二宮和也主演「プラチナデータ」 映画ではカットされたあれこれをニノで妄想!
見覚えのあるその姿をまどろみの中で追いかけてみる皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はまったくの絵空事とは思えない、近未来の監視社会を描いたこの映画だ!
■二宮和也(嵐)・主演!「プラチナデータ」(2013年、東宝)
原作は東野圭吾の同名小説『プラチナデータ』(幻冬舎文庫)。東野圭吾は本コラム最多登場原作者で、これまで「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「ガリレオ」「ラプラスの魔女」「手紙」「マスカレード・ホテル」「パラレルワールド・ラブストーリー」「疾風ロンド」の7作を取り上げ、今回で8作目となる。が、実はまだまだ東野圭吾×ジャニーズ作品はストックがあるのだ! すごいな、さすが国民的作家。
「プラチナデータ」はDNAによる緻密なプロファイリングが可能となった近未来が舞台。原作にははっきりとした年代は登場しないが、2013年公開の映画では2017年の設定になっている。現実ではもう過ぎちゃったけども。
ということで、まずは粗筋から入ろう。刑事の浅間が追っている殺人事件の容疑者が、現場に残っていたDNAから特定された。従来のDNA鑑定を大幅にしのぐその精度に浅間は驚くが、同時に、この技術のために国が国民のDNAを収集・管理する政策が進行していることを知り、抵抗を覚える。そんな浅間に技術の素晴らしさと絶対的信頼性を説いたのは、警察庁の特殊解析研究所で主任解析員を務める神楽龍平だった。
ところがその後、DNAを解析しても該当者無しになるという事件が連続して起きる。そして、このDNA解析システムを作り上げた科学者兄妹が殺された。神楽がその現場に残っていたDNAを解析したところ、コンピュータがはじきだした犯人はなんと神楽本人だった。身に覚えのない神楽だったが、自分のDNAが現場にあったことにはひとつだけ心当たりがある。捕まるわけにはいかない神楽は、ある手がかりを求めて逃亡した──。
はたして真犯人は誰なのか、なぜ神楽のDNAが現場にあったのか、そしてこのDNA解析システムが孕む最大の秘密とは……というのが、原作・映画に共通する設定だ。ただ、大枠としてはこの通りなんだけれど、細部はかなり違っていた。いや、細部だけじゃないな。大枠以外は相当に違う、別物といっていいくらい変わっていた。
イラスト・タテノカズヒロ
■映画ではカットされていた原作の大事な要素
殺人事件の内容や手口が違うとか、脇役の設定が違うとか、違いをひとつひとつ指摘していてはキリがないのだけれど、無視できない大きな違いとしては、原作の主要人物が映画には登場しない、ということが挙げられる。スズラン、と名乗る少女だ。そして彼女が登場しないことで、映画と原作では追求するテーマが変わっていた。
とても表現が難しいのだけれど、スズランは逃亡する神楽と行動を共にする。心を閉ざし気味だった神楽は、彼女の正体や目的がわからないままに次第に心を開くことを覚えていくのだ。スズランの存在は、原作では神楽の変化を促すとても大きな役割を担っている。と同時に、スズランの存在及び正体は、ミステリとしてとても大きな謎と逆転とサプライズを生んでおり、このくだりがまるっとなくなったことはとても残念。
さらにもうひとつ、スズランだけではなく、神楽には逃亡中にある出会いがある。この出会いそのものが映画ではカットされていた。原作ではこの出会いを通し、神楽が心を閉ざす理由になっていた過去の出来事に新たな解釈が生まれ、後の神楽の人生を大きく左右することになるのだが……このくだりがカットされたことで、映画と原作では結末も大きく違っていたのだ。事件とその解決という点では映画と原作に違いはないが、神楽の覚醒と成長という要素が、映画ではかなり薄味になっている。そこはぜひ原作で味わっていただきたい。
逆に映画でこそ楽しめるのは、なんといっても神楽の逃亡劇! 飛ぶし落ちるし転がるしバイクで走るし。ここまでのアクションをニノがやったのって、「GANTZ」以来じゃない? さらに、ひとりを追い詰めるために大量の人員とパトカーが動員される場面は圧巻! これは映画じゃなくては出せない迫力。
もうひとつ、映画での注目点は、「街中の監視カメラと人定機能をリンクさせて対象人物の行動を徹底的に追跡する」という監視社会の恐ろしさだ。今、スマホのアプリで人の流れを掴むという話が出ているが、もちろんそれは個人情報に配慮した上でのことだと信じたいけれど、この使われ方を見ていると背筋が寒くなる。こんな時代が来るのだとしたら──それは是なのか非なのか、管理する側のモラルをどこまで信じられるのかと、考えずにはいられない。
つまり、原作では幾重にも入り組んだ謎解きと神楽の変化、映画ではアクションと社会描写。それぞれ別個の楽しみが用意されているわけで、片方しか知らないのはもったいないぞ!
■原作でニノのさらなる「演技の振り幅」を味わう
さて、ニノである。いやあ、困った。だってこの映画のニノの魅力を説明するためには、神楽龍平がどのような人物なのかを明かす必要があるんだもの。神楽の秘密は、実は原作ではけっこう序盤に明かされており、特に秘密というほどではない(その事実に基づいてミステリとしての謎が展開される)。けれど映画では開始から52分で初めてその秘密が明かされるのだ。だからここで、それを書いちゃうわけにはいかないんだよなあ。
書けるとするなら、ニノの真骨頂である「演技の振り幅」に注目、ということか。以前、本コラムで三谷幸喜脚本の「オリエント急行殺人事件」を取り上げたとき、ニノが演じた幕内平太の二面性について触れた。普段の「キモカワイイ」平太がある場面になったとき一瞬にして「冷徹で怖い」平太に変わるのだ。ああいう振り幅がニノの芝居の魅力で、それは本編の神楽龍平というキャラにも十全に活かされていた、とだけ言っておこう。あと、個人的にはクール眼鏡のニノに萌え倒したよね。
だからこそ! だからこそスズランとの逃避行をニノで見たかった! 映画にスズランが出ていたらたぶん正統派美少女系の女優さんがキャスティングされただろうし、神楽とふたりの場面はきっととても美しく、はかなく、ロマンティックな映像になったはずなのだ。しかも、原作を読んでる人はご承知だろうけど、このふたりの場面を「映像で見る」というのには別の意味合いもある。スズランとの場面があれば、二面性どころか、もっと違う表情、違う芝居のニノを見ることができたに違いない。
さらに、映画でカットされたもうひとつの出会いと、それによる原作の結末では、また神楽の違った面が出てくるわけで……うーん、ネタバレを避けるためアバウトな表現しかできないんだけど、えっと、映画での神楽は「冷静でクールな分析官」がまずベースにあり、振り幅といってもある程度限定されたものだった。でも原作では、映画とは違う結末とスズランというふたつの要素のせいで、振り幅が縦横無尽というか四方八方というか、とにかく「いろんな神楽」が味わえるのだ。なので原作をニノでジャニ読みすれば、さらに楽しめること請け合いなのである。
ああ、それにしても、何度も書くけど、スズランとの逃避行は映像で見たかったなあ。タテノさんにイラストで描いてほしかったなあ。あ、そうだ。実は映画にはちょこっとだけスズランの名残がある。「鈴蘭商店街」という場所が出てくるのだ。こんなところに! と、ちょっとニヤニヤしてしまった。
と、ここまで書いたところでおめでたいニュースが飛び込んできたぞ。次回は斗真スペシャルで行こう。刮目して待て!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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