藤ヶ谷太輔出演「華麗なる一族」黒藤ヶ谷がほとばしる! さらなる「昭和感」を原作で
突き抜けた空に向かって今抱えた想い叫ぶ皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はキスマイのふたりが昭和の名作に挑戦したこのドラマだ!
■藤ヶ谷太輔、宮田俊哉(Kis-My-Ft2)・出演!「華麗なる一族」(2021年、WOWOW)
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- 華麗なる一族〔上〕
- 価格:979円(税込)
前回に引き続き「華麗なる一族」である。2007年のTBS版で木村くんが演じた万俵鉄平の弟、銀平を藤ヶ谷くんが演じている。原作はもちろん、山崎豊子の同名小説『華麗なる一族』(新潮文庫)だ。
大阪万博を間近に控えた高度経済成長期、万俵財閥総帥にして阪神銀行頭取の万俵大介は、大蔵省(現・財務省)が進める金融再編に際し格上の銀行を有利な条件で飲み込む合併を画策していた。万俵財閥が得意としていたのは閨閥結婚。一族の子供をメリットのある相手と政略結婚させ、その結果構築された血縁のネットワークを利用してのし上がってきたのだ。そのため、閨閥作りに秀でた愛人の高須相子を自宅に同居させ、家政も相子が取り仕切っている。
と、ここまでは前回のコラムと同じ。だが前回は鉄平目線でのあらすじを紹介したので、今回は銀平にフォーカスして話を追ってみよう。
万俵家次男の万俵銀平は、父が頭取を務める阪神銀行の貸付課長だ。家では相子主導で、大阪の重工会社の娘である安田万樹子との縁談が進んでいる。だが当の銀平は仕事にも縁談にも何か目に見えない線を引いているかのように、どこか他人事で事務的だ。銀行ではまったく情のない切り捨てで中小企業を潰し、結婚した新妻にも冷たい態度を取り続ける。
兄・鉄平はその情熱と正義感のままに父親に意見し相子に反抗するが、銀平にはそういう気概もない。父には勝てないのだから無駄なことはしないと嘯(うそぶ)き、夜な夜な飲み歩く。父や相子には皮肉めいた態度こそとるものの、逆らうことはない。まるですべてをあきらめたように、あるいは人としての感情を持たないように見える銀平だが、それにはふたつの理由があった──。
イラスト・タテノカズヒロ
■原作の銀平を見事に再現、黒藤ヶ谷がほとばしる!
TBS版は鉄平を主人公に据えたことで、原作にないエピソードを加えたり、逆に鉄平以外のエピソードが削られたりしていた。結果、原作の持つ経済ドラマの側面が簡略化され、親子の相剋の方が前面に出たわけだが、翻って今回のWOWOW版は極めて原作に忠実。原作の持つ複数の要素──政・財・官の癒着に切り込む経済小説の側面と、閨閥を重視するがゆえに内部から亀裂が広がりつつある家族小説の側面、その両方を余すところなく映像化している。
特に藤ヶ谷くん演じる銀平に注目! どうしても鉄平vs父親の構図が中心になるためこれまでの映像化でも銀平の描写は若干軽めで「クールでニヒルな次男」止まりだったのだけれど、今回は銀平の行動のみならず事情や葛藤がしっかり描かれているぞ。小説『華麗なる一族』には大介の物語、鉄平の物語と並んで、銀平の物語が存在し、それらが結びついて“華麗なる一族”を構成しているのだ。いわば3人目の主人公と言ってもいい存在なわけで、これは藤ヶ谷くん、いい役をもらった!
その上で銀平という人物を見てみると、表面はクールでニヒル、斜に構えた皮肉屋。けれどその内には、幼い頃に見てしまった母の自殺未遂とそこから派生した父への不信がある。また、身分の違いから愛した女性と別れた傷を今も抱えている。これが前述した「ふたつの理由」だ。さらに銀平は妻や相子には冷酷な態度をとる一方で、母を大切に思い(ドラマで常にクールだった銀平が、妻に母の悪口を言われたときだけ激昂する)、兄や妹たちとの仲もいい。ただ冷たいだけのヤツじゃないのだ。
長男の鉄平がまっすぐな正義感で戦隊モノのレッドだとするなら、内に複雑な思いを秘めたクールな銀平はブルーといったところ。万俵レッドと万俵ブルーだ。冷たく見えるのに実は家族思いとか昔の恋を忘れられないとか、きゅんポイントが多すぎるだろ銀平!
とはいえ銀平の行動はけっこうヒドい。原作でもドラマでも万俵ブルーの暗黒面(青なのか黒なのかどっちだ)がほとばしる。ドラマではカットされていたが、原作には貸付課長としての銀平が融資先をとことん追い詰める場面があり、半沢直樹だったら即悪役認定されるレベルだ。また、妻に対しての非道っぷりはモラハラどころの騒ぎではない。黒藤ヶ谷ここに極まれりである。その一方で、原作にはない涙を流すシーンもあり、暗黒ときゅんの狭間でガヤ担の心は乱されまくりよ!
藤ヶ谷くんがここまでダークな役を演じるのも珍しいが、総理夫人の甥・細川一也役で登場の宮田くんもまた、珍しい役どころ。万俵家の次女の縁談相手だが、もう登場したその瞬間から画面に満ち満ちる当て馬感! これ以上ない当て馬坊ちゃんの笑顔! しかも細川一也はオタク気質! わはは、いいぞみやっち!
■原作でより「昭和の時代小説感」を味わう
だが、思えばどちらもアイドルらしからぬ役だ。そこで思い出したのが、銀平について書かれた原作のこの一節。
「“頭取の御曹子”ということが、いつも銀平を不快にしていた。三十代の貸付課長にしては人並以上の仕事をしているにもかかわらず、“御曹子”であるために正当には評価されず、心にもない社交辞令を云われ、内心で反発されている」
アイドルであるが故に、あるいはジャニーズであるが故に、良くも悪くも先入観を持たれることの多い彼らに重なって見えない? そういう意味では、華麗なるジャニーズがダーティな役や当て馬役を華麗にこなすこのドラマは、彼らにとっても大きなジャンピングボードになるのではないか。WOWOWのドラマ公式サイトにふたりのトークの動画がアップされているが、「銀平も可哀想なやつ」「いや、細川がいちばん可哀想」と盛り上がっていたのがとても印象に残った。
ところで、前回のコラムにも書いたが、昭和の名作が映像化されるときには時代を現代に置き換えることが多いのに対し、この「華麗なる一族」だけは、社会背景がテーマと結びついているため、常に原作通りの1960年代が舞台となっているのが特徴。2007年のTBS版も今回のWOWOW版も、セットや服装、小道具など、細部にまで実にこだわって「昭和」の「華麗」な一族を演出しているのがドラマの大きな見どころだ。だが(当たり前の話だが)閨閥の様子や万俵家の描写は、原作小説の方がより時代劇感が強い。
大介の妻妾同居&同衾は大奥かよってなもんだし、何回も描かれる料亭での密談は時代劇の悪代官と廻船問屋そのまんまだし、銀行員が田植え手伝うし、戦国大名よろしく子どもを政略結婚に使うし、鉄平は戦時中に疎開を経験している世代だし、ほぼ全員喫煙者だし、公家出身の母親は完全に「おひいさま」だし。そういう設定のみならず、ふとしたところに「昭和」が顔を出す。たとえば銀平の元恋人・章子を評して、女性が28歳で独身であることが「強烈な個性」と書かれているのだ。マジかよ昭和。
現代のフィルターを通して描かれた昭和と、リアルタイムで描かれた昭和には、やはり違いがある。ドラマの銀平には若干の現代的味付けがなされているように思えたので、原作でオリジナルな昭和感をぜひ味わっていただきたい。藤ヶ谷くんの銀平はひどい男だが、どんな時代だったかをよりダイレクトに感じられる原作で読むと、また印象が変わるかも? ちなみに原作が出た頃、ジャニーズからはフォーリーブスがデビューしているのよ、と当時小学生だったオールドジャニオタとしてつけくわえておこう。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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