大矢博子の推し活読書クラブ
2020/01/08

木村拓哉主演「教場」 見事なドラマ化! 切れ味鋭い原作にも注目

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 左腕が暖かい皆さんと、熱く I love you 届けたい皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、2020年最初の一発はもちろんこちら!

■木村拓哉・主演、西畑大吾(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)・出演!「教場」(2020年、フジテレビ)

 めちゃくちゃ良かったなあドラマ! 原作を先に読んでいた身からすると、風間公親が木村くんというのはイメージが違うのでは……と思っていたのだが、いやもう、そう思っていた放送前の自分を殴りに行きたい。風間だ、風間がここにいる……! 木村くんの新たな代表作になりそうな予感すらする。そして原作ファンとして何より嬉しかったのは、原作の骨格をそのままに、見事に再構成して長編ドラマに仕上げてくれていたことだ。

 原作は長岡弘樹の同名小説「教場」シリーズ。警察学校を舞台にしたミステリだ。生徒たちは常に監視下に置かれ、厳しい指導を受ける。そんな極限状態の中で起きるさまざまな事件。白髪義眼の教官・風間公親は問題のある生徒に退校を迫りつつも、突然理解しがたい命令を与える。そしてその真意がわかったとき、隠されていた真相に読者は驚くことになる──というのが原作の構造だ。同時に、警察官には向かないと篩(ふるい)にかけられた生徒がひとりずつ退場していく、警察学校サバイバル小説でもある。

 今回はシリーズ最初の2作『教場』『教場2』(ともに小学館文庫)がベースになっていた。いずれも短編集で、ドラマで扱われた数々の事件はそれぞれ独立した短編として描かれている。一話ごとに異なる生徒が視点人物となるオムニバス形式でありながら、前の話の事件の決着が次の話で語られたり、別の話に伏線が張られていたりと、続き物としての側面も持つのが特徴。その「引き」が原作の大きな魅力のひとつだ。

 ではドラマに使われたエピソードが原作のどの話に当たるか、放送順に紹介しよう。宮坂(工藤阿須加)と平田(林遣都)の一件は『教場』第1話「職質」、岸川(葵わかな)が楠本(大島優子)に怪文書の相談をするのは第2話「牢問」、樫村(西畑大吾)と日下部(三浦翔平)のエピソードは第4話「調達」、南原(井之脇海)の銃を巡る一幕は『教場2』第1話「創傷」、美貌自慢の菱沼(川口春奈)と手話ができる枝元(富田望生)の話は第4話「敬慕」をそれぞれ原作としている。そして山中での模擬殺人事件のテストは第5話「机上」からの部分抜粋だ。

 だがそれ以外にも、多くを原作から拾ってきていた。たとえばラスト近くに風間が都築(味方良介)の父親について言及するくだりがあるが、これは『教場2』第6話「奉職」に(相手も内容も異なるが)よく似た場面がある。授業内容や登場人物のセリフにも、ベースとなった短編以外の話から採られているものが多々あった。原作を読んで「この場面見た!」というのを探してみていただきたい。


イラスト・タテノカズヒロ

■ドラマと原作の違いに注目

 描かれる事件とその真相、そしてその後の顛末はすべて原作通り。だが原作では『教場』と『教場2』は別の年次の話で生徒がすべて入れ替わっている上に、一話ごとに視点人物が変わるため合計での登場人物はかなりの数になる。翻ってドラマはすべて同じ年次の話として、主要人物をかなり絞っていた。その結果、原作の複数人のエピソードをひとりで賄う場面がいくつか見られた。それが可能なように、人物設定を変えている。

 たとえば南原の銃を巡る一幕。ドラマで彼の「相手」になるのは宮坂だったが、原作で語り手を務めるのは桐沢という人物だ。彼は医学部出身で、内科医という経歴を捨てて警察学校に入った変わり種──と書けば、ドラマを見た人には想像がつくのではないだろうか。あのエピソードが原作では医者の目から語られているわけで、当然、ドラマとは異なるアプローチで真相が明らかになる。なお、ドラマで日下部がオムライスに施した「実演」も、原作では桐沢がやっている。

 また、優等生の都築が警官になった動機を訊かれ「警察には色々と文句がある」と答える場面があったが、これは『教場2』の主要人物・美浦の設定をそのまま借りている。原作の都築はただの(という言い方も変だが)偏屈な優等生に過ぎない。けれど美浦のキャラクターと合わせることで、終盤のあの盛り上がりが生まれた。だが当然、原作では別の人物なわけだから、美浦には美浦のドラマがある。これがまた実にいいので、『教場2』の「奉職」でどうぞ。

 このような細かい設定の変更の他に大きな違いがひとつある。それはドラマに「救いを加えた」ことだ。ドラマで描かれた事件のあとのちょっとした「いい後日談」は、原作にはまったく登場しない。仲違いしたふたりがカフェで仲直りする場面もないし、同級生同士で泣きながら腹を割って語り合うこともない。交番勤務になった卒業後の風景も一切ない。原作はとことんクールで、徹底して怜悧。淡々とした筆致で、スパッと断ち切るようなラストに震えるぞ。

 だからドラマが見事な青春群像劇になっていたのには驚いた。まさか「教場」で泣くとは思わなかったよ! けれどそれは原作には「情」がないということでは決してない。クールに、怜悧に、淡々と出来事を描きながら、実はその底には熱い情が隠されている。原作はドラマほど親切ではない。「そこまで読み切れるか?」と読者に挑戦している、と言ってもいい。著者の長岡弘樹は短編小説の名手だ。その切れ味の鋭い短編に込められた「隠し」と「騙し」のテクニックをぜひ原作で味わっていただきたい。

■「教場」以前と以後を小説で補完する

 ドラマの中で、都築が風間の過去を調べるくだりがあった。あれは原作にはない脚色だが、そこで彼が調べた内容──風間が片目を失った出来事は、シリーズ第3作『教場0 刑事指導官・風間公親』(小学館文庫)で詳しく語られている。これは風間が現役の刑事時代の話で、臨場の際に若手刑事の指導を担当するという短編集だ。

 そして先ごろ出版されたばかりの第4作『風間教場』(小学館)はシリーズ初の長編。風間が片目を失ったときにバディを組んでいた刑事が、教官として風間のもとに赴任してくる。そしてドラマで工藤阿須加が演じた宮坂が再登場。警察学校の卒業生として後輩の指導に当たるのだ。ドラマを見た人にはぜひ工藤阿須加を思い浮かべなら読んでほしい。

 フジテレビ公式サイトのインタビューによると、木村くんはこの役が決まってから、その時点で刊行されていたシリーズ3冊を読み、「なぜ風間公親は警察学校の教官をやっているのか、彼がそこにいる理由を自分なりに受け取」ったと語っている。原作を読んで、木村くんがどう受け取ったか考えてみるのもいい。そして『風間教場』で風間が立ち向かう大きな出来事を、木村くんならどう演じるかも想像して読んでみてほしい。っていうか、シリーズ化しないかなあこのドラマ。

 大ちゃんこと西畑大吾が演じた樫村についても触れておかねば。これまで朝ドラ「ごちそうさん」(NHK、2014)と映画「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』(2017)のせいで、大ちゃんといえば坊主頭の昭和の子、という印象が刷り込まれていたのだが、ちゃんと髪の毛のある現代っ子の大ちゃん可愛い! 「どうもで~す♪(てへぺろ)」も可愛い! なにこれ可愛い!

 ……と思っていたら背負い投げを食らう。大ちゃんの「悪い顔」がめっちゃ良いのだ(悪いのか良いのかどっちだ)。あの二面性にはゾクゾクしたぞ。特に、すべてが終わった後、椅子に座ったままの大ちゃんの演技に注目。原作にはあのくだりはないんだぞオリジナルなんだぞ。こんないい役者だったのか。原作で樫村の再登場がないのが残念だなあ。……だけどきっと彼は、警察を辞めた後でアイドルになって京セラドームでコンサートとかやっちゃうから大丈夫! 「関ジュ 夢の関西アイランド」はいよいよ今週末だぞ用意はいいか!?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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