夫・車谷長吉

夫・車谷長吉

著者
高橋 順子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163906478
発売日
2017/05/12
価格
1,760円(税込)

内容紹介

この世のみちづれとなって――

十一通の絵手紙をもらったのが最初だった。
直木賞受賞、強迫神経症、お遍路、不意の死別。
異色の私小説作家を支えぬいた詩人の回想。

【本文より】

長吉は二階の書斎で原稿を書き上げると、それを両手にもって階段を降りてきた。
「順子さん、原稿読んでください」とうれしそうな声をだして私の書斎をのぞく。
私は何をしていても手をやすめて、立ち上がる。食卓に新聞紙を敷き、
その上にワープロのインキの匂いのする原稿を載せて、読ませてもらう。
(中略)
それは私たちのいちばん大切な時間になった。原稿が汚れないように
新聞紙を敷くことも、二十年来変わらなかった。相手が読んでいる間中、
かしこまって側にいるのだった。緊張して、うれしく、怖いような
生の時間だった。いまは至福の時間だったといえる。 (本文より)

データ取得日:2024/04/18  書籍情報:JPO出版情報登録センター
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