増田貴久が「本に目覚めた!」 ドラマ「パレートの誤算」原作小説を今読むべき理由とは
優しい光に見守られてるから独りじゃない皆さん、こんにちは。不安な毎日が続きますが、こんな時でも私たちのために現場で働いてくれている人がたくさんいます。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はまっすーが市役所勤務の公務員を好演しているこのドラマだ!
■増田貴久(NEWS)、那須雄登(美 少年/ジャニーズJr.)・出演!「パレートの誤算 〜ケースワーカー殺人事件」(2020年、WOWOW)
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- パレートの誤算
- 価格:803円(税込)
まっすーと那須くんが出演している「パレートの誤算」は今年3月7日に初回が放送、全5回で4月4日に最終回を迎える。加入してないから見られないよー、とお嘆きのファンも多いであろうWOWOWだけど、再放送も多い上に、時々「ドラマ初回の無料再放送」をやってくれるのだ。
来たる4月4日には最終回の前に初回から第4話までを一挙再放送、しかも初回分は無料放送ってんだからありがたい。初回だけでも見ておけば、原作を読んだときにまっすーを思い浮かべやすくなるはず。──ということで、まずはいつものように原作から紹介しよう。
原作は柚月裕子『パレートの誤算』(祥伝社文庫)。市役所の社会福祉課に勤務する臨時職員・牧野聡美は、ある日突然上司からケースワーカーの見習いを命じられた。生活保護受給者の相談にのったり就労支援をしたりする役目だ。その難しさを聞いていた聡美は不安を抱くが、先輩課員の山川享に励まされ、同僚の小野寺淳一とともに受給者の家庭訪問を始めた。ところが山川の訪問先アパートで火災が発生、焼け跡から発見された山川の遺体には他殺の痕跡があった……。
というのが原作・ドラマ両方に共通する導入部だ。とはいうものの、実はドラマの初回放送は、山川の訪問先で火災が起き、心配になった小野寺と聡美が駆けつける場面まで。遺体の発見や他殺の所見は第2話での出来事になる。原作では第1章が始まってわずか3分の1程度に当たり、物語としては本当に「出だし」の部分と言っていい。
けれどドラマでも原作でも、この「出だし」はとても大きな意味を持つ。ここで、生活保護費の受給にまつわる仕事の様子がつぶさに描かれるからだ。窓口での受給がどのように行われるかや受給者の家庭訪問の様子、そして福祉に携わる職員の中にも生活保護については温度差や考えの違いがあるということ。山川の遺体が発見されてからはミステリの色合いが濃くなるが、その前に、必要な前知識がここで伝えられるのである。
■まっすー演じる小野寺淳一、原作とここが違う
無料で見られる初回放送に限って言えば、話の大枠は原作と同じ。ただ原作では又聞きや口頭での説明だった部分が、ドラマでは聡美が山川の受給者訪問についていくという体裁にして実際に映像で見せてくれた。加えて、原作にもある小野寺との訪問も原作に近い形で再現され、「ケースワーカーってたいへんだな!」というのがより具体的にわかるよう工夫されていた。
ここで注目したいのは、やはりまっすー。ドラマ初回は優しく優秀な先輩ケースワーカー・山川の描写が中心で、まっすーの見せ場はさほど多くないが、その人物像はしっかり出してきた。生活保護受給者に対して「もっと努力できるだろう」と考え、やさぐれて煙草を吸う母親に初対面で「もう少し本気で自立の努力をした方がいいんじゃないですか、息子さんに恥ずかしくないんですか」と説教し、ギャンブル好きの受給者には「生活保護費はパチンコで無駄遣いするためのお金じゃないんですよ」と詰め寄る。正しい、正しいんだけど、「言い方ァ!」と突っ込みたくなるような、ザ・正論マンだ。
公式サイトのメイキングビデオでまっすーは小野寺を「今の自分の状況に100%自信を持ってやってない、でも与えられた仕事は一生懸命やる普通の30歳」と分析している。だが実は、原作の小野寺は少し違う。原作の小野寺は役所の中で「働かないで金をもらえるなんて、うらやましい話だよな」と口にして山川にたしなめられ、家庭訪問では「残りの二軒をさくっと、終わらせてしまおうか」「やっぱり嫌な仕事だよなあ、ケースワーカーなんて」「今日は、ぱあっと飲みに行くか」などなど、受給者の支援に熱心になれないタイプの職員として描かれている。
彼がそう考えるに至った理由は後に語られるが、熱心ゆえに正論に走るドラマ版にしろ、やりがいを見出せずにいる原作版にしろ、小野寺の考えや振る舞いは、私たちの中にも多かれ少なかれ存在するものだろう。ヒロインの聡美も、最初は受給者にネガティブな印象しか持っていない。山川の殺人事件のあと、小野寺と聡美が事件を調べる中で彼らの考えがどう変わるのかがひとつの見どころ。本書はミステリであるとともに、小野寺と聡美の成長物語でもあるのだ。
一方、那須くん演じる金田良太はドラマでは第2話からの登場。聡美の兄の元同級生で、焼失したアパートに住む生活保護受給者である。火災の時点から行方がわからなくなり、警察が探している──という役どころだが、回想場面での高校球児から金髪ヤクザまで、いろんな那須くんが見られるのが楽しい。ドラマ初挑戦にしてかなりのキーマンに抜擢されてるので、ぜひ原作の金田も那須くんでジャニ読みしていただきたい。
■今だから読みたい、まっすーが「本に目覚めた」原作小説
前述のメイキングビデオでまっすーは、原作小説を読んで「内容が面白かったですし、スラスラ読めて、本、面白いなーって、本に目覚めちゃうきっかけになった」と語っている。それだけで「読まねば!」てなもんだけど、本書の面白さのひとつは、次々と局面が変わるテンポの良さだ。まさかあの人が?という意外性はミステリの常だが、それが本書ではどんどん起きる。いい人だと思ったのに、そうじゃなかったの? 信じてたのに、そうじゃなかったの? 逆に、ダメな人だと思ってたのに、そうじゃなかったの? ──そういう「評価の逆転」が物語をスリリングにしているのだ。
この「評価の逆転」は、物語そのもののテーマでもある。いくつかの手がかりをどう組み合わせるか、どう解釈するかで、人は簡単に「容疑者」になってしまう。それは言い換えれば、状況が変われば人は誰でも──生活保護受給者をネガティブに捉えている人であっても──社会のセーフティネットを頼らざるを得なくなる可能性がある、ということなのだ。
これは、自粛を強いられて(本来「自粛」とは自発的に何かをやめることを指す言葉であり、要請したり強いたりするものではないのだが)さまざまな経済活動が打撃を受けている今なら、容易に想像がつくだろう。作中、生活に困窮した人物が刃物を持って市役所に立て籠るという事件が起きる。彼はこう叫ぶ。
「こっちはのう、今晩の飯代もないんじゃ。このままじゃと飢え死にするしかない。ほいじゃのにこいつが、医者の書類を持ってこいとか、すぐにはどうにもならんとか、吐かしやがるんじゃ」
この稿を書くにあたって本書を再読したとき、このセリフは以前読んだときとはまったく違うリアリティで私の胸を打った。規則は規則で、彼にまず書類の提出を求めた職員は決して間違ってはいない。だが、原則論ではどうにもならないことがある。そのとき社会保障に求められるものは何なのか。社会保障を正しく運用するために必要なことは何なのか。小野寺が最後に到達した「思い」を、どうかじっくり噛み締めてほしい。まさに今、読まれるべき一冊だ。
NEWSのライブツアーが中止になったのは本当に残念だけど、アルバム「STORY」が発売されたり、こうしてドラマやバラエティで顔を見たりすることができる。どうせ家にこもるなら、原作小説を読むのも手だ。繰り返しの毎日で行き場のないこの気持ち、めげずにLaugh, Laugh もういっちょ!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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