教室、会社の休憩室、居酒屋、どの場面でも僕が「ちょっと……実は最近VRの機械買っちゃってさ」と話すと、クラスメイトや同僚や友人が「本当かよ!? いいなぁ!」「家にVRあるってマジ凄いな!」「羨ましいわー! 友達にVR持ってるやつがいるなんて俺も鼻が高いよ!」と羨ましがる映像だ。

 クラスメイトは「今度お前の家でVR体験会やってくれよ!」と言い、同僚からは「VR持ってるって思うとカッコ良く見えてくるわ!」などと言われ、居酒屋の店長が「お兄ちゃんVR買ったんだって? よし、お祝いに今日は俺からみんなに1杯ずつ奢りだ!」と言って酒が振る舞われる。そんな体験をVRでさせてほしいのである。

 そして後日、その人らと僕の家でVR体験会をすることになり、家に集まって一緒に夕飯などを食べた後、僕が「それではお待たせしました。これからVR体験会を始めたいと思いまぁーす!」と言うと「待ってましたー!!」と大盛り上がり、友人や同僚が一人一人ゴーグルを着け「うわ! スッゲー!」「ビックリした! 本当に目の前にいるのかと思った!」「ちょっと待って! 落ちる落ちるー!」と、とにかく僕の買ったVRを楽しんでくれているという映像をVRで見たい。

 ちゃんと自分の元にVRゴーグルが返ってきた時には、VRゴーグルに人の額の脂が付いていて、買ったばかりなのに、と思いながら、それをティッシュで拭うというリアリティがあってもいい。

 さらに別の日、女の子に「VR買ったんだけど、ウチ来ない?」などと、誘いのメールを入れると「本当!? VR買ったんだ! いいな! いくいくー!」と、感触のいい返事が来て、部屋を片付けながら待っていると、ピンポーン! とベルが鳴り、自宅に女の子が来る。

「VR体験ができるなんて夢みたいだよー!」と言う女の子に、やり方を教えてあげながらVRゴーグルを着けてあげ「すごーい! 本当に海の中にいるみたーい!」と、喜ぶ様子を見る。

 そして一通りVRを体験した女の子がVRゴーグルを外し「すっごい楽しかった! ありがとね!」と言った後、ちょっとした沈黙があり、女の子の「じゃーそろそろ帰るね!」の一言で、帰り支度を始め「またねー!」と帰っていく。

 いや、何もないんかい! と思いながら一人でVRの機械を片す。という妙にリアリティのある体験ができる映像も付けてもらいたいものだ。

 誕生日にVRの機械を貰って、どこか満たされない感覚を味わった。その後、僕はVRのソフトをいくつか買って楽しんだ。

 今、自宅にあるVRの機械は数ヶ月起動していない。どうやら僕も、VRの機械を買った友達に対して、薄い反応を示す側になったようである。

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次回の更新日は2021年6月25日(金)です。

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