大矢博子の推し活読書クラブ
2020/08/05

相葉雅紀主演「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」原作主人公が相葉ちゃんそのもの!

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 ひとり目を閉じあなた感じる皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は奇跡が欲しい今の時代にこそ再読したいこの映画の原作だ! ……ちょっと季節外れだけどね。

■相葉雅紀(嵐)・主演、生田斗真・出演!「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」(2014年、東宝)

 映画「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」は、漫画家を目指す青年・光(相葉雅紀)、幼なじみの杏奈(榮倉奈々)、世界的照明デザイナーのソヨン(ハン・ヒョジュ)、人気漫画家にしてソヨンの元カレである北山一路(生田斗真)の織りなす四角関係を描いたラブストーリーだ。原作は中村航『デビクロくんの恋と魔法』(小学館文庫)。ジャニオタさんにとっては、関ジャニの大倉くんが主演した「100回泣くこと」の原作者としても知られている。

 ただこの作品、原作と映画でかなり違っているので、まずは原作のあらすじから紹介しよう。

 絵本作家を夢見る書店員・山本光には、ある秘密があった。箴言めいたリリックに自作のキャラクター「デビクロくん」のイラストを添えたビラ、「デビクロ通信」を、深夜ひそかに且つゲリラ的に配布しているのだ。表現欲の発露なのかストレス発散なのか、本人にもわからない。

 ある夜、彼が「デビクロ通信」を配っているとき、若い女性が声をかけてきた。近所に住む杏奈だ。杏奈は光の描いたデビクロくんを可愛いと言い、その秘密を共有するとともに、絵本作家という光の夢を応援するようになる。

 そんなある日、光は街角でぶつかった女性に一目惚れ。「デビクロ通信」はその日から「恋するデビクロ通信」と名を変え、彼の切々たる思いが綴られるようになる。その女性が自分の知り合いのソヨンだと気づいた杏奈は光の恋に協力を申し出て、ふたりを引き合わせた。けれど杏奈もまた、光に対する自分の恋心を抑えていたのだった……。

 というのが原作の導入部なのだけれど、これだけでも映画と違う箇所がずいぶんある。映画では光の夢は漫画家になっていたし、杏奈とは幼なじみという設定に変えられていた。他にも、斗真が演じた北山の設定がかなり変更されているし、書店の店長のキャラもまったく違う。映画にはデビクロくんがアニメで登場して光と会話する場面もあったが、原作ではそういった擬人化はされていない。

 そういった違いの中で最も重要な改変箇所は、「杏奈と光が幼なじみ」という映画オリジナルの設定だ。映画はいきなりふたりの子供時代から始まるため、観たときにはそりゃ戸惑ったさ。だって最初からふたりが幼なじみということは、原作のあの結末にはなり得ないじゃないか、と。そう、結末もまた、原作と映画ではまったく違うのだ。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作と映画で「奇跡」の内容がまったく違う!

 原作では、光の実家は仙台に引っ越している。そして光が東京に就職する際、10歳までを過ごした埼玉県川口のおばあちゃんの家で一人暮らしすることになり、そこで杏奈と出会ったという設定だ。実は杏奈と光は幼い頃に一度だけ会ったことがあるのだけれど、光はそれを覚えていない、という思わせぶりな要素もある。

 その「一度だけ会った」のがどんな状況だったか、それがミソ。そこにつながるのか、そう来たか、と小説を読みながらそりゃもうワクワクしたりじーんと来たり驚いたりしたもんさ。映画とは違う格別の奇跡をどうぞ原作でご堪能あれ。「デビクロ」という名前がどこから来たか(この誕生秘話も原作にしか登場しない)と、原作で最初に収録されている「デビクロ通信」の号数に注目のこと。

 映画のラストでは、さまざまな奇跡が重なって光を助ける。それはそれでもちろんとても素敵だったのだけれど、原作ではメインの奇跡のほかに、光とは無関係なところで色々な奇跡が見られる。その奇跡を生むのは、これまで光が書いてきた「デビクロ通信」だ。「デビクロ通信」の文言に人々が背中を押されるのである。自分が書いたものが、自分の知らないところで誰かを動かしたり助けたりする。これって嵐の歌を聞いたりドラマを見たりしたファンが元気づけられるのを嵐自身は直接は知らない、というのと似てる気がしない?

 原作には映画以上に多くの「デビクロ通信」が登場する。時にはダイレクトに、時には何かの比喩のごとく、時には闇を孕んで、また時には励ましてくれるような、さまざまなリリック(切り抜いて貼っておきたいような名言がたくさん!)と可愛いデビクロくんのイラストが満載だ。映画では書店の店長さんが偉人の言葉をやたらと引用していたけど、スクリーンではビラをじっくり読めないからその代わりだったのかな。

 あのビラをじっくり見られるだけでも原作は買いなんだが、さらにこの「デビクロ通信」が一冊にまとまった本も出ている。『デビクロ通信200』(小学館文庫)だ。イラストレーターの宮尾和孝さんが新たに描き下ろしたイラストも加えて200点ものリリックが収録されているというゼイタクな作り。中にはベテランのジャニオタさんたちが喜ぶような、マッチの名曲を彷彿とさせるものもあるから探してみてね。

■原作の光は映画よりも相葉ちゃんぽい!

 この映画で相葉ちゃんが演じた光は、穏やかで、優しくて、ちょっとヘタレな、とてもあたたかいキャラクターだった。それだけでも充分相葉ちゃんに合ってたんだけど、実は個人的には、原作の光の方がさらに相葉ちゃんぽいんじゃないかと思うんだよね。随所に「わあ、相葉ちゃん言いそう! やりそう!」という場面があるのだ。そりゃもう、至るところに。

 たとえば、一目惚れしたソヨンと再会して連絡先を伝えた後、どうせ返事が来るわけないからと光がメールチェックをしていないというくだりがある。それを聞いた杏奈が「(メールが)届いてるかもよ」と光に告げた場面。

 「いやいやいや、そんなわけないでしょー、杏奈は、ばかだなあ」(中略)
 「いやいや……、だってそんなの……届いてるわけが……って、きてたーっっ!!」
  跳ね起きた光が、バカみたいにシャウトした。
 「きてる! きてるよ! 杏奈! すごい! なんかきてたよ! ねえ、杏奈!」
  くるり、と振り返る光に、一体なんなんだ! と杏奈はシャウトしたかった。
 「ねえ! 見てもいい? 杏奈、見てもいい?」
 「……うん。見なよ」
 「何か緊張するな……おお! なんか書いてある! おお!」

 もうね、ここから続く光と杏奈の会話が、何度読んでも相葉ちゃんで再生されて仕方ないのよ。はしゃぐ相葉ちゃん。慌てる相葉ちゃん。テンションあがってワケわかんなくなって当たり前のことを力強く叫ぶ相葉ちゃん。目に浮かぶこと浮かぶこと。「杏奈」の箇所を「翔ちゃん」とか「ニノ」とかに替えて読むとさらに臨場感増すのでやってみて。これ、光に片思いしている杏奈にとっては辛いはずの場面なのに、もうつっこむしかないっていうか、つっこまずにはいられないというか。

 原作の光は「少しピント外れでマイペース」「要領が良い方ではなく、他人からストレスを押し付けられがち」と表現されている。そのストレスの発露がデビクロくんなんだけど、それはそれとして、そういう他者のストレスをやんわり受け止めて解消してくれるのって、とても相葉ちゃんらしいと思うのだ。ぜひ原作の光を相葉ちゃんでジャニ読みしてほしい。ほんと、目に浮かぶから。そして相葉ちゃんだと思って読むと、杏奈の健気さも倍増するぞ。

 おおっと、斗真について触れるスペースがないっ! 以前、斗真結婚お祝い回に「脳男」を紹介したあとで、イラストのタテノカズヒロさんから「こっちの方がお祝いに向いてましたね」と言われて「しまったあ!」と思ったんだよなー。確かにこっちの方がお祝いにふさわしいわ。なぜよりによって「脳男」にしてしまったのか私。

 とはいえ、斗真演じる北山一路(原作では大介)は、原作の出番は少ないのだ。映画では光の大学の同級生で売れっ子漫画家で、ソヨンの元カレという役どころだったけど、原作では光が絵本を持ち込んだ先の編集者というだけで、漫画家でもないし同級生でもない。ソヨンの元カレで最後はああなって……てのは映画と同じだけど、後半にちょこっと出るだけ。それを膨らませて、「一旦は道が離れた同級生が、同じ世界に戻ってきた」というどこか現実を思わせる設定にしてくれた映画、グッジョブ!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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