大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2021/06/23

木村拓哉主演「華麗なる一族」2007年版は父親に抗う息子が主人公 原作との違いを解説

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 破れた毛布でちぎれた心を何度でもあたためる皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、現在WOWOWで放送中の「華麗なる一族」にキスマイの藤ヶ谷くん・宮田くんが出演中ですが、その前にやっぱりこっちを先に取り上げるべきでしょ。ってことで木村パイセンのこのドラマを復習だ!

■木村拓哉・主演!「華麗なる一族」(2007年、TBS)

 わあ、もう14年も前なのか! 木村くんが34歳のときの作品。原作はもちろん、山崎豊子の同名小説『華麗なる一族』(新潮文庫)だ。1970年3月から72年10月にかけて雑誌連載され(その翌月に木村くんが生まれた)、1973年に単行本が刊行された。以来、映画化・ドラマ化も多く、山崎豊子作品の中でも『白い巨塔』『沈まぬ太陽』『大地の子』などと並ぶ代表作である。

 大阪万博を間近に控えた高度経済成長期、万俵財閥総帥にして阪神銀行頭取の万俵大介は、大蔵省(現・財務省)が進める金融再編に際し格上の銀行を有利な条件で飲み込む合併を画策していた。万俵財閥が得意としていたのは閨閥結婚。一族の子供をメリットのある相手と政略結婚させ、その結果構築された血縁のネットワークを利用してのし上がってきたのだ。そのため、閨閥作りに秀でた愛人の高須相子を自宅に同居させ、いわゆる妻妾同居を長年続けており、家政も相子が取り仕切っている。

 そんな折り、万俵財閥傘下の阪神特殊製鋼で専務を務める長男の鉄平から融資の申し込みがあった。原料供給の不安定さを改善するため自社で高炉を建設するという。当然、希望額が融資されるものと鉄平は思っていたが、鉄平に含むところのある大介はそこから大幅な減額を提示、鉄平は苦境に陥る。実は大介は、鉄平が自分の子ではなく、妻・寧子に亡き父が手を出して生まれた子ではないかと疑っていたのだ……。

 というのが原作・ドラマに共通する物語の導入部である。『白い巨塔』の医学界、『沈まぬ太陽』の航空業界同様、ブラックボックスとされた金融業界の闇にメスを入れた作品だ。富と権力に野心を抱く万俵大介を中心に、魑魅魍魎うごめく政・財・官のどろどろねっとりした癒着や駆け引き、銀行の生き残りをかけた策略・謀略といった経済小説の側面を縦糸とするなら、横糸は万俵家が孕む歪な家族関係と鉄平の出生の疑惑。そのふたつを軸に、野望を実現していく「華麗なる万俵一族」の全盛からその崩壊までが描かれる。

 ドラマのストーリーは基本的に原作通りだ。だがこのTBS版には、他の映像作品と異なる大きな改編があった。原作の主人公が大介であるのに対し、このドラマでは長男・鉄平を主人公にしたのである。これはまったく新たな切り口だった。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作とドラマ、ここが違う

 ストーリーは同じでも視点人物が変われば描かれ方が変わる。原作は大介視点で、銀行の合併を巡る謀略を描く経済小説。そこに息子への疑念が影を落とし、謀略に私怨が加わって破滅へと向かう様子が描かれた。しかし鉄平を主人公にしたことで、経済小説の部分はかなり薄まる。銀行内部の具体的な描写もドラマではかなりカットされていた。

 余談だけど、大介を演じた北大路欣也さんは同じTBS日曜劇場の「半沢直樹」でも銀行の頭取役だったので、阪神銀行が東京中央銀行の前身みたいに見えたの私だけじゃないよね? このときの反省をもとに東京中央銀行では行内融和を推し進めたんだな、なんて想像するとけっこう面白い。ぜんぜん関係ないんだけど。

 話を戻す。経済小説の側面が薄まったのと逆に浮かび上がったのが、阪神特殊製鋼の若き専務として高炉建設の夢を抱く万俵鉄平だ。祖父に似たカリスマ性と行動力を持つ鉄平は、ドラマでは「理想と希望」を体現する熱い男として描かれた。そして、出生の秘密ゆえにその夢を父親に邪魔されるという「父と子の相剋」が、物語のメインになったのだ。

 そのため、ドラマには原作にないエピソードが多く加えられている。爆発事故で我が身を顧みず部下を助ける場面も、鉄平に恩のある沖仲仕たちが鉄平の苦境を助けにくるという胸熱展開も、原作にはない完全ドラマオリジナルだ。また、ドラマのクライマックスだった裁判での父子対決も原作では裁判になる前に告訴を取り下げられてしまって存在しないし、裁判後に出生について父と子が直接話す場面もない。

 つる乃家の芙佐子との過去のロマンスもないし、つる乃家の老女将からの手紙も原作には登場しない。つまり、自分は父の子ではないということを鉄平が明確に知らされる場面はない(察してはいるけれど)。きわめつけは、視聴者を号泣の渦に巻き込んだ鉄平の遺書が原作にはないこと。原作で鉄平が死を選んだのは出生の秘密などではなく、ただ、父に騙されて会社を倒産させられたことへの絶望だ。原作の鉄平は、わけもわからず父親に冷たくされて自分の会社を失い、絶望して死んでいく悲劇の人物なのである。

 つまり身も蓋もないことを言うと、ドラマを見て「鉄平かっこいい」と感じる箇所はだいたいドラマオリジナルなのだ。山崎豊子は生前、鉄平を主人公にして再構築するというドラマのアイディアを聞き、「面白いところに目をつけた!」とこころよく了承したという。と同時に、自分も当時、もっと鉄平を魅力的に書いておけばよかった、もういちど「華麗なる一族」を書き直せるなら、鉄平をもっと魅力的に書きたい、とも言っていたそうだ。

■見せ場のない原作の鉄平が実はかっこいい理由

 ──そんなふうに書いてしまうと「原作読んでね」というこの連載の主旨に反するように見えるが、実は、そんな見せ場がないにもかわらず、原作の鉄平はなかなかかっこいいのだ。それって逆にすごくない?

 原作ではただただ翻弄され、苦境の中でなんとか活路を見出そうと足掻き、最後には敗れてしまう鉄平。だが弟や妹たちや部下たちに慕われ、良き夫良き父で、大介のような策略を使うことなく常に正面から誠意を持って相手に向き合う。そりゃドラマみたいに「絵になる」場面はないけれど、むしろこの方が、ずっとリアルで誠実だ。ぜひそんな鉄平を原作で味わっていただきたい。真面目にこつこつやってきた人が権力の前になすすべなく踏みにじられるという構図は、決して小説の中だけではない。それでも真面目に誠実に生きることがいちばん難しくてかっこいいと感じるはずだ。

 そういえばこのドラマが木村くんにとって(時代劇を除くと)初めての妻帯者の役だったんだよね。妻を労り、息子を愛する木村くんが見られたのも新鮮だった。大金持ちの政略結婚で、他の妹や弟は愛のない結婚生活を送っている中、鉄平一家だけは、きっかけは閨閥結婚だったにせよ、ちゃんと家庭を築いている。そういう「真っ当さ」は、どろどろの物語の中にあって大きな救いだった。

 もうひとつ、このドラマで特筆すべき点は、原作通りに1960年代を舞台にしているということ。前にこの連載で取り上げた『白い巨塔』や松本清張の『砂の器』のように、何度も映像化される作品はその都度、舞台を現代に置き換えるという改変がなされるのが常だった。ところがこの『華麗なる一族』についていえば、2007年版も、現在放送中の2021年版も、舞台は原作通りの1960年代なのだ。

 そのため原作はもちろんドラマも「時代劇感」がたっぷりなのだけど、そのあたりは次回の藤ヶ谷・宮田版「華麗なる一族」で掘り下げるよ。藤ヶ谷くんは鉄平の弟で銀行員の銀平を、宮田くんは総理の甥の細川一也を演じているぞ。特に銀平はこれまでのドラマでもないがしろにされがちだったんだけど、実は原作ではかなり重要な場面が多々あるのでお楽しみに。

 って、今気づいたが、鉄鋼の仕事をしてる長男が鉄平で、銀行員の次男が銀平って……しかも娘たちは上から順に一子、二子、三子……いや、わかりやすいけども。男児には継いで欲しい会社に因んで名付け、娘たちは政治の道具で人間性を認めていないということのメタファなのか、名付けがめんどくさかっただけなのか、さてどっちだろう?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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