大矢博子の推し活読書クラブ
2020/09/30

山田涼介主演「キワドい2人 -K2-」改変された設定が興味深い! ドラマをより楽しむための原作案内

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  HELLO FRIENDS、涙は終わりの合図じゃない皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は涼ちゃんとジェシーが共演するこのドラマだ!

■山田涼介(Hey! Say! JUMP)・主演、ジェシー(SixTONES)・出演!「キワドい2人 -K2-」(2020年、TBS)

 原作は横関大『K2 池袋署刑事課 神崎・黒木』(講談社文庫)。この9月には続編となる『帰ってきたK2  池袋署刑事課 神崎・黒木』(講談社)も刊行されたばかりだ。

 池袋署の刑事課に勤務するマジメな神崎隆一とチャラい黒木賢司のふたりがバディを組み、管内で起きる事件をややキワドい手段で解決していくというのが物語の骨子。ドラマでは神崎を山田涼介が、黒木を田中圭が演じている。ここだけ見れば原作もドラマも同じなのだけれど……いやびっくりしたさ! (これはもう公式サイトでもオープンにされているので書いてしまうけど)神崎と黒木のふたりが異母兄弟って設定、どっから出てきた!?

 というのも、原作にはそんな設定はまったくないのだ。ドラマでは新人刑事の神崎が池袋署に赴任して黒木と出会うところから始まったが、原作の2人は警察学校の同期であり、旧知の仲。黒木が神崎を「親友」と説明する場面もある。当然、神崎は新任刑事ではないし、互いにタメ口で会話する。うん、ドラマを見ていちばん原作と違うと思ったのは、神崎が黒木に敬語を使ってるってことだったかも。

 ところが。なんで異母兄弟なんて設定にしたのかなあ……これ原作は完全無視なのかな……と思いながら第3回までを見たのだが、おや? おやおや? これもしかして、原作のアレをナニしてるのでは? ってことは原作のあの場面がこうなって、でもって、最終的にこういう方向に行くのでは? てな要素が見えてきて、思わず前のめりになってしまったのだ。これ、ちょっと面白い改変の仕方してるんじゃないか?


イラスト・タテノカズヒロ

■原作とはぜんぜん違うと思わせて……

 まず、ここまで放送された3話を見てみよう。第1話では神崎の赴任初日に黒木が誘拐事件に巻き込まれた。これは原作第5話「遺言」がもとで、神崎が2年前の池袋署着任初日を回想するという体裁で語られる。着任早々バディを組む予定の黒木が出勤せず、上司から「神崎、初仕事だ。お前、黒木を捜して連れてこい」と命じられる場面は、そのままドラマでも使われていたし、黒木が誘拐された女性と一緒に監禁されていたのも同じ。

 だが、そこからが違う。ドラマを見て「え?」と声が出てしまった。原作とは途中から大きく事件の様相が変わり、原作にはない展開と原作にはない真相がドラマには用意されていたのである。原作に忠実と思わせて、原作よりさらにひと捻り、ふた捻りしてくる。おお、これは原作を知っていても楽しめるぞ。

 ドラマ第2話、サルを飼っていた美容院の社長が、そのサルが逃げたあとで強盗に入られ殺された話。これは原作では第1話「勲章」にあたる。原作の被害者は美容院ではなくホストクラブの社長で、これもまた、事件の始まりこそ原作に忠実だったが、そこからの展開も真相も大きく変えられていた。この段階で私は、このドラマ、いったい原作をどうアレンジしてくるんだろうというところに興味の焦点が移った。だって、原作読んでても犯人や真相がわからないんだもの!

 ドラマ第3話、老人に対するアポ電強盗の話は完全にドラマオリジナル。原作に該当する話はない。けれどここで俄然クローズアップされてきたのが、ドラマオリジナルの「神崎と黒木は異母兄弟」という設定だ。過去に立てこもり事件があり、当時警察官だった神崎の父である神崎賢造がかかわったらしいということが視聴者に示唆された。

 この立てこもり事件、これがポイント! 実は原作にも立てこもり事件を扱った回がある。原作第7話「因縁」だ。この事件の犯人は、逃走用車両の運転手として既に退官している神崎隆造を指名する。そして……いや、そこからは本編をお読みいただこう。なかなかトリッキーな一編なのだが、この「因縁」を読むと、「神崎と黒木が異母兄弟」というドラマオリジナルの設定が何を意味しているか、なんとなく見えてくるはず。私が自分の想像にある程度の確信を持ったのは、原作で「神崎隆造」となっている神崎の父の名が、ドラマでは「神崎賢造」に変更されていることに気づいた時だった。

 ここで展開を先読みするのはやめておくが、ぜひ原作の「因縁」をお読みいただきたい。ドラマは原作の設定だけ借りながら大きな改変を施しており、しかもその改変は原作をさらに捻ったものになっているのが特徴だが、「神崎と黒木が異母兄弟」というドラマの設定もまた、オリジナルに見えて実は原作を捻ったものかもしれない。だとしたら、どうしてなかなか、これは凝ったことをやってるぞ?

■原作をジャニ読みするさまざまな楽しみ

 ということで、本書に関しては「原作を先に読んでいてもドラマ視聴の面白さは減らない」ということを断言しておこう。いや、むしろ先に原作を読んでおく方がいい。「よし、ここまでは原作と同じだ。さあ、ここからどうする?」という目で見ることができて楽しいし、何より前述の「因縁」を読んで、「ドラマの設定の理由」を予想した上でドラマを見れば、自分の推理の答え合わせにもなる。

 そしてもしもドラマの「異母兄弟」設定の背後にあるものについて、「因縁」から導き出される予想が正しいとするならば。原作には、もうひとり、涼ちゃんでジャニ読みすべき登場人物がいるということになる。うーん、奥歯に物の挟まったような表現で申し訳ないが、この時点では、原作のネタバラシになるのと、私の予想が正しいかどうかの保証がないので、言えるのはこれが精一杯だ。でも「因縁」を読んでもらえればわかるから!

 併せてお勧めしたいのが、原作第4話「力走」だ。これは黒木と神崎の警察学校時代の物語。ふたりが警察学校同期という設定を変えてしまったためドラマにはおそらく出てこないだろう一編である。顔良し・成績良し・運動神経良しの優等生である神崎と、チャラチャラしてるのにどこか掴みどころのない黒木が、警察学校の教場内でおきた事件を解決に導く。これまで学園ものの名探偵を多く演じてきた涼ちゃんに、実は最も似合っている一編でもある。これを涼ちゃんでジャニ読みすると楽しいぞ。

 また、ドラマの神崎と黒木は新人刑事と先輩刑事という関係で、神崎の成長物語という側面が強い。だが原作のふたりはまったくの対等。会話はタメ口だし、お互いにちゃんと相手を信頼している良きバディだ。つまり原作のふたりの関係は、ドラマの時点から見た未来のふたりの姿とも言える。すっかり対等になって互いを信じ合ってるふたりを、涼ちゃんと田中圭で読んでみるのも一興。

 なお、ドラマで諸星刑事を演じているジェシーだが、これは原作には登場しないキャラ。ドラマオリジナルなので原作ではジャニ読みできない……と思ったら大間違いだ。実は原作には「諸星」という若者が登場する。彼は黒木にさまざまな情報を流す池袋の情報屋なのだ。逃亡アクションシーンがあったり、ホストクラブに潜入したり、続編ではラーメン屋で働いたりする。ぜひこの諸星をジェシーでジャニ読みしてみていただきたい。意外と似合ってるぞ。

 ちょっと気になるのは、原作では途中で神崎が結婚するんだけど……まあ、人物の年齢設定が違うので、ドラマではたぶんない……よな?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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