大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2020/05/27

大野智主演「鍵のかかった部屋」原作を先に読んでおくべき理由 「こう来たか!」を楽しもう

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 鳴り響く時計の針を止めたい皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は特別編集で帰ってきたこのドラマだ!

■大野智(嵐)・主演!「鍵のかかった部屋」(2012年、フジテレビ)

 原作は貴志祐介の「防犯探偵・榎本」シリーズ。長編『硝子のハンマー』、短編集『狐火の家』『鍵のかかった部屋』(すべて角川文庫)『ミステリークロック』(KADOKAWA)の順で4冊が刊行されている。ドラマになったのは最初の3冊全話と、『ミステリークロック』から「ゆるやかな自殺」の1作。のちに放送されたスペシャル版は『ミステリークロック』所収の「鏡の国の殺人」が部分的に下敷きになっている。貴志祐介といえば、ニノが主演した「青の炎」(2003年、東宝)の原作者として知ったファンも多いかもね。

 原作・ドラマに共通する設定は、すべて人の出入りができない部屋に他殺体があるという不可能状況を物理的に解明する、「密室」がテーマのミステリだということ。原作では主人公の榎本径と弁護士の青砥純子のペアで動くことが多いが、ドラマはそこに青砥の上司である芹沢を加えた3人がチームになる。なお、佐藤浩市演じる芹沢はドラマオリジナルのキャラだが、ドラマ放送後に短編「一服ひろばの謎」(角川文庫『サイドストーリーズ』所収)で主役を務めた。ドラマのキャラが小説に逆輸入された形だ。

 最終回とその前回だけは前後編で長編の『硝子のハンマー』を扱い、それまでは原作の短編をそれぞれ1話完結のドラマに仕立てている。人物設定や事件の背景などに脚色はあるものの、その密室の構造とトリックはほぼすべて原作通りだ。ただ、主要人物のキャラクターには大きく改変が加えられている。

 原作の榎本径は、防犯ショップを経営する防犯コンサルタント。だがその実態は……てのは原作では早々に明かされるもののドラマは最後まで引っ張るので、ここには書かないでおこう。170cmを切る小柄な体躯、年齢は30代の半ばくらい。色白で繊細な感じの細面、大きな目をしている。趣味は将棋。ビリヤードも嗜む。

 一方、大野くん演じるドラマの榎本は、常に淡々としていて感情を表に出さないというキャラ設定。人付き合いが不器用なのも、毎回密室現場の模型を作るのも、ややオタクがかった造形も、指を擦り合わせる仕草も、「密室は、破れました」の決めゼリフもドラマオリジナルだ。あ、いや、違う。実は原作でも1箇所だけ「密室は、破れました」というセリフを言う場面がある。探してみてね。


イラスト・タテノカズヒロ

■ドラマと原作の違いはこう楽しめ!

 原作の榎本は趣味嗜好などの私生活や本人の心理描写、青砥をからかったりつっこんだり、密室の実験のために屋根から飛んだりする場面など、人間味が伝わる描写も多い。ドラマのキャラとはけっこう違うのだ。原作通りの設定だったら大野くんの榎本はどんなふうになっていたかな、と想像しながら原作をジャニ読みするのも楽しい。

 また、密室の構造とトリックはほぼすべて原作通りと先ほど書いたが、それ以外の設定を大きく変えていた話がある。坂本くん(V6)と桐山くん(ジャニーズWEST、当時は関西ジャニーズJr.)が出演し、ジャニーズファンにとって楽しみな回である第6回「密室劇場」だ。メイントリックは原作通りだが、これ、実は原作はバカミス(「そんなバカな!」とつっこみたくなるようなバカバカしいミステリ)と呼ばれるコメディなのである。メイントリック以外は、登場人物の名前も設定も動機も話の展開もそして真相までも、何から何まで原作とは違うので、新鮮な気持ちで原作に当たってみてほしい。ほんとバカバカしくて笑えるから!

 この「密室劇場」に限らず、原作の短編はバラエティに富んでいる。シリアスなものもあればバカミスもある。倒叙ミステリ(先に読者には犯人を示しておき、探偵がどう見破るかを主眼にしたもの)あり、ハウダニット(犯人は絞れているがトリックがわからないもの)あり、フーダニット(犯人がわからないもの)あり。このシリーズだけでさまざまな形式のミステリが味わえるのが醍醐味のひとつだが、ドラマでは有力な容疑者を最初から限定したハウダニットに作り替えたものが多かった。ドラマにパターンを生み出すためでもあるだろうが、それだけではないように思う。

 ぶっちゃけて言えば、単発ミステリドラマって時としてキャストを見れば犯人の見当がついちゃう、ってなことがあるわけだ。最も知名度があるとか、大物のベテランだとかが出演していたら大抵その人が犯人──という経験則が視聴者の方に働く。その問題点を巧くクリアしたのが、犯人を最初に出しちゃう倒叙形式である。「刑事コロンボ」とか「古畑任三郎」とか、稲垣ゴロちゃんが出演していた「福家警部補の挨拶」とかね。犯人役の大物俳優にも見せ場がたっぷり取れるし、ドラマには対決色が増して盛り上がる。視聴者にもちゃんと意外性を提示することができるという次第。あらかじめ容疑者が絞られたハウダニットものにも同じ効果がある。

 ところが原作では終盤まで犯人が絞れないフーダニットものもけっこう多い。「そんな方法でやったのか!」という驚きと「その人が犯人だったのか!」という驚きを両方楽しめるような短編がたくさんある。そういう意味では、原作を先に読んでおいた方が驚きは大きいと言っていいだろう。
 

■終わりが始まりになる物語

 そんなふうに原作の構成を少し変えて巧くドラマ向きに改変しているわけだが、実は放送前に、「これどうするんだろう」と不安視していた回がある。最終回とその前回、前後編で放送された「硝子のハンマー」回だ。シリーズの中で唯一の長編であり、シリーズ最初の作品である。

 何が不安だったかというと──これ、フーダニットの最たるものなのだ。いくつもの目眩しで真犯人は巧妙に隠されている。「その人が犯人だったの!?」というサプライズは格別で、原作通りにやったらそれこそ(ネタバレを避けようと思うと表現が難しいんだが)役柄と俳優レベルの不一致から犯人がすぐわかっちゃうパターンなのである。どうするんだろうこれ……と思っていたら、いやあ、こう来たか!

 原作『硝子のハンマー』は2部構成で、第1部はまず事件が起きて榎本と青砥が試行錯誤を繰り返しながら密室トリックに迫る様子が描かれ、第2部は犯人視点で回想を交えた倒叙ミステリとなっている。ドラマはこの方式をそのまま採用し、最終回前の第11回にはある方法で(これには感心した!)視聴者が「俳優から犯人を推測する」のを防ぎ、最終回で堂々と犯人を出していつも通りのハウダニットの構図にしたのである。やるなあ。

 その一方で、ドラマは原作に出てくる「密室の構成要素」をかなりカットしていた。さまざまな仮説を立ててはそれが通用しないことを確認する、いわゆる〈別解つぶし〉は相葉ちゃん主演の「貴族探偵」の多重解決にも似た楽しみが味わえるぞ。そこも併せて、ぜひ原作『硝子のハンマー』を読んで比べてみてほしい。密室の妙味ここにあり、とでもいうべき、2005年の日本推理作家協会賞を受賞した名作である。

 ドラマでは「硝子のハンマー」が最終回で、警備会社の会社員だった榎本は、後のスペシャル版で原作通りの防犯コンサルタントとして帰ってくる。逆に原作では『硝子のハンマー』がスタート地点で、ここから防犯コンサルタント・榎本の物語が始まる。終わりが始まりに変わるのだ。原作4冊がまるでドラマの「最終回の続き」のように思えたとき、ふと、今年で活動休止を表明している嵐の「最終回の続き」を夢想して、ちょっとワクワクしてしまったのである。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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