伊野尾慧と神宮寺勇太が師弟役「准教授・高槻彰良の推察」ふたりのわちゃわちゃが見たい人は原作へ!
今は分かんないけどまた明日の皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は准教授のいのちゃんに神宮寺くんが振り回されるこのドラマだ!
■伊野尾慧(Hey!Say!JUMP)・主演、神宮寺勇太(King&Prince)・出演!「准教授・高槻彰良の推察」(2021年、東海テレビ・フジテレビ系全国ネット)
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- 准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき
- 価格:660円(税込)
と、番組公式サイトの表記に則っていのちゃんを主演と書いたけど、いやこれ、神宮寺くん演じる深町尚哉とのW主演、もっと言えば原作では尚哉こそ主役と言っても過言ではない。……てなことは後述するとして、まずはあらすじから。
深町尚哉は子供の頃、死者たちの盆踊りに迷い込んだ経験を持つ。亡き祖父の助けで現世に戻ってこれたものの、その代償として、尚哉は他人が嘘をつくとその声が歪んで聞こえるという力を持つようになってしまった。嘘がわかってしまう彼は友達も作れず、家族からも厭われ、孤独な日々を送ることになる。
大学に入った尚哉は准教授・高槻彰良による民俗学の講義を受け、自らが体験した不思議な出来事を書くようにというレポートに死者の盆踊りの話を書いた。嘘を聞き分けられる部分は伏せていたものの、そのレポートを読んだ高槻は尚哉に興味を示し、自分の助手になるように誘う。怪異が起きたという現場に行き、その真相を探るフィールドワークについてきてほしいというのだ。
助手としての仕事は、怪異の話を聞くと常軌を逸してはしゃいでしまう高槻を止めることと、方向音痴の高槻の道案内。だが、フィールドワークの途中で高槻は尚哉の能力に気づく。高槻はすべてを話した尚哉を気味悪がることもなく、「いつか、君の身に起きた出来事について、一緒に解き明かそう」と語りかける。以降、尚哉は助手として自分の力を高槻のフィールドワークに役立てるようになるのだが、実は高槻にも、怪異にまつわるある秘密があったのだ──。
というのが原作の設定。尚哉の力を高槻が知るきっかけなど細かい違いはあるが、ドラマも設定そのものは極めて原作に忠実だ。
原作は現在6巻と番外編が1冊の、計7冊が刊行されている。1冊に平均して3話収録され、序盤は主に、怪奇現象だと言われて現地に行くものの、実は人為的な犯罪や悪戯だったことを高槻が見抜くというミステリ仕立ての1話完結の物語が中心だ。そして全体を通し、高槻の秘密が少しずつ露わになるとともに、尚哉の成長が描かれていく。
イラスト・タテノカズヒロ
■原作とドラマ、謎解きの違いに注目
ドラマも原作と同じく、今のところは1話完結のミステリ仕立て。各話で起きる事件はすべて原作にあるものばかりだが、原作の順番通りではない。さらに、内容にもさまざまな改変がなされていた。
ドラマ第1話は原作のふたつの話が組み合わされている。尚哉の身に起きた過去の事件と高槻との出会いは原作1巻第1章「いないはずの隣人」、小学校でのコックリさんの一件は第2巻第1章「学校には何かがいる」から。コックリさんがかつてクラスにいた少女の名前を指し、そこから怪異が続くようになったという話だが、原作とドラマではなぜその少女の名前が示されたのかの理由が違っていた。原作はけっこう現実的だ。
ドラマ第2話の藁人形と針の呪いは第1巻第2章「針を吐く娘」。ドラマは陸上選手とその姉の物語だったが、原作は仲のいい女性二人の話。藁人形や針が出現する経緯も動機も違っていた。何より真相が違う! 原作はかなりツイストが効いてるぞ。
ドラマ第3話の鬼の洞窟の話は第3巻第2章「鬼を祀る家」。ドラマに登場した魔除けの豆が壊されるエピソードは原作には登場しない。また、事件そのものは原作とほぼ同じ展開だが、動機が違う。なぜ嘘をついたのかにさらにもう一捻りある。なお、ドラマにはなかったが、原作のこの回では高槻自身の秘密にまつわる大きな出来事が起きる。
第4話の幽霊が見える女優の話は第2巻第2章「スタジオの幽霊」が下敷き。中耳炎になった尚哉から嘘を聞き分ける力が消えるというショッキングな出来事も原作通り。ただ、ドラマではその顛末は次回に持ち越されたが、原作ではこの話の中でその力は戻る。その上で、ドラマにもあった「この力がなくなったら助手でいる理由がない」という言葉を尚哉が高槻に告げるのだが──それに高槻が何と返したかが原作で最もゾクリとする箇所なのだ。さて、今週の放送で同じ返しが聞けるかな?
そして予告動画を見る限りでは、第5話は第3巻第1章「不幸の手紙と呪いの暗号」と前述の「いないはずの隣人」の合わせ技らしい。ここまで見た限りでは、謎解きも少しずつ原作から趣向を変えているので、原作とドラマ、どちらか片方を知っていても、もうひとつも「こういうふうに変えたんだ」と楽しめるのではないかしら。
■原作で可愛い師弟のわちゃわちゃを楽しめ!
──とまあ、ここまでは物語の筋の話。だが筋以外のところにこそ注目してほしい違いがあるのだ。それは、高槻と尚哉の師弟関係の描写である。原作ではこのふたり、もっとわちゃわちゃしているのだ。もうその場面が可愛くて面白くて。
前段に書いた通り、高槻は怪異が好き過ぎて怪異の話を聞くと所構わずはしゃいでしまう。ドラマでは相手の手を取るだけだが原作ではハグする勢いで、相手は怪奇現象に悩まされているのに「素晴らしい!」「羨ましい!」と喜ぶ始末。それを引き離し、高槻を正気に戻すのが尚哉の役目なのだ。准教授に向かって「あーもうっ、いいからさっさと手を放す! そんで周りを見る! 他のお客さんがたくさんいるお店で大声出さない!」と叱りつけたりするのだ。たとえば第1巻第1章から引用すると──
「いい年して、周りの迷惑になるような大声を出さない。初対面の女性の手も、そんな風に握っていいものじゃないです。ていうか、何であんたはそう気安く人の手を取りたがるんですか、欧米人ですか!」
「ごめんなさい。できればハグしたいとすら思ってました」
「駄目です。日本にハグの文化はまだ根付いてません。痴漢扱いされますよ」
そこで、高槻先生にならハグされてもかまわないと呟く依頼者に「あなたまで何言ってるんですか、今はそんな『ただしイケメンに限る』を発動してる場合じゃないでしょうが!」とつっこんだりもするのである。こういった掛け合いがドラマではトーンダウンしているのがもう残念で残念で。原作のこのくだり、毎回のように繰り返されるお約束の場面なので、ぜひいのちゃんと神宮寺くんで脳内再生しながら読んでほしい。ポンコツな先輩に常識人の後輩がつっこむジャニーズのわちゃわちゃ……ドラマで見たいなあ。
また、原作では高槻による民俗学の蘊蓄がドラマの10倍くらいみっちりがっちり語られる。さまざまな怪談や都市伝説とその解釈が紹介され、その部分だけでもとても面白いのでぜひ原作をお読みいただきたい。今のところドラマは原作3巻までを下敷きにしているようだが、4巻からは本物の怪異が時折顔を出し始め、高槻の秘密についても、尚哉の過去や能力についても大きな転機が訪れる。高槻と尚哉の関係も……おっと、それはまたSeason2で語ろう。
なお、本書の設定に興味を持った人にお薦め本を挙げておこう。民俗学をモチーフにしたミステリなら北森鴻の「蓮丈那智フィールドファイル」シリーズ(新潮文庫)がいい。また、人が嘘をつくと声が変な風に聞こえるというほぼ同じ設定の人物が主人公のミステリ漫画に、都戸利津『嘘解きレトリック』(花とゆめコミックス)がある。同じ設定でもさまざまなアプローチや展開があることがわかって興味深いので、をぜひ併せてお読みいただきたい。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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