三宅健出演「黒鳥の湖」原作は「意外な展開」だけで構成された圧巻のミステリ! ドラマとの違いは?
バラバラだった僕らの破片が一つになろうとしている皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は健くんの法衣も眩しいこのミステリドラマだ!
■三宅健(V6)・出演!「黒鳥の湖」(2021年、WOWOW)
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- 黒鳥の湖
- 価格:924円(税込)
前回、「親指さがし」で15年前の健くんを見て「変わんねーなこの妖精は!」と驚いたわけだが、今回はリアルタイムで今の健くんが楽しめるドラマである。しかも住職の息子として法衣をまとい説法をする健くん! これはレアだ……。
原作は宇佐美まことの同名小説『黒鳥の湖』(祥伝社文庫)。まずは原作とドラマ、両方に共通する設定と粗筋から紹介しよう。
会社社長の財前彰太は世間を騒がす拉致事件のニュースを見て愕然とする。被害者の衣服や身体の一部を家族に送りつけるという猟奇的なものだが、18年前に興信所所員だった彰太は、細部まで極めてよく似た事件の調査を依頼されたことがあったのだ。彰太はその時に偽の犯人をでっち上げることで、妻と娘、そして会社を手に入れたのである。つまり真犯人は野放しなわけで、まさかあの時の犯人がまた動き出したのか?
そんな彰太をさらなる衝撃が襲う。一人娘の美華の行方がわからなくなり、着ていたワンピースの切れ端が送り付けられたのだ。昔、自分が野放しにした犯人に娘がさらわれたのだとしたら、なんという因果か。妻の由布子は憔悴し、寺が主催する「瞑想の会」に救いを求めるようになる。彰太は18年前の依頼者を訪ねるが、そこで意外な事実が判明し……。
というのが『黒鳥の湖』前半の粗筋。ドラマと原作で拉致犯の通称や手がかりが出るタイミングなどの細かい違いはあれど、基本的にストーリーの流れは原作通りだ。とにかく最初の前提がどんどん覆されていき、その都度、謎が深まる構成は圧巻! 小説にはよく「意外な展開」という惹句が用いられるが、『黒鳥の湖』は「意外な展開」だけで構成されているミステリと言っても過言ではない。
それがドラマになると全5回という短さゆえか、「意外な展開」は1話の中に何度も詰め込まれる。原作は過去と現在を行き来しながら新たな手がかりや事実が出てくる度に「うおおお」となるのだが、原作よりドラマの方がテンポが速く「うおうおうお」だ。そして何よりドラマは、健くん演じる若院が毎回出てくる!
イラスト・タテノカズヒロ
■健くん演じる若院、原作ではこんな人
健くん演じる若院は「瞑想の会」を主催している寺の住職の息子という役どころ。この「瞑想の会」にはまず由布子が傾倒し、そして彰太も参加するようになるのだが、原作の若院の描写を見てみよう。あ、視点は彰太ね。
「三十代後半。まだ四十にはなっていまい」「卵型の顔は小さく、清潔な法衣の襟(えり)から伸びた首も細い。くっきりした二重瞼(ふたえまぶた)の目は切れ長で、唇は薄い。中性的で、どこか高潔な仏像を思わせる面立(おもだ)ちだ」「語りがどことなく板についていないところが初々(ういうい)しく好感が持てた」「読経の声とはまた違う。説法の声は物静かで染み入るような声だ。この人は自分の声の特徴をわかっていて、うまく使い分けているのではないか。頭のいい人なのだという印象を持った」
これらは彰太が初めて「瞑想の会」に出たときの記述だ。最初に小説を読んだときには気にしなかったが、ドラマを見てからあらためて小説を読み直すと、まんま健くんじゃないかと思ってしまう不思議……。原作の若院は頭を青く剃り上げているので、そこだけは違うが、それ以外はなかなかに再現度は高いぞ。また、こんな文もある。
「知識が豊富で、頭の回転も速い。その上で柔軟な考えの持ち主だと知れた。仏教に深く帰依(きえ)しているのは明瞭だが、押しつけがましくない態度が好も しかった」「若院のなで肩の体を包む法衣のかすかな衣擦(きぬず)れ、薄い唇が小気味良く動き、教えの言葉を放つ様は、この厳かな場にしっくり溶け込んでいる。彼の中性的なたたずまいは、ブッダの教えを伝えるのに、これ以上ないほどの効果を生んでいる」
いやあ、それほどでも……と思わず照れてしまった。私が照れる理由はないのだけど。ドラマでは彰太を演じる藤木直人さんが若院と会話する場面が何度かあったが、あのとき彰太は内心でこんなことを考えていたんだなあというのが原作を読むと書かれているので面白いぞ。ドラマではカットされた若院の説法や彰太との会話もあるので、原作で健くんの語りを想像しながら読むのもいい。
現時点ではドラマが途中なので書けないけれど、ドラマが原作を大きく改変していない限り、実は若院最大の見せ場は終盤にある。原作を知っている身としては「お楽しみに」としか言えないのが焦(じ)れったいのだが、うん、ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。そしてそこまで見れば(読めば)、前回のコラムで私が「親指さがし」と「黒鳥の湖」について「少しだけ共通している要素がある」と書いた理由がわかっていただけると思う。
■物語のテーマ「因果応報」とV6と私たち
『黒鳥の湖』のテーマは「因果応報」。かつて野放しにしてしまった拉致犯に、今度は娘が狙われた。かつて違法な手段で手に入れた会社を、今度は側近に奪われた。彰太を見舞った不幸はすべて過去の自分に原因がある──と彼は悩む。
でも、本当にそうなのかな? というのは原作を読むもしくはドラマを最後まで見ていただくとして。因果応報とは、人はいい行いをすればいい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるという考え方をいう。「親の因果が子に報い」とか「何の因果でこんなことに」などなど、悪い意味で使われることが多い気がするが、実際はいいことも悪いこともひっくるめて、自分の行いが自分に返るという意味の言葉だ。
原作では他でもない若院が因果応報という概念について説明するくだりがあるので、詳しくはそこをお読みいただきたいが、つまり簡単に言えば「過去があったから、今の自分がいる」ということになる。健くんはインタビューで、「あの過去があって今がある」の自分の例として、「16歳の時にV6というグループに入ったことがとても大きなターニングポイントでした」と語った。あのとき、ジャニーズ事務所に入り、V6に入ったという過去があったからこそ、今の自分がいる、と。
それはファンも同じだ。健くんがV6に入ってくれたからこそ、あのときV6を知ったからこそ、V6にハマったからこそ、今の自分がいる。健くんのターニングポイントがそのままファンのターニングポイントなのだ。他グループのファンも同じだろう。自担に出会わなかった場合の人生って想像できる? 因果応報という言葉を、いい意味の方で身を持って感じているのは、「推しのいる人」だと思うのよ。
私は歳を取ってるぶん、若い頃にハマったジャニーズアイドルはもうほぼ全員が退所している。すでに亡くなってしまった推しもいる。でも、あのときに彼らに出会えて良かったと思うし、好きな気持ちは今もまったく変わっていない。アイドルって、今ここにいようがいまいが永遠だったりするのだ。
V6の解散まで2ヶ月あまりになってしまったけど、V6のくれたものは変わらないし、V6が好きなことも変わらない。でしょ? 『黒鳥の湖』原作での若院の説法には、そんな思いを肯定してくれるような箇所もあるので、ぜひ健くんの声で脳内再生しながらお読みいただきたい。ただまあ若院は……おっと、それは言えないんだった!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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