大矢博子の推し活読書クラブ
2022/01/12

嵐メンバー3人に安田章大も出演「もう誘拐なんてしない」10年前の新春ドラマは豪華すぎる! 原作は「謎ディ」の東川篤哉

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 風が吹けば歌が流れる皆さんと、雨の日も風の日も立ち止まる事知らない皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、2022年最初の更新は今からちょうど10年前のこのドラマだ!

■大野智(嵐)・主演、安田章大(関ジャニ∞)・櫻井翔(嵐)・松本潤(嵐)・出演!「もう誘拐なんてしない」(2012年・フジテレビ)

 嵐の活動休止から1年、欠乏した嵐成分を「Record of Memories」や「This is 嵐」で潤してる御同輩も多いかと。それでもお正月に嵐の特番がないのは寂しいなあ……と、思い出したのが10年前のこの新春ドラマ。大野くん主演に加え、脇にヤス、そしてゲストで翔さんと松潤が出てるというスペシャル版だ。もう10年経ったんだなあ。

 10年ぶりに見返すと、あらためて新春スペシャルにふさわしい豪華出演陣にくらくらしたわ。ヒロインにガッキー、ヤクザの親分が北大路欣也。メインの布陣もさることながら、ゲスト枠のちょい役に田中圭や竹中直人、生瀬勝久、田中要次、渡辺いっけいなどなど、右を向いても左を向いても豪華! 高嶋政宏が見せ場もほぼないコメディリリーフの下っ端役なんてあり得る? なんと今をときめく松下洸平の初出演ドラマでもあり、ちらりと登場しているのだ(探してみよう)。翔くんは「謎解きはディナーのあとで」の影山として、松潤は「ラッキーセブン」の時多駿太郎としての出演で、これまた楽しい。

 原作は「謎ディ」でもお馴染みの東川篤哉の同名小説『もう誘拐なんてしない』(文春文庫)。2008年の作品である。が、ドラマはかなり改変されているので、まずはドラマの設定からおさらいしよう。

 大野くん演じる樽井翔太郎は下関出身のフリーター。子どもの頃からヒーロー願望が強く、上京して特撮ヒーローショーの役者をしていた。しかし仕事をクビになってしまい、先輩の甲本のツテで焼き芋の屋台を始めることに。そこでひょんなことからヤクザの花園一家の令嬢である花園絵里香と知り合う。難病の妹を助けたいという絵里香に頼まれ、なんと狂言誘拐に手を貸すハメになってしまい──。

 ヤクザの娘の狂言誘拐に手を貸す、というかほぼ主犯になってしまうのは原作通り。そこに偽札事件がからんだり、連絡の方法に花屋やバイク便を使ったり、身代金の受け渡しに船を使ったり、そしてその後の展開も花園一家の人間関係も、事件の真相も、そしてクライマックスのワカメ怪人(なんのことかわからないと思うが読めば/見ればわかる)も、原作のストーリーを踏襲している。おや? ではどこが改変されているのか?

■ドラマと原作、ここが違う


イラスト・タテノカズヒロ

 まず、原作の翔太郎にはヒーロー願望はなく、役者もしていない。「誰かのヒーローになる」というテーマは原作には存在しないドラマオリジナルだ。先輩のツテで始めた屋台は焼き芋ではなくたこ焼き。また、当たり前といえば当たり前だが、原作には占い師に扮した執事の影山もヒーローショーに出演する時多も出てこない。さらにドラマには原作にはないエピローグがついている。

 最大の違いは舞台。ドラマでは東京の話になっていたが、原作は下関と、対岸の北九州市門司区が舞台なのだ。ドラマで描かれた翔太郎と絵里香の出会いも、誘拐も、身代金受け渡しも、すべて関門海峡を挟んだエリアで行われるのである。背景や小道具もその場所ならではのものが使われるし、メイントリックは関門海峡だからこそ可能な仕掛けが用意されている。

 だからドラマを見始めて東京だとわかったときには、「え、あのトリックどうするの?」と不安になったものだ。使えないじゃん、ダメじゃん。だが心配は無用だった。その関門海峡ならではのトリックが、ある1点を変えるだけで東京で見事に再現されていたのだ。うわあ、そう来たか! よく考えたなー。これは製作陣の原作リスペクトを感じて嬉しくなった。

 原作は関門海峡が舞台ということで海だの船だのも重要な要素になるのだが、それもちゃんと東京で再現されていた。思えば東京は江戸の昔から水運の町なのだ。下関の漁師の家の1階が海に通じ、そこに船が格納されている(DASH島でお馴染みの舟屋だ)のと同様、東京にだって自宅に船着場のある家はあるわけで。なるほど、関門海峡ならではの設定をこういうふうに東京に生かしたのか、と比べながら原作を読むのは実に興味深いぞ。

 だがそれは言い換えれば、ドラマを見ても「原作のトリックはわからない」ということだ。ドラマを見た人は、東京にしかないアレが推理のヒントになったことを覚えているだろうが、当然アレは下関にはないわけで、じゃあ原作では何をヒントに謎を解いたのか? これがまた実に周到に伏線が張り巡らされているので、ぜひ原作で確かめていただきたい。東川作品はユーモアミステリのイメージが強いが、トリックや謎解きはかなりガチなのである。

■原作ならではの楽しみもたくさん!

 原作はご当地ミステリだけあって地元の情報もたっぷり盛り込まれているのも魅力。ドラマにもちらりと出てきた赤間神宮のお守りの他、関門海峡の潮流を示す電光掲示板の話題があったり、クライマックスの場所は和布刈(めかり)公園だったりと、ご当地モノがたくさん出てくる。それも決して観光地ばかりではない。むしろ有名な観光地より、「それ地元の人にしかわかりませんよね?」というローカルな場所や話題が頻出し、それが妙にマニアックで笑いを誘う。

 もしもドラマが原作通りこの場所を舞台にしていたらどうだったろう、と思わず夢想してしまう。関門海峡を飛び回る大野くんを想像するのも一興。原作には船で逃げようとして、船の操縦なんかできないと翔太郎が及び腰になる場面があるのだが、今の大野くんなら1級船舶免許持ってるから岸から100海里まで逃げられるぞ。コロナが落ち着けば下関と門司に旅行して、ここが絵里香と出会った場所、ここが身代金を奪った場所、などなど「聖地(だったはずの場所の)巡礼」もできる。

 また、原作はドラマよりコメディ要素が強い。いや、ドラマも充分コメディだったんだけど、原作はあの10倍はコメディ仕立てなのだ。セリフのひとつひとつにギャグが入りツッコミが入り、登場人物の動きも「コントか!」というようなものばかり。ドラマ以上に軽妙な登場人物の掛け合いを大野くんで想像するのも楽しい。

 原作を読むともっと楽しいのが、ヤスと高嶋政宏が演じたヤクザの下っ端、シロちゃんクロちゃんのコンビだ。ドラマではお嬢さんに振り回されて右往左往するコミカルな役で、それは原作でも同じなのだけれど、原作ではこのシロクロコンビの出番はもっと多い。掛け合いももっと多く、かつ、それがすべて漫才のような会話なのである。ドラマでも再現してほしかったんだけどなー。ヤスくんのセリフが少なかったとお嘆きの担当さんは、ぜひ原作でシロちゃんをたっぷり堪能すべし!

 ということでこのコラム、今年も小説原作のジャニーズのドラマや映画を追いかけていきますので、よろしくお付き合いください。と言いつつ次回は、小説原作ではないオリジナルドラマの「参考書籍」を紹介する特別版です。だってれんれんの時代劇だし! やらないわけには!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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