大矢博子の推し活読書クラブ
2020/04/30

亀梨和也・山下智久出演「野ブタ。をプロデュース」彰のいない原作で修二はどうなった?

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 地元じゃ負け知らずの皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は再放送で話題沸騰、15年前の日々が蘇るこのドラマだ!

■亀梨和也(KAT-TUN)・主演、山下智久、中島裕翔(Hey!Say!JUMP)・出演!「野ブタ。をプロデュース」(2005年、日本テレビ)

 と今の所属で書いてはみたものの、当時はまだ山PはNEWSだったし裕翔くんはJr.だったしで、いやあ隔世の感。っていうか裕翔くんが子ども! 声変わり前! なんだチビ裕翔くん爆発的に可愛いなおい! 他にも、君たちがキモいだのブスだのっつっていじめてるのは後の堀北真希(後の?)だぞとか、戸田恵梨香も堀北真希もこのあとで朝ドラヒロインやるんだよなあ出世作だよなあとか。その一方で、深浦加奈子さんや忌野清志郎さんの姿にしんみりしちゃったり。15年、短くない。

 原作は白岩玄の文藝賞受賞作にして芥川賞候補にもなった『野ブタ。をプロデュース』(河出文庫)。心の中では周囲を見下しながら、好感度の高い自分を演出してクラスの人気者になっている桐谷修二。転校早々にいじめの標的になったクラスメートを、彼がプロデュースすることで人気者に変身させてやろうとする──というのが原作・ドラマに共通する基本設定だ。けれど原作とドラマには多くの違いがある。特に大きな違いは、

・修二にプロデュースされる転校生は、ドラマでは女子(信子)だが原作では男子(信太)。
・原作には、彰は登場しない。また、修二に弟はいない。
・ドラマに登場する学校内外のエピソードはほぼ創作。原作には登場しない。

 の3点。特に野ブタの性別とキャラが違うのは大きい。原作の信太(これが野ブタの由来)は太ってて脂ぎってておどおどした男子生徒。勉強もスポーツもダメなわけではない、原作の表現を借りれば「できるデブ」なのだが、コミュニケーションが下手で自信がなく、人の輪に入れないタイプだ。そこで修二は信太を、いじられキャラ・いじめられっこキャラ・お笑いキャラとして演出していく。プロデュースの方向性が原作とドラマでは違うため、作戦も当然変わってくるという次第。もちろん女子にすることでロマンス方面の展開もあるというのが最大の違い。

 だが第一歩は似ている。ドラマでは冴えない女の子(堀北真希だけど)が髪を切っておしゃれをし、一晩で美人になって周囲を驚かす。原作では脂ぎってフケの浮いた髪を丸坊主にし、清潔感とコミカルな可愛げを出して印象を変える。性別関係なく、見た目──ではなく身嗜みは大事というスタートは共通しているのだ。


イラスト・タテノカズヒロ

■彰のいない原作で浮かび上がる修二のダークサイド

 プロデュースの方向性に加えてもうひとつ違うのは、ドラマではいじめに負けない、打ち克つというのが前面に出ていること。誰だかわからない相手から陰湿ないじめが繰り返され、それをひとつずつ乗り越えながら人間関係を構築し、信子だけではなく修二も彰も自分を見つめ直していくという流れだ。彼女たちのプライベートの話や、いじめる側の心理描写もそこに重なる。「人は変われる」というのが大きなテーマになっているのだ。

 一方原作では信太の外見とキャラの変化によっていじめは早々に止まる。修二が考える信太のイメージ変更作戦は次々と図に当たり、思いの外易々と信太はクラスの中で人気者ポジションを固めていく。ドラマの信子が直面したような痛みや悩みの描写は原作にはまったく登場しない。

 ん? じゃあ原作の読みどころって何? そこがポイント。実は原作では序盤から修二のダークサイドが炸裂しているのだ。最初から最後まで修二の一人称で描かれ、彼の心中もストレートに語られる。文章はとても軽妙でコミカルで、会話文に(笑)なんてのがついてるくらいポップで読みやすいんだけど、そのコミカルな中に紛れて修二の本音がするっと挟まれる。自分が人気者でいられるように常に演技をし、心の中では周囲を下に見てバカにし、他人をコントロールすることに暗い喜びと優越感を感じる修二。イヤなヤツなんだよこいつ!

 ドラマの修二にも同じような部分はある。だがその一方で、実は心優しい部分や、相手を大事にする部分も同じくらいある青年として描かれている。偽善者である自分を自覚し、ジレンマを感じる描写もある。そして彰の存在が修二をフォローし、物語を柔らかくし、ぬくもりを添えている。その中で修二自身も変化し、成長していくので、彼に対して嫌悪感を抱くことはほぼない。

 その修二が人気者の座から転がり落ちる。そのきっかけは原作でもドラマでも同じだが、さてそこからどうなるか。それは原作をお読みいただきたい。ドラマとは違う展開、違うラストが待っている。ドラマのような派手で感動的な展開は、原作にはない。いじめというテーマを中心に据えて「人は変われる」という3人の青春ドラマに仕上げたテレビ版に対し、原作は徹頭徹尾、修二ひとりの物語だ。フォローしたり理解したりしてくれる彰はいない。弟とじゃれ合う楽しい家庭の場面もない。思い上がり、突き落とされる原作の修二。でもそれもまた亀ちゃんで見てみたい、と思わせてくれる。

■再放送で蘇るあの頃、そして今

 いやあ、それにしても、冒頭にも書いたが懐かしいねえ。俳優さんたちの15年前の姿が見られる以外にも、ガラケーだったりビデオテープだったりブラウン管テレビだったりして! その懐かしさは、原作からも味わえる。原作の初出は2004年。ドラマの放送とほぼ同じ時期で、原作の冒頭は「辻ちゃんと加護ちゃんが卒業らしい」である。モーニングでは「バガボンド」が連載され、ケータイのメールはセンターで止まったりする描写もある。ドラマを見て懐かしいのと同じくらい、原作を読んでも懐かしい。

 辻ちゃんと加護ちゃんがモー娘。を卒業した2004年から、『野ブタ。をプロデュース』がドラマ化され、修二と彰の「青春アミーゴ」が大ヒットした2005年にかけてはどんな年だったか。「新選組!」「義経」と2年連続でジャニーズが大河ドラマの主演を務め、「野ブタ」と同じクールでドラマ「花より男子」(TBS)第1期が放送され、松潤の道明寺くんが一躍人気に。そうそう、KAT-TUNはまだCDデビュー前だったけど、同じ年に亀ちゃんと仁くんが「ごくせん」(日本テレビ)に出て、一気に知名度が上がったんだった。

 昔の音楽を聞くとその当時が蘇るように、ドラマを見ても、この頃の自分は何をしていたかが蘇る。15年って、幼稚園児が成人式を迎える歳月だもの。学生は社会人になり、結婚したり子どもができたり、その子どもが成長してたり。当時と今では違う仕事をしていたり、住む場所が変わっていたり。私ごとだが、放送当時一緒にドラマを楽しんだ家族がこのあとで病気をし、今は後遺症を抱えながらリハビリを続けている。でも一緒に再放送を見て笑ったり「亀ちゃん若い!」とはしゃいだりしてると、あの頃が戻ってきたようでとても楽しい。

 ドラマの第3話で、堀北真希演じる信子と山P演じる彰がこんな会話をする。
「楽しいことって、あとになってみないとわからないんじゃないかな」
「何年かしたらさ、思い出すのかな。朝早く3人で人形作ったこととか、夕暮れにススキ摘んだこととか、何年かしたらあの頃は楽しかったなあって、思い出すのかな」

 今、このドラマが再放送されているのは、感染症のために新ドラマの撮影が止まって放送できなくなったからなので、決して喜んでいい状況ではない。それでもこの会話を聞いたとき、まさにこのドラマを見ていた「あの頃」を思い出した。そしてまた何年か経ってこのドラマをもう一度見たら、「ああ、あの頃はコロナでたいへんだったなあ」と思い出すのだろう。今のこの状況が思い出になる、そんな日が一日も早く来ますように。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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