大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2021/05/12

櫻井翔主演「ネメシス」前代未聞の趣向! 小説版と比べることで楽しみは倍に!

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 単純な真実が傷をいやしてく皆さんと、体温爆発 君がそばにいる皆さんこんにちは。この世に晴れない霧がないように、読めない本もいつかは読める。読んでみせましょうこの作品を。さあ、ジャニ読みの時間です。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は翔くんの名探偵ぶり(?)が10年ぶりに味わえる、このドラマだ!

■櫻井翔(嵐)・主演、上田竜也(KAT-TUN)出演!「ネメシス」(2021年、日本テレビ)

 横浜に居を構える探偵事務所〈ネメシス〉。CEO栗田(江口洋介)のもと、探偵の風真(櫻井翔)、助手のアンナ(広瀬すず)で構成されるこの事務所には毎度難事件が舞い込み、風真が颯爽と謎を解く──と見せかけて、実は名探偵はアンナの方。ポンコツだが人はいい風真と、天才的ヒラメキを誇るが変わり者のアンナのバディものだ。その一方でアンナの失踪した父親の謎が全体を通して描かれる。

 小説版の『ネメシス』(講談社タイガ)は現在3巻まで出ており、4巻・5巻が今月14日に発売予定。といってもこの小説版、少々変わっている。第1巻を書いたのは映画化もされた鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』(東京創元社)の著者・今村昌弘。第2巻と第5巻の著者は「脅迫屋」シリーズ(講談社タイガ)が人気の藤石波矢。第3巻はメフィスト賞作家の周木律、第4巻は『偽りの春』(KADOKAWA)で第71回日本推理作家協会賞短編部門を受賞したコンビ作家・降田天。4人(厳密には5人)の気鋭のミステリ作家が持ち回りで執筆しているのだ。

 これはちょっと面白い趣向だぞ。番組ホームページには「完全オリジナル脚本」とある。じゃあこの小説は何だ? 原作でもなく、ノベライズでもない。実はこれ、ミステリ作家がドラマの脚本に協力し、それを小説にして刊行したのである。たとえば1巻の巻末には「本書は、連続テレビドラマ『ネメシス』(脚本 片岡翔 入江悠)の第一話・第三話の脚本協力として、著者が書き下ろした小説です」とある。2巻と3巻にはさらに「そのキャラクターをもとにしたスピンオフ小説です」という文言が加わる。

 ノベライズと何が違うのか? いやもう、かなり違うのだ。事件は同じなのに、使われるトリックが違うとか、犯人まで違うなんてものまである。それぞれが協力した脚本を小説にするならもっとこうしようとアレンジしたのか、それともまず脚本用に書かれた小説をドラマが改変したのかはわからないが、ノベライズならありえないこの違いは、ドラマと見比べるのが実に楽しい。

 驚かされるのは、同じキャラで複数の作家が小説を書く、というこの企画だ。4人のミステリ作家はもともと、作品のスタイルが大きく異なる。文体にも人物設定にもそれぞれ個性がある。だが今回はあくまでもドラマありき、しかも配役のイメージもあるので、それを壊すわけにはいかないし、かといって自分の持ち味を殺してしまっては面白くない。その辺のバランスが絶妙だ。既刊3冊は別の人が書いているとは思えないほどスムーズにシリーズとして読める一方、「さすが今村さん、設定が凝りまくり」とか「周木さんのタカ&ユージ、はじけすぎ(笑)」といったように、実はちゃんと個性がある。そこもぜひ味わってほしい。


イラスト・タテノカズヒロ

■小説版で「ネメシス」は2倍楽しめる!

 1巻ずつ見ていこう。ドラマ第1話「天才探偵、現る!」と第3話「美女と爆弾と遊園地」は今村昌弘担当の第1巻から。この巻の特徴は謎解きの過程がドラマとかなり違うということだ。たとえば第1話は愛人たちに宝探しをさせていた富豪が密室で殺され、長すぎるダイイングメッセージが残されるという事件だが、宝探しのヒントとして渡される暗号がドラマと小説では別のものになっている。ドラマはひらめき一発の暗号だったのに対し、小説版は少々じっくり考える必要がある。

 また第3話は遊園地に爆弾を仕掛けて金銭を要求する犯人の話だったが、こちらはなんと犯人が違う! 身代金受け渡しに警察が右往左往させられたドラマの場面も無し。犯人が威嚇としてどんな方法を取るか、身代金をどんな方法で受け取るかも、ドラマとはまったく違うのだ。そこまで違ったらもう別物じゃないかと思うのだが、キャラがぶれてないのでしっかりネメシスで脳内再生される。この展開での翔くんを想像して楽しむという味わい方ができるのだ。

 藤石波矢の第2巻は格別だぞ。ドラマ第2話「HIP HOPは涙の後に」の小説版が収録されているが、基本構造はドラマと同じ。だが小ネタが楽しい。ドラマでは翔くんがラップを披露し、「風真さんもラップできたんですね」「うん、昔やってたからね。カザラップ」という全国の翔担さんが一斉に吹き出す会話が展開されたが、小説版にこれはない。小説の風真はラップが下手という設定なのだ。まあ、それはそれで翔くんで見たかったけども。なおカザラップが出ない代わりに、小説版では事件が解決できたのはアンナのおかげだと言われ「はいはい、アンナ様様ですよ。感謝感激雨あらし」と返す場面がある。遊んでるなあ。

 またこの第2巻には、おそらくドラマでは放送されないスピンオフ小説の位置づけと思われるが、道具屋・星が主人公の短編も収録されている。そう、たっちゃんが演じる道具屋が大活躍する小説なのだ。ハイフンの皆さんはぜひこちらを! っていうかこれもドラマでやってほしいなあ。アクションも多くてたっちゃんに似合いそうなんだよなあ。

 周木律の第3巻にはドラマ第4話「AIという名のもとに」の小説版が収録されている。こちらもおおまかな流れはドラマと同じだが、人物設定が変わっていることに注目。ドラマでは孤高を保つ美術好きの生徒が、小説版ではなんとギャルになっているのだ。こういう細かい違いで物語の雰囲気が変わる。小説とドラマの両方を知れば楽しみも倍なのである。

■表と裏、オリジナルとパロディ、リアルと虚構、知れば知るほど世界は広がる

 小説版を読んでみてつくづく思うのは、同じストーリーであっても「小説ならでは」「映像だからこそ」というそれぞれの特徴があるのだなあ、ということ。前述の第1話の暗号なんて最たるもので、小説版の暗号をもしドラマでそのまま使ったら、一定時間暗号を画面に出しっぱなしにしないと視聴者は解けないだろう。

 また、ドラマの第2話では勝地涼演じる刑事のタカがいきなり室内で発砲する場面があったが、あれは小説にはない。いくらコメディ仕立てでもあの状態で刑事が突然発砲するのはさすがにリアリティがないからだろう。でも勝地涼ならなぜか納得できちゃうという不思議。そういうふうに、映像の説得力、文章の伝達力がそれぞれ存分に発揮されているのは、実に興味深い。

 映像の説得力といえば翔くんだ。いやもう、驚くほどポンコツが似合うな! 嵐ではMCを担当し、キャスターも務める知性派で、ジャニーズのインテリ番長なのに、アンナにいいように転がされてる情けない探偵役がなんでこんなに似合うの? たっちゃんもリアルでは翔くんをアニキと慕ってひざまずかんばかりなのに、ドラマでは無愛想な道具屋で風真を雑に扱う。

 インテリ翔くんのポンコツぶり、男気たっちゃんの横柄っぷり、どちらも普段を知っているからその逆転を楽しめる。「ラプラスの魔女」を知っていれば主人公コンビの味わいも違って見えるし、謎ディを知っていればタイプの違う今回の探偵役と比べて楽しむこともできる。積み重ねた知識は、鑑賞の幅を広げてくれるのだ。同じように、小説とドラマ両方を知る方がより楽しめる。できればそこから著者の別の作品にも手を伸ばしてほしい。『屍人荘の殺人』を読めば『ネメシス1』との味わいの違いに瞠目するだろう。

 ところでこれはジャニーズとは関係ない余談なのだが、オリジナルのタカ&ユージのゲスト出演を密かに期待しているのは、私だけではないと思うのだ。出てくれないかなあ。アンナの父親役で既に「トオル」もいることだし ……あ、これもオリジナルを知ってるからこそか!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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