大矢博子の推し活読書クラブ
2020/02/26

藤ヶ谷太輔主演「やめるときも、すこやかなるときも」ふたりの心に寄り添った原作を要チェック!

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 今日という日を僕らの記念日にする皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は藤ヶ谷くん成分をたっぷり補給できるこのドラマだ!

■藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)・主演、五関晃一(A.B.C-Z)・出演!「やめるときも、すこやかなるときも」(2020年、日本テレビ)

 これはとてもいいドラマ化! ……なんだけどちょっと困るのは、地域で放送日にばらつきがあるってことなんだよね。東京では2月26日現在すでに佳境の第6話まで放送されてるんだけど、地方によってはまだ3回だったり4回だったり。福岡では今週から放送が始まったばかりだし、山陰(すごく重要な場所。放送済みエリアの皆さんはわかるね?)では4月からの放送予定だ。つまりまだ始まってない!

 今やネット配信で全国どこでも最新話が視聴できるとはいえ、リアルタイムでの視聴を楽しみにしてる人も多いでしょうから、あらすじに触れるのはドラマ第1話該当分を中心にして、具体的な展開は極力明かさない方向でいきますね。

 原作は窪美澄の同名小説『やめるときも、すこやかなるときも』(集英社文庫)。家具職人の須藤壱晴と広告制作会社勤務の本橋桜子のラブストーリーで、奇数章は壱晴視点、偶数章は桜子視点(終盤イレギュラーな章あり)で進む。

 まずは壱晴の第1章。日曜の朝、自室で目覚めた壱晴は隣で女性が眠っているのに気づく。昨夜は友人の結婚パーティで飲み過ぎたせいか記憶がないが、ふたりとも下着をつけていたので何もなかったのだろう。起こしても起きないので鍵とメモだけ残し、その女性の顔も見ずに家を出た。どうやらこういうことには慣れてる様子。

 翌日、家具のパンフレット作りの打ち合わせに制作会社の女性・桜子がやってくる。壱晴は覚えていなかったが、偶然にも昨日ベッドにいたのが桜子だったのだ。どうやら酔って正体をなくした桜子を壱晴が介抱したらしく、ひたすら謝る桜子。そして2度目の打ち合わせのとき、それは起きた。会話の最中で、突然壱晴の声が出なくなったのだ──。


イラスト・タテノカズヒロ

■視点が入れ替わることで浮かび上がる全体像

 そこまで壱晴視点で語ったあと、第2章は桜子の視点だ。結婚パーティ前夜に時間が戻る。色々抱えてそうな家族の描写と、「重い」と言われて振られた過去の恋愛の振り返りを混ぜつつ、仕事の付き合いで出席した結婚パーティで出会った男性と途中で抜け出したこと、バーで飲んで以降の記憶がないこと、目覚めたら見知らぬ部屋でひとりだったことが綴られる。

 仕事で出向いた打ち合わせでその男性・壱晴と再会して驚くも、相手は自分にまったく気づかない。自分はそんなに印象が薄いのかと悩む一方で、家具職人というのは結婚相手としてカッコイイかもなんてことも考えたり。いろいろ意識しつつ臨んだ2度目の打ち合わせで、突然壱晴の声が出なくなり──。

 というふうに、1章と2章がそれぞれの視点で見た同じ場面で終わるという構成になっている。これはまるっとドラマの第1話に相当するわけだが、ドラマは主に桜子視点で描かれていたため壱晴の事情はあまり明かされず、ただ謎めいたイケメン家具職人としての登場だった。ちなみに原作では、壱晴は「鼻筋はすっと通っていて端正な顔立ちと言ってもよかった。どことなく女性的な印象を受けるが、グラスをつかむ手の甲は筋張っていてそこだけが妙に男を感じさせた」とのことで、おお、藤ヶ谷くんピッタリじゃないか。

 てか、一夜を共にした(?)相手が目の前に現れてもまったく気づかず爽やかな笑顔ではじめましての挨拶するって、えっと、藤ヶ谷くんちょっとそれどーなの? だがそこがいい! むしろいい! オム・ファタール感ハンパない! などと桜子と一緒になってアタフタしてしまうわけだが、けれど原作では先に壱晴の章から始まるので、少々印象が異なる。

 ドラマではどうやらこの時期(12月上旬)に壱晴に何かあるらしい、というのがほのめかされるにとどまったが、原作第1章ではもう少し具体的に、毎年この時期になんらかの身体的症状が出るというところまで明かされる。だから壱晴の声が出なくなったとき、読者には「ああ、これか」とすぐわかる。一方、桜子はそんなことは知らないので、今まで普通に会話していた人の声が急に出なくなったことに驚き、慌て、心配する。視聴者の見方は桜子に近いだろう。

 でもちょっと待って。原作第1章が壱晴視点ということは、原作を読めばそのとき壱晴が何を考えていたかがわかるということなのだ。いわばアンチョコである。初めて桜子に会ったとき何を思ったか、このセリフを言ったとき何を考えていたか。特に桜子視点だと壱晴は唐突な行動や反応が多いように見えるが、原作ではなぜそんな行動に出たのかがちゃんと書かれているのだ。
 

■原作で藤ヶ谷くんのミステリアスな演技の裏側を知る

 たとえば、壱晴の声が出なくなったとき、ドラマでは桜子が慌てて背中をさすったり救急車を呼ぼうとしたりする。壱晴は無言でそれを制し、筆談で「大丈夫です」「打ち合わせを続けましょう」と伝えるのだが、壱晴視点の原作ではその傍ら、「今年もやっぱりだめだったか」と落胆し、同時に桜子を見て「それが起こる日に僕は誰かにそばにいてほしかったんじゃないだろうか」「だからわざとこの日に本橋さんとの約束を入れたんじゃないか」と考えているのだ。つまり藤ヶ谷くんの表情の裏が読めるのである。

 そして第3章では、初めて声が出なくなった大学1年の時の話と、その後についてが詳しく語られる。壱晴がなぜ家具職人という道を選んだか。なぜ次々と取り替えるように女性と会うのか。声の出ない壱晴を支え、背中を押してくれた同級生の存在。師匠との出会い。ドラマではかなりの部分がカットされていたので、この3章を読むことで藤ヶ谷くん演じる壱晴の内面がよりわかるはず。

 他にも(これはドラマの第2話以降の展開になるが)、桜子の父親に「桜子とつきあってんのか」と言われて壱晴が咄嗟に返した一言に「え、いきなり?」と驚いた視聴者も多かったのでは。唐突すぎるあの言葉の裏にどんな意味があったかは、ドラマでは第5話まで進まないとわからないのだが──そしてそれを桜子が知る場面がとても切ないのだが──原作では桜子視点の第4章の最後でその言葉が発せられた次のページ、壱晴視点の第5章の冒頭で早々に説明されることになる。ドラマが急展開の裏にある壱晴の思いを探っていく物語だとするなら、原作はふたりの気持ちに寄り添いながら一緒に進んでいく物語なのだ。

 ドラマを見てミステリアス壱晴の謎を解くか、原作を読んで壱晴の内面に寄り添うか。ドラマが先か原作が先かで2通りの楽しみ方ができる。まだ放送が始まったばかり、あるいはこれから放送が始まる地域の皆さんは、原作を先に読んで、壱晴の言葉ひとつひとつの裏を感じてみてはどうだろう。そして第6話まで見た人は、このあとのふたりの葛藤がどちら目線で映像化されるのかによって、相手の裏側を原作で補完してみるのもいい。

 そして何といってもガヤ担さん注目ポイントは、壱晴を演じる藤ヶ谷くんだ。今回、壱晴が抱えているトラウマは、かつて藤ヶ谷くんが「MARS~ただ、君を愛してる~」(2016年・日テレ)で演じた零のそれに近い。けれど学園ものだった前作に対し、今回の壱晴は職人。原作では、師匠から工房を譲り受けたものの、なかなか世に認められる作品が作れない壱晴のジレンマが綴られる。最終的にブレイクスルーとなったものは何なのか、最後まで読むと、なんだかJr.での長い下積み時代を経た藤ヶ谷くんと壱晴が重なる気がするのだ。

 なお、ドラマ化にあたってストーリーにはほとんど改変が見られないが、壱晴の大学時代からの友人、妙子がカットされたのは残念。この妙子がいいんだよー、救いなんだよー! その分、もしかしたら五関くん演じる元兄弟弟子の柳葉がその役割を担うんじゃないかなと想像中。原作では終盤に柳葉との関係にも変化がある。もし原作通りに進むなら、下積み時代からブレイクして以降も、柳葉はずっと壱晴のそばにいることになるので、五関担にも胸熱展開が待ってるぞ!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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