大矢博子の推し活読書クラブ
2020/04/15

大倉忠義出演「疾風ロンド」 原作でこそ! 大倉くんの活躍をお家でもっと楽しもう

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 描いてた夢に早く出会いたい皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は大倉くんがスノーモービルで雪山を駆け回るこの映画だ!

■大倉忠義(関ジャニ∞)・出演!「疾風ロンド」(2016年、東映)

 原作は東野圭吾の同名小説『疾風ロンド』(実業之日本社文庫)。拡散すれば大量死は免れない強力な生物兵器K-55が研究所から盗まれた。犯人はそれを雪山に埋め、目印としてテディベアの写真を送付。3億円払えば場所を教えるという。しかしその直後、犯人は交通事故で死亡し、交渉の手段が断たれてしまう。

 残されたヒントはテディベアの写真に映り込んだスキー場らしき風景のみ。研究所員の栗林はスノーボードが趣味の息子の協力を得てスキー場を特定したものの、彼自身はスキーができない上に、隠し場所はコース外の立ち入り禁止区域でパトロール隊の目も光っている。おまけに栗林を密かにつけ狙う人物も現れて……。極秘任務ゆえ他人には頼れない。さあ、どうする?

 というのが原作・映画の両方に共通する粗筋である。いや、共通するのはこれだけじゃない。この映画、最初から最後までびっくりするくらい原作に忠実なのだ。もちろんカットされたエピソードや説明が加えられた場面もあるのだけれど、ストーリーに対する改変や脚色はいっさい無い。逆にここまで原作通りに映画化できるものなんだと感動したレベルだ。

 ところが、ストーリーをまったくいじってないにもかかわらず、原作と映画には大きな違いがある。映画が完全にコメディになっていたことだ。もちろん原作にもコメディ要素はある。東野圭吾のガチのサスペンス小説と比べれば、本書はシニカルでユーモラス。クスッと笑える箇所も随所にある。そもそも生物兵器という危険なものを一所員の孤軍奮闘で探させるという設定自体、「ゆるい」と言っていい。けれど映画を見たあとで原作を読むと、意外にシリアスなことに驚くだろう。原作ではっきりコメディ仕立てになっているのは栗林に捜索を命じる上司のキャラと、最後のオチくらいなのだ。

 そしてもうひとつ──たとえストーリーは変えていなくても、ジャニオタとして看過できない変更がひとつあった。大倉くんが演じた根津の扱いが、原作より小さくなってるんだよーーー!


イラスト・タテノカズヒロ

■大倉くん演じる根津昇平、原作では彼が主役!

 この映画で大倉くんが演じた根津昇平は、舞台となった野沢温泉スキー場(原作では野から「予」をとって「里沢温泉スキー場」という架空の場所になっている)のパトロール隊員だ。ケガをして動けない栗林に頼まれ、スノーボーダーの瀬利千晶とともにK-55を探すことになる。

 映画では颯爽とスノーモービルを駆り、温泉街を軽トラで爆走し、ムロツヨシ演じる謎の男に鮮やかにラリアットを決めた。なお、あのラリアットが決まった瞬間の大倉くんの表情は、監督から「ジャニーズ顔で」と求められてのものだったそうで、サモアリナンとにやにやしちゃうイケメンぶりであったことよ。

 とうわけで大倉くんに文句はない。充分かっこよかった。しかし原作の根津は映画とは少し違う。むしろ大倉くんファンは原作こそを読むべきだ、と進言しよう。なぜなら原作の方が、根津昇平の出番が多く扱いも大きい、何より映画よりずっとかっこいい役なのだから。実は原作では根津昇平こそが、この雪山シリーズの主役なのである。原作通りなら、もっと大倉くんの見せ場が増えていたのに!

 現在のところ、雪山シリーズは『白銀ジャック』『疾風ロンド』『雪煙チェイス』の3作と、番外編的な位置付けの『恋のゴンドラ』(すべて実業之日本社文庫)がある。『白銀ジャック』ではスキー場に爆弾が仕掛けられ、『雪煙チェイス』では殺人の濡れ衣を着せられた人物がスキー場でアリバイ証人を探す。『疾走ロンド』の栗林のように、それぞれの物語で事件の中心になる「主人公」はいるが、すべての作品でそれを助け、雪山を動き回り、事件を解決に導くのが根津昇平(と瀬利千晶)なのだ。

 原作の根津は元スノーボードクロスの選手という設定で、スキーもプロ級。したがって原作では根津の鮮やかなスキー描写が光る。映画では9歳からスノーボードをやっていたという大島優子にアクション場面が任されていたが(原作でもあの場面は千晶の独壇場)、シリーズ3作+1作には、根津の見せ場もふんだんにある。また、映画の根津は栗林に振り回される役どころだったのに対し、原作のシリーズはどれも根津自身の判断と推理と行動で物語を進めていく。まさに根津が主役なのである。

 映画もとても面白かったけど、根津の扱いが原作より軽くなったのは大倉くんファンとしては残念なところなのだ。ぜひ原作をシリーズまるごと大倉くんでジャニ読みしていただきたい。

■7年前のメッセージが今の時代にシンクロ

 原作が刊行されたのは2013年11月。東日本大震災から1年7ヶ月というタイミングもあり、原作には当時の社会情勢についての描写があった(同じ会話は映画にもあった)。震災のあと、多くのスキー場がクローズし、大会も中止になった。理由は「自粛」。自分たちがやってきたことは、非常時には自粛しなくちゃならないようなことだったのか、と千晶がこぼす。ああ、当時は確かにそうだったな、と思った。

 この冬、各地のスキー場が休業したり営業を縮小したりした。また、スキーやスノボの大会も中止になったものが多い。いずれも「自粛」である。だが震災後の「自粛」と今の「自粛」は意味も目的も規模も違う。ここで千晶や根津が語る自粛についての考えを、今の社会に当てはめることはできない──と思うでしょ?

 けれど物語を読み進めていくと、驚くはずだ。実は本書の重要なエピソードに、インフルエンザがある。もともと体の弱かった少女が、インフルエンザに罹患して命を落とした。その母親はインフルエンザをうつした生徒を恨んでいる──というくだりが出てくるのである。生徒たちは、自分たちだって罹りたくて罹ったんじゃない、恨むなら学級閉鎖しなかった校長を恨めと反論する。その陰で「うつした側」は罪悪感に苛まれるのだ。

 自粛のくだりを「今とは違うなあ」と思ったあとでこのインフルエンザのエピソードが出てきたときには、「今と似てるじゃないか」と思わず座り直した。そして、事件が解決したとき、千晶がこんなことを言う。

「あたしにはあたしにしかできないこと、あたしのやるべきことがある。それを続けることが、きっと誰かのためにもなる」

 東日本大震災後の「自粛」をどう捉えるかに悩んでいた千晶のこの決意は、スノボを一生懸命頑張るということを意味する。だからそのまま今の社会に当てはめるわけにはいかない。けれど根っこは同じだ。自分がやるべきことを続けること、それが誰かのためになる。

 今月予定されていた関ジャニ∞のツアーがすべて中止になったのは残念だけど、本当に残念だけど、仕方がない。そんな今、「私たちが続けることで誰かのためになる」ことがある。家にいること。ジャニーズは手洗いの動画を公開したり、ライブ映像を期間限定で無料公開したりと、家にいるファンへのサービスやメッセージを多く出してくれている。だったら私たちも、家にいながらできる「推し活」に力を注ごう。eighterのオモイダマを届けよう。不安や孤独に襲われることもあるけれど、忘れないで君はひとりじゃなかったんだよ、今も明日もずっと!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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