マリアさま

マリアさま

著者
いしいしんじ [著]
出版社
リトル・モア
ISBN
9784898155103
発売日
2019/09/07
価格
1,650円(税込)

内容紹介

いしいしんじ3年ぶりの小説集――
『マリアさま』

2000年~2018年のあいだ、様々な媒体で書きためられた短篇・掌篇より、「新生」をテーマに、27篇、選りすぐりました。

―――

森羅万象きらめく、
片隅で掬われた、って、
これは、そんなおはなし。

―――

動かなくなったトビをぷいと吐きすて、私は再び身構えました。ばさばさとトビたちがはばたく気配がします。私は、もう見えない目でにらみつける。
――「犬のたましい」

本日は、祖父、晴臣をしのぶ会にお集まりいただき、まことにありがとうございます。孫の新子と申します。
――「とってください」

ごほり、ごほり、と濁った咳をティッシュペーパーでうけ、いいかい、と目線でたずね、こちらがうなずくとてのひらの上で紙をひらいてみせた。溶けたチョコレートのような粒々がそこにあった。「土だよ」
――「土」

「こんばん、西の山へいってみないか」横顔をむけたまませせらぎは黙っている。ゴトリ、ゴトリ、水車がまわり、だんだんとそれは、足もとの地面がゆっくり回転する音にきこえだした。せせらぎの手は砧を撫でつづけ、俺はふうと息をつき、川辺を離れた。
――「せせらぎ」

今日みたいにドライブがてら、「おそと」で音を拾って歩く姿を、わたしは物心ついたときから見なれている。十代半ばからは、京町家に泊まりにいった翌朝には、ほぼ決まってわたしを連れ、ケンチさんは「おそと」へでかけた。まるで、かたく閉じかけていたわたしの窓を、外いっぱいにひらくように。
――「自然と、聞こえてくる音」

虎は身を揺らせながら銀座通りを歩いている。歩行者天国ならぬ虎天国である。さすが銀座通りだ、と思う。
――「虎天国」

他、全27篇。「物語」の力、「物語」を読む時間を、大切に思える、一冊です。

データ取得日:2024/04/18