大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2017/08/02

加藤シゲアキと中島裕翔が『ピンクとグレー』でシンクロする[ジャニ読みブックガイド第6回]

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 いつだって空を見上げて明日の自分探してた皆さんと、衝動的な女にピストル握らせる皆さん、こんにちは。加藤シゲアキの第3長編『Burn.―バーン―』(角川文庫)が発売になり、私が巻末の文庫解説を担当致しました。読んでね。
 この解説ではアイドル云々ではなく、作家・加藤シゲアキの小説技法について真面目に論じています。自らのジャニオタ魂に全力で蓋をして、荒ぶるチャンカパーナを必死に押さえ込んで──その反動がここで爆発しますよ? いいですか?

■ジャニーズ初の小説家が『ピンクとグレー』に託したもの

 2016年公開の映画「ピンクとグレー」(アスミック・エース)の原作である加藤シゲアキの同名小説『ピンクとグレー』(角川文庫)はこんな話。
 9歳のときに横浜へ越してきた河田大貴(りばちゃん)は、同じ団地の鈴木真吾(ごっち)と親しくなる。高校に進んだふたりは雑誌の読者モデルにスカウトされ、それを機に芸能界入り。ところが瞬く間にスターになっていくごっちに対し、りばちゃんにはごっちのバーター仕事しか来ない。次第にすれ違っていくふたりだったが……。
 
 一読すれば本書が持つ技巧と熱量は、アイドルが書いたのなんので論じるようなものではないことはすぐにわかる。だがこのコラムは「ジャニ読みブックガイド」なので、敢えて「ジャニーズのシゲが書いた」というところに注目するよ。だってこれ、NEWS担が読んだら、りばちゃんとごっちにシゲを重ねずにはいられないもの。それは大阪から横浜に転校したとか、大学の付属中学に進んだとかの、表層だけではなくて。

 ファンは先刻承知だが、NEWSが辿ってきた道は険しかった。グループ活動を休止した時期もあったし、人も減った。シゲが本書を執筆していたときのNEWSは6人で、山Pはソロの仕事も多く錦戸くんには関ジャニ∞があり、テゴとまっすーにはテゴマスがあった。小山くんはMCやニュース番組への出演が始まった。
 ジャニーズというアイドル王国の一員であるシゲ(ごっち要素)と、NEWSしかないのにキャラを出せないでいるシゲ(りばちゃん要素)。分解しかけるNEWS(ごっち)と、それをつなぎ止めようとするシゲ(りばちゃん)。その手段が「本を書く」だったのも、小説と現実がとてもよく似ている。作中でも現実でも、アイドルのシゲ(ごっち)と泥臭いシゲ(りばちゃん)は共にあり、乖離し、そして再びシンクロするのだ。

 2011年10月、NEWSは4人になった。その翌月、シゲは成亮からシゲアキに芸名を変え、小説家デビューを発表した。6人のNEWSには間に合わなかったという思いを、シゲはインタビューで語っている(「myojo」2015年7月号)。だがこれが、シゲの中でごっちとりばちゃんが融合を始めた瞬間だった。
 


イラスト・タテノカズヒロ

■ピングレ、小説と映画はここが違う

 映画を見て驚いたのは、原作では後半で起きる大事件がいきなり冒頭で描かれたことだ。そして半ばに大きな仕掛けがある。この仕掛けには、私は素直にビックリしたね。原作を読んでたからこそ「ああ、あれをこういうふうに表したのか!」と。

 そこから先は、原作には存在しない映画オリジナル。なるほど映像として見せる、演技を見せるというのはこういうことかと堪能したけれど、原作とは別物に見えた。
 「ピンク」と「グレー」が表すものが小説と映画では異なること、毛虫もメダカもデュポンの謂れもバーの会話も出てこないこと、何より小説でとても重要な意味を持っていたオニアンコウのメタファが削られていること、そのため〈ごっちの真意〉も〈りばちゃんの結末〉も変わってしまったこと、ひいてはテーマが変わってしまったこと……。

 おそらく行定勲監督は、敢えてシゲ成分をカットしたのだろう。映画のりばちゃんが引っ越すのが埼玉だったり、大学にも行かないなんて変更は序の口。ごっちとりばちゃんの個性・役割をはっきり分けた。女性キャラからも複雑性は除かれ、淑女とビッチにはっきり分けた。芸能界の光と闇もはっきり分けた。
 ピンクが赤と白の、グレーが黒と白の中間であるように、誰もが何かの中間で揺れるのが小説『ピンクとグレー』の核だったから、それらを最初から明確に分けたことで、映画は小説を離れた。それはつまり加藤シゲアキを離れたということになる。

 人物の役割を明確にし、原作のメタファを排してテーマをストレートに語らせ、シゲ成分をなくすことで、とてもわかりやすい普遍的な物語になったと言っていい。もしシゲ担が映画に違和感を持ったとしたら、そのせいだと思う。でもね、本当に原作と別物なのかな? それを知る鍵は、主演の中島裕翔にある。

■Hey! Say! JUMP・中島裕翔の成長

 さあ、JUMP担の皆さん、お待たせしました。やっと裕翔くんの話になるよ!
 映画を最後まで見た感想はといえば、「役者ってすげーな!」に尽きる。裕翔くんは、菅田将暉・夏帆・柳楽優弥という曲者ぞろいのキャストに対して常に〈受け身の芝居〉をしなくてはならない役どころだったわけで、いやあ、たいへんだったろうなあ。うーん、具体的に書きたいけどネタバレになるので我慢。

 前半、ごっちを演じる裕翔くんは、そりゃもう美しい。キラッキラしてる。なんだこの透明感は。アイドルの裕翔くんがそのままそこにいる。ピッタリだ。
 それが後半になると、がらりと変わる。喫煙、キス、ベッドシーン。事務所がよくOK出したな、っていうか要るのかこの鼻血は。後半で彼が見せる苦しみと足掻きの演技は、そのまま〈Hey! Say! 7のゆうとりん〉が〈役者・中島裕翔〉に変わっていく過程を見せられたかのようだった。

 原作はシゲが投影されてると書いたけど、裕翔くんの物語でもあったのではないか。JUMP担ならご存知の通り、裕翔くんはJUMPの初期に挫折を経験している。センターを外され、人と自分を比べ、腐りかけていた時期。それは原作のりばちゃんを思い起こさせる。
 けれど彼は、「半沢直樹」(TBS)や「弱くても勝てます」(日本テレビ)など、着実に役者としてキャリアを重ねていく。キラキラのアイドル・ゆうとりんと、「あの人、ジャニーズだったの?」と視聴者に言わしめる俳優・中島裕翔を確立した今の彼は、原作のごっちをみるようだ。

 原作のごっちとりばちゃんは、どちらも加藤シゲアキのなかにあった二つの側面だ。映画ではそのシゲ成分は削除され、テーマも人物もストーリーも改変された。ところが映画のあの〈趣向〉の結果、裕翔くんの中に、オリジナルのふたりがはからずも蘇った。それはとても象徴的なことのように思う。
 もしかしたらすべてのジャニーズの中に、ごっちとりばちゃんはいるのかもしれない。無条件にシゲでジャニ読みしていた原作を、今一度、裕翔くんで読み直してみるのもいい。映画の舞台挨拶のとき、シゲは言った。「裕翔が自分に見えるシーンがあった」と。

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2017/08/16
第6回アンケートの受付は終了いたしました。
加藤シゲアキの第2作『閃光スクランブル』の主人公、ゴシップカメラマンの高橋巧を演じて欲しいジャニーズには1位が加藤シゲアキさん。2位は稲垣吾郎さん、3位はTOKIOの長瀬智也さん、4位はV6の森田剛さんでした。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第6回
多くの方のご参加をありがとうございました!
第7回は江戸川乱歩が生んだ穏やかでダンディ、行動派の名探偵「明智小五郎」です。稲垣金田一と対決させるなら……、ご参加をお待ちしております!
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