大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2022/06/15

佐野晶哉出演「20歳のソウル」映画と書籍で完結する「物語」 音大卒・晶哉くんのピアノは圧巻!

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 下手っぴなりにキミのために歌う皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は音大卒ジャニーズ・晶哉くんの華麗な演奏が堪能できるこの映画だ!

■佐野晶哉(Aぇ!group/関西ジャニーズJr.)・出演!「20歳のソウル」(2022年、日活)

 市立船橋高校に代々受け継がれている応援歌、「市船soul」。作曲したのは、同校吹奏楽部に所属していた浅野大義さんだ。大義さんは卒業後、尊敬する顧問の先生のような教師を目指して音楽大学に進学。しかし、がんに侵され、2017年1月、20歳の若さでこの世を去った。大義さんの葬儀には、市立船橋高校吹奏楽部のOB・OGら164名が集合。彼らの合奏で大義さんを見送ったという。生前の大義さんの人柄が偲ばれる。

 そのエピソードをお母様の桂子さんが新聞に投書したのをきっかけに、演出家・作家の中井由梨子さんが遺族に取材して書き上げたノンフィクションが『20歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド』(小学館)であり、その文庫版が『20歳のソウル』(幻冬舎文庫)である。そしてその中井さんが脚本を担当した映画「20歳のソウル」が公開された。

 なのでこれは「書籍の映画化」というよりも、浅野大義さんの生きてきた道や遺してくれたものを、文章と映像、それぞれの手法で描き出した作品と言った方が正確だろう。文章は文章ならでは、映像は映像ならではの工夫と伝え方が見られるので、ぜひ両方に目を通していただきたい。

 ──と、なんか今回はイヤに真面目じゃない?と思われるかもしれないが、いや、そりゃ真面目にもなるって! だって実話だもの。ご本人の軌跡があって、彼を大切に思っていたご家族や仲間がいるのに、フザけた原稿を書く気になれるはずがなかろう。いくらコラムの趣旨が「晶哉くんカッケェ~~!」だとしても、作品については襟を正してきちんと伝えたいのだ。晶哉くんについては後半で書くので待ってて。

 さて、書籍と映像の違いはいろいろあるが、書籍が遺族からの聞き取りをもとに事実で構成されているとするなら、映像は(おそらくは大義さんの軌跡を明確に伝えるために)脚色が施されている。具体的には、映画で書籍(事実)通りの名前が使われているのは大義さんとご家族、そして恩師の高橋先生と葬儀社の木村さんだけ。あとの映画の登場人物は、書籍に該当する人物がいたとしても名前を変えているか、あるいはそもそも書籍には登場しない。

 名前については個人情報ということもあるだろうが、大義さんがどのような高校生活を送っていたかをよりクリアにするため、現実のさまざまなエピソードやご友人からエッセンスを抽出して再構成したのが映画なのだと思われる。それは書籍と映画の構成の違いにも表れていた。


イラスト・タテノカズヒロ

■「大義さんの物語」を描いた映画と、「大義さんが遺したもの」を描いた書籍

 映画は、大義さんの高校入学から時系列で描かれる。吹奏楽部に入ったのによさこいソーラン節を踊らされることに戸惑ったり、ミスをしたメンバーとそれを注意した部長の間に感情的な対立が生まれ部内の雰囲気が悪くなったり、団体行動に馴染めないメンバーが自殺を思わせるような行動をとったり、レギュラーに漏れた野球部の友人を励ましたり。学校の屋上で大声で叫んで、走って、佐藤浩市さん演じる顧問の教師が「昭和の青春かよ」とツッコむ場面があるが、その言葉通りのザ・青春が描かれる。

 これらのエピソードの中には、書籍にあるものもあれば、ない話もある。書籍に描かれた大義さんはムードメーカーで、周囲がピリピリしていても和ませてしまうタイプだったようだが、映画の彼はトラブルの渦中で人一倍感情を出して、「青春を満喫」していた。

 だからこそ発病してからの葛藤や恐怖、焦りといったものが切実に伝わってくる。映画は「大義さんがどう生きたか」の物語なのだ。

 翻って書籍は、まず構成からして異なる。お母様の新聞の投書がまず掲載され、「告別式5日前」から話が始まるのだ。火葬場の都合で亡くなってから告別式まで5日間という時間があった。その間、お母様が考えたこと、顧問の高橋先生がOBやOGに告別式での演奏を呼びかけたこと、多くのメンバーがそれに呼応して集まったこと、その人数が日に日に増えていったこと、大義さんの恋人や同級生たちが物言わぬ大義さんに会いにきたことなどが綴られる。そしてそれらの間に、生前の大義さんを振り返って彼の高校時代や闘病の様子が描かれるのである。

 そこには、大義さんが逝ってしまったあとで初めてお母様が知った、大義さんの意外なエピソードもある。住宅地にある告別式場で100人規模のブラスバンドという前代未聞のイベントをなんとか実現させたいという葬儀社の人の思いも、映画より細やかに描かれている。映画で同窓生たちが録画した合唱は、実際には告別式場で歌われたものだったこと、「市船soul」は出棺のときに演奏されたことなども綴られている。

 書籍から伝わってくるのは、大義さんの軌跡はもちろんだが、彼が周囲の人々に遺したものの大きさだ。そしてそれは、彼の体はなくなっても、彼が遺したものは間違いなく、周囲の人々の中に息づいていることを確信させてくれたのだ。

 なので、映画と書籍の両方を観る/読むことで、大義さんと彼を愛した人の物語は初めて完結するのだと思う。特に映画だけ見て本はまだという人は、ぜひ読んでいただきたい。文庫版には高橋先生の解説も収録されている。

■音大卒ジャニーズの面目躍如、晶哉くんのピアノとパーカッションに酔え!

 ということで、ここからは気分を変えて。いやあ、晶哉くんのピアノ! ピアノ! 目と耳の正月とはこのことか!

 晶哉くんが演じたのは大義(ここは役名ということで敬称なしで)の親友で、吹奏楽部でパーカッションを担当する佐伯斗真。音楽センスに恵まれ、交響曲を聞いただけで五線譜に起こせるという才能を持つ。しかもモテるらしい。大義が作曲した曲をピアノで弾いたり、メンバーの合唱のピアノ伴奏をする場面もある。吹奏楽部でのパーカッションを含め、吹き替えなしだ。さすが音大卒!

 その才能の一方で、団体行動に馴染めず、団結力の強い吹奏楽部の中で居場所が見つけられない。それで思い悩んで校舎の縁に座り込んだことから、すわ自殺かと消防隊が出動する騒ぎになる場面が、晶哉くんの見せ場だ。

 ──だが、その場面は書籍にはない。というか、書籍には佐伯斗真という人物は登場しない。前述したように映画は実在の人物を再構成しているので、かなりエピソードは変わっているのだ。けれどヒントはあるぞ! 父親が音楽家で、ピアノが得意で、いつも五線譜を持ち歩き、先生から頼まれて編曲を手がけるほどの友人が書籍に登場する。「ヒロアキ」さんというその同級生は、大義さんが「市船soul」を作ったとき、クラリネットの音域に合ってないと指摘してその場でパート譜を修正したという。大義さんが出かけるときには車を出し、入院してからも病室に足を運んでいた。この人だ、この人が斗真だ!

 ということで晶哉担の皆さんは、書籍でヒロアキさんが出てきたら晶哉くんを思い浮かべるといいよ! ヒロアキさんはクールで、スマートで、合唱曲やピアノ曲の作曲もやって、それを校内コンサートで使ったりもしていたという。Aぇ!groupの歌を作曲してる晶哉くんにピッタリだから。

 ちなみにヒロアキさん、応援歌の作曲を先生から促されるも「失恋した」という理由でやる気が出せなかったりする。可愛い。代わりに手を挙げたのが大義さんで、その結果生まれたのが「市船soul」なのだ。ヒロアキさんが失恋してなければ「市船soul」はなかったのか! うーん、そのくだりも晶哉くんで見たかった気が……。

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