大矢博子の推し活読書クラブ
2020/09/09

亀梨和也主演「事故物件 恐い間取り」恐くて見に行けない方へ「原作を先に!」

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 真実さえも示唆(サイン)1つで今夜も貪ってく皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は厳しい残暑もこれでひんやり、亀ちゃんが初めてホラーに挑戦したこの映画だ!

■亀梨和也(KAT-TUN)・主演!「事故物件 恐い間取り」(2020年、松竹)

 いきなり出落ち感満載の亀ちゃんの女装に始まり、出待ちの女の子たちが亀ちゃんそっちのけで加藤諒・坂口涼太郎コンビに群がるというシュールな展開を見て、あら意外とポップでコミカルな映画なのかしら……なんて油断してたら心臓が口から出るハメになるぞ気をつけろ。

 原作は松原タニシの『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)。お笑い芸人の松原タニシさんが番組の企画で数々の事故物件(自殺や変死、殺人などがあった部屋)に住んだ様子を綴ったノンフィクションだ。原作では事故物件5軒に住んだ体験の他、他の人の事故物件体験、その手の話がある店舗や場所などのレポートなどなど40件以上の「何かありげな場所」が紹介されている。いやもう、よくこれだけ行ったな!

 映画では、コンビを解散して仕事のなくなったお笑い芸人の山野ヤマメが、半ば無茶ブリのような番組企画で事故物件に住むことになる。何か起きるのを期待してカメラを回すとオーブ(なんか魂的な白いもの)が映り、そこから人気コーナーになって事故物件を転々とする……というほぼ原作と同じ設定だ。違うのは、霊感のある女性・梓とのロマンスが入っていることで、奈緒さん演じる梓のくだりはすべて映画オリジナルの改変である。

 映画に使われている原作の事故物件は4軒。写真にオーブが映り、廊下にニット帽の男が現れ、ひき逃げに遭った1軒目。畳の下に血痕があり、浴室が不自然で、変な留守電が入っていた2軒目。2度の首吊りがあり、部屋にいると頭痛がするようになるロフトつきの3軒目。そして部屋に入った途端に気絶してしまい、誰もいないのに防犯センサーが鳴る東京の4軒目だ。

 ただし、原作では事故物件の間取りや外観は事実に即して書かれているが、さすがに映画で本物の事故物件を使うはずもなく(使ってたらそれはそれでかなり恐い)、間取りや外観は別のものになっていた。そしてもうひとつの違いは、霊的エピソードの表現だ。
 


イラスト・タテノカズヒロ

■恐がりさんは原作を先に読んでおこう

 原作は『事故物件怪談』と銘打ってはいるものの、あくまで「男が立っていた」「畳に血が滲んでた」「頭痛がした」など、状況を説明する淡々としたレポートであり、過剰に読者を恐がらせるようなデコレーションはされていないのが特徴。幽霊とおぼしきものも、「こういうものが見えた」「こういう話を聞いた」とあるだけで、それが何だったのか、どう思ったかまでは述べられない。わからないものは「わからない」で終わる。

 その淡々としたところがかえって想像力をかき立てられて恐いという見方もあるし、「よくこんな恐い話を淡々と書けるな!」とびびってしまう部分もあるんだが、少なくとも「さあ、読者を驚かすぞ、恐がらせるぞ」と盛り上げるような演出はない。ところが映画は逆で、「さあ恐がらせるぞ!」と前のめりである。したがって、霊がいるのかどうかわからない原作エピソードに、しっかり「幽霊の存在」を加えてきているのだ。

 具体的には、心霊現象がヤマメや梓を直接襲ってくるくだりが映画オリジナルのデコレーションである。1軒目のニット帽の男が襲いかかってくるところ(原作ではただいるだけ)、2軒目の梓が洗面台に押し付けられる場面(原作では排水口から人毛が出てくるだけ)(←だけ、というには恐いけど)、3軒目でヤマメが首を吊りかけるくだり(原作では頭痛がするだけ)とか。特に4軒目は原作から大きく改変されていて、幽霊とのバトルは原作にはないし(あったら大変)、さらにその後のラストの衝撃も原作にはない(あったら大変)。

 私は個人的にホラー映画が大の苦手で、今回もこのコラムの仕事がなければたとえ亀ちゃん主演でもこの映画は見なかったと思う。けれど先に原作を読んでいたおかげで、「あ、このあとやばいのがくる」というのがわかる。なので心の準備ができて、相当安心して亀ちゃんを楽しむことができたよ。

 ということで、亀ちゃんは見たいけどホラーは苦手という人には、ぜひ原作で予習をしておくことをお勧めする。「来るぞ」というところがわかれば、薄目で見るとか、なんなら目を閉じるとか(え?)の対策がとれるから。ただ、原作はページをめくるといきなりビクっとするような写真が掲載されていたりするので、恐がりさんは要注意。一方、ホラー大好きという人は先に映画を見て、あとで原作で実際のところを確認するといいだろう。

■やりたいことと求められることの間で

 原作の40を超えるエピソードのうち映画で使われた事故物件は4軒だが、それ以外のエピソードが形を変えて使われている箇所がいくつかあった。その中のひとつが、サイン会でファンと一緒に写真を撮ろうとすると、ヤマメの顔の近くに幽霊の顔らしきものが映るというくだりだ。スマホのカメラで人の顔に枠が出る機能、何もないところにあの枠が出ると確かに恐い!

 この場面のもとになったと思われる原作の写真エピソードは、少々異なる。原作で「黒い人」と題された項だ。実は私はすべてのエピソードの中でこれがいちばん恐かった。幽霊は見えなければ何ということはない(と思う)が、これは「これから起きるかもしれない不幸」の予言ともいえる怪談なのだ。原作者の松原さんが自分のことなのにこれまた淡々と書いているのがさらに恐かった。どれくらい恐かったって、この原作のままで亀ちゃんが使われなくて安心したくらい。松原さんもどうかご無事でいてほしい。

 ホラー以外の部分で目を引いたのは、亀ちゃん演じるヤマメの芸人としてのあり方。映画の山野ヤマメは「人に笑ってもらいたい」という夢を持って芸人になった。だが売れない。相方は突然コンビ解散を宣言する。ピン芸人でやっていく力なんてない。でもやめたくない。そんな時、事故物件に住むことでブレイクしていく。本来やりたかったことではないジャンルで売れてしまうジレンマ。

 やりたい仕事だけをやりたいようにやって、思い通りの成果が出せる人がいったいどれくらいいるだろう。ご存知の通り、KAT-TUNは決していいときばかりではなかった。こんなはずではなかったと感じたことも、グループで話し合いを持ったことも、一度や二度ではなかったろう。それでも、それらを乗り越えて、今のKAT-TUNがいて、亀ちゃんがいる。最初に夢見ていた形とは違っても、人に望まれることの嬉しさややり甲斐を感じ始めたヤマメが重なって見えた。

 亀ちゃん自身はホラーは苦手で(勉強にと渡されたビデオを恐くて見続けられず、5分でアニメに変えたりしたという……なにそれ可愛い)、オカルティックな経験もあり、この映画の出演には葛藤があったそうだ。それでもチャレンジした。だったらこっちも恐いの苦手なんて言ってられないよね。恐がりさんも原作読んで映画館にGOだ。大丈夫、女装に関西弁、ダサいファッションやシャワーシーンといったレア亀のご褒美もあるから!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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