大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2021/01/08

木村拓哉主演「教場II」原作からの改変がエゲツなく素晴らしい! ジャニーズの「継承」にも注目

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 君を守るためそのために生まれてきた皆さんと、この地球(ホシ)の期待超えてく皆さん、そして予定詰まったカバン捨てて帰る皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、2021年最初の一発はもちろんこちら!

■木村拓哉・主演、 目黒蓮(Snow Man)、重岡大毅(ジャニーズWEST)・出演!「教場II」(2021年、フジテレビ)

 ちょうど1年前、「教場」をこの欄で取り上げたとき、私は「風間だ、風間がここにいる……! 木村くんの新たな代表作になりそうな予感すらする」「原作ファンとして何より嬉しかったのは、原作の骨格をそのままに、見事に再構成して長編ドラマに仕上げてくれていたことだ」と書いた。そして今回「教場II」を見てさらにその思いを強くしたわけだが……いや、エゲツない! 原作からの改変がマジでエゲツない&素晴らしい! よくこんな改変を思いついたな!

 何がエゲツない&素晴らしいかは後述するとして、まずは原作を紹介しよう。原作は長岡弘樹の「教場」シリーズ。警察学校を舞台にしたミステリだ。警察学校内で起きる様々な事件。白髪義眼の教官・風間公親は事件にかかわったと思われる生徒に退校を迫りつつも、突然理解しがたい命令を与える。その命令は生徒の心の闇をあぶり出し、予想外の〈真相〉に読者は驚くことになる──というのが原作の構造だ。同時に、警察官には向かないとふるいにかけられた生徒がひとりずつ退場していく、警察学校サバイバル小説でもある。

 シリーズは現在『教場』『教場2』『教場0 刑事指導官 風間公親』『風間教場』(いずれも小学館文庫)が刊行されている。最初の2冊は警察学校内部での事件とそれにかかわる生徒たちを綴った連作短編集。『教場0』は風間が刑事だった時代(そしてまだ右目があった時代)を描いた短編集。そして再び警察学校を舞台にした『風間教場』は、シリーズ初の長編である。

 今回もドラマでは複数の事件が取り上げられた。それらはすべて原作にあるものばかり。鳥羽(濱田岳)と稲辺(眞栄田郷敦)の一件は『教場』第3話「蟻穴」、忍野(福原遥)と堂本(高月彩良)の友情は『教場2』第2話「心眼」、時間を守れない漆原(矢本悠馬)の話と、後編の杣(目黒蓮)・伊佐木(岡崎紗絵)の話、比嘉(杉野遥亮)と副教官の田澤(松本まりか)の話はすべて『風間教場』から。そして石上(上白石萌歌)が語った1期前の世代の事故は『教場』第5話「異物」がベースになっている。

 これ以外にも、原作に登場した大小のエピソードが随所に使われていた。たとえば蓮くん演じる杣が自習を命じられたあとで自室に戻る場面は『教場』第1話「職質」からだし、練習交番での誘い出し事案を見抜くくだりは『教場』第2話「牢問」にある。いずれも杣ではなく(杣は『風間教場』が初登場)、その年の優等生だった都築という生徒の行動だが、蓮くんファンは『教場』を読むと都築の行動が蓮くんで脳内再生されるはずだ。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作読者を驚かせた予想外の改変

 最初に語られた鳥羽と稲辺の話は、あのエグさも含めてすべて原作通り。改変されていた部分はまったくなかった。もともと原作のレベルが高いので、敢えて手を入れずとも充分面白いわけである。ところがその次のエピソードから少しずつ原作とずらしてきた。そのずらし方に驚かされた。

 忍野と堂本の一件は、話の展開自体は原作通りである。だが違うのは、原作ではこのふたりは男子生徒なのだ。「これ女子にしてどうするの?」と思っていたら、女子のまま何も変えずにドラマにしていた。そして、「女子にしてどうするの?」と考えた自分こそ、根拠のない旧弊な思い込みに囚われていたのだと気付かされたのである。

 感心したのは比嘉と田澤のくだり。原作とは表面上は同じなのに、真相を正反対にしてみせるという離れ技を見せてくれた。どういう意味かはぜひ原作でお確かめいただきたいが、その結果、原作より数倍エゲツない展開になっている。なお、比嘉と田澤の関係は『風間教場』からだが、ドラマにあった消防での高所からの救助訓練の場面は『教場2』第3話「罰則」をアレンジしたもの。

 何より衝撃的な改変は、宮坂(工藤阿須賀)を襲った運命だ。かつての卒業生である宮坂が生徒の世話係として戻ってくるのは『風間教場』に登場するエピソードだが、原作の宮坂は元気に一冊通して活躍する。ドラマも原作も未見の人にネタバレしないように書くのはとても難しいのだけれど、原作では、あれは宮坂ではなかったのだ。別の人物の話なのだ。それ以外はすべて原作通りだったから、原作を読んでいた読者もあの展開には不意を突かれて驚いたのである。いやそれ、宮坂にしましたか!

 昨年のこのコラムで私は、とことんクールで怜悧な原作にドラマは救いを加えた、と書いた。今回も救いが用意されているのは同じだが、むしろ改変によって原作よりも残酷な現実を突きつけてきた気がする。現実は残酷だからこそ、人は過ちを犯してしまうものだからこそ、その後どうするのかというテーマがよりクリアになった。特に宮坂については衝撃を受けた視聴者は多かったと思うが、そういう人はぜひ『風間教場』をお読みいただきたい。頼もしい警察官になった宮坂に会えるぞ。

■「木村教場」から巣立っていく後輩たち

 もうひとつの衝撃は、エンドロールの後に待っていた。風間が右目を失った事件のワンシーンだ。おそらく第3弾ではこの事件が話の中心になるのだろう。原作では『教場0』所収の「毒のある骸」でその事件が語られるが、どうもここは原作から大幅に変えてあるっぽい。「毒のある骸」では、風間が右目を負傷したとき一緒にいたのは平優羽子という女性刑事で、平は後に『風間教場』で副教官(助教)として再登場する。ドラマの副教官が平ではなく田澤という別人設定だったのは、このあたりに理由があるのかも。

 とにかくドラマは「原作のあの話をこう使うのか!」という驚きに満ちていたので、ドラマを見た人はぜひ原作にも手を伸ばしていただきたい。刊行順に読むのがベストだが、特に文庫になったばかりの『風間教場』は必読だ。蓮くんが演じた杣が出てくるというだけではない。第3作までは一編ごとに語り手が変わったが、『風間教場』は風間の視点で書かれているのである。何を考えているかわからないというのが風間の不気味さを演出していたのだが、本人視点なので考えていることは(すべてではないにしろ)読者に伝えられる。風間の新しい面が見えてくるはずだ。

 そして『風間教場』で、風間は大きな出来事に向き合うことになる。これはまだドラマには登場していないエピソードなのでここには書かないでおくが、そのときの風間を演じる木村くんをぜひ見てみたい。というか、かつて似たような状況の人物を木村くんは映画で演じているので、きっとめちゃくちゃ巧くやるだろうなというのが目に浮かぶのだ。なんかまどろっこしい言い方でごめんね。何を書いてもネタバレになっちゃうからさあ。とにかく『風間教場』を読んでもらえればわかる!

 ドラマでは次回への引きも仕込まれ、フジテレビの正月といえば教場、という流れになりそうでとても嬉しい。そして何より、前作ではなにわ男子の西畑大吾くんが、今回は蓮くんと重岡くんが登場し、木村くんの薫陶を受け、巣立っていくという構図が嬉しいじゃないか。あ、ちゃんと巣立ったのは蓮くんの杣だけか。まあそれはそれとして、鬱屈を抱えた静かな秀才・杣を演じた蓮くんもとても似合っていたし、突発的な出演にもかかわらず難しい役を見事に演じた重岡くんにも感じ入った。

 次回作以降もぜひ後輩たちを生徒で出してほしいなあ。先輩の演技に間近で触れ、引っ張られ、画面の中でぶつかり合い、役者として成長していく。これってJr.が先輩のバックで踊る時代を経てデビューするのと同じじゃない? 相葉ちゃんの新番組「vs魂」に木村くんが出たときの、共演した後輩たちの背筋が一斉に伸びる様子が、なんだか風間と生徒たちにダブって見えた。このコラムで何度も書いてきた、ジャニーズの〈縦の継承〉の新たな一翼がこの「教場」なのかもしれない。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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