大西流星出演「この子は邪悪」アイドル活動と映画のキャラにギャップありすぎ! まったく新しいりゅちぇを楽しむ
シュンとなってキュンとなる皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は新たにAmazon Primeに入ったりゅちぇこと大西流星くん単独出演のこの映画だ!
■大西流星(なにわ男子)・出演!「この子は邪悪」(ハピネットファントム・スタジオ・2022)
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- この子は邪悪
- 価格:693円(税込)
映画が公開されたのは2022年9月。去年の夏は小説原作のジャニーズ出演映画が相次いでこのコラムの更新ペースが追いつけず、本作を紹介し損ねたのだった。アマプラに入ってくれたこのタイミングで取り上げることができてよかった!
映画はまず、ふたつの筋が並行して語られる。ひとつは四井純(大西流星)のパート。心神喪失のような状態で呼びかけにも応じない母親と、祖母の三人暮らしだ。母親と同じ症状の人は他にもいて、その様子が挿入される。純は母親に関して何かを調べているらしい。
もうひとつは心理療法室を営む窪司朗(玉木宏)の長女、花(南沙良)のパート。5年前に一家で交通事故に遭い、父は片足に障害が残り、妹の月は顔に火傷を負い仮面をつけての生活を余儀なくされ、母親は植物状態のまま目覚めないという状況にある。
このふたりが出会い、少しずつ心を通わせていくのだが、そんなときに奇跡が起きた。植物状態だった花の母が目を覚まして帰ってきたのだ。だが、帰ってきた母に花はいわく言い難い違和感を覚える。一方純は、5年前の事故で月が死亡したという当時の記事を見つけたことと、母親がまだ目覚める前の時期に彼女を見かけたことを花に告げる。花の中で次第に疑惑が膨らんでいき……。
いやあ、面白い設定だなあ。ニュースや戸籍では死んだはずの妹が生きていて、でもその顔は事故以来ずっと仮面に覆われている。植物状態の母親が蘇り、けれどどうも前の母とは違う人のように思える。父は何かを隠してるっぽい。って、これはもうアレじゃね? といくつかミステリのパターンを予想しつつも、映像から受ける印象はオカルティックなホラーなので、どっちの方向に転ぶのか見えずにワクワクしたぞ。
なお、本筋には全然関係ないけど月ちゃんの仮面、ふだんはスケキヨっぽいやつなのに誕生日パーティのときだけスケキヨ仮面に花の飾りがついてるの可愛かった(笑)。
イラスト・タテノカズヒロ
■映画のノベライズ……なのに印象が違う理由
この映画には原作小説は存在しないが、ノベライズが出版されている。片岡翔・脚本、南々井梢・文『この子は邪悪』(徳間文庫)だ。ノベライズとは映画を小説仕立てにしたものなので、基本的に映画と大きな違いはないはずなのだが、このノベライズには映画とは違う試みがあった。
まずノベライズには、映画にはないプロローグが加えられていること。どんなプロローグかはここには書かないでおくが、これがけっこうネタバレのキモにかかわってくる描写なんだよね。もちろんそれ単体ではどんな意味があるかはわからないのだが、読み進めるうちに、あのプロローグはこういうことかと見当がつくようになっている。
そして、クライマックスに大きな違いが! 映画で結構衝撃的だった箇所がノベライズではカットされているのだ。ノベライズのベースは脚本であることが多く、撮影後にカットされたシーンがノベライズには残ってるということは多々あるのだが逆は珍しい。
そういった構成上の違いよりもっと特徴的なのが、ノベライズは主に花と純の視点が交互に登場すること。そしてそこで描かれるのは、彼らの心の中ということだ。心象風景がモノローグで綴られる。さらに「真相」の説明もある人物の日記という体裁なので、これまた主観的な描写のみで綴られる。いずれも不安や恐怖や狂気は伝わるが、客観描写が少なく読者に何かを系統だてて伝えるという書き方ではないため、読者は全体を俯瞰できない。ただ彼らの感情に添うしかできないという手法がとられているのだ。
だから先にノベライズを読んで後で映画を見ると、「ああ、純はこんな家に住んでいたのか!」とか「診療室の庭ってこんな感じなのか!」とか「純や花の見た目ってこんなふうなのか」いうのを初めて知った気持ちになる。ラピュタは本当にあったんだ、みたいな。
逆に映画が先で、あとでノベライズを読むと「そのとき僕(私)はこんなふうに感じていた」というのを知ることができる。なのでこのノベライズは、映画の小説化というよりもサブテキストとして読むといいんじゃないかな。
■なにわ男子デビュー直前、関西ジャニーズJr.時代のりゅちぇを堪能せよ
この映画の公開は昨年9月だけど、撮影がクランクアップしたのが2021年7月26日……というとなにふぁむの皆さんにはピンとくるよね? そう、なにわ男子デビュー発表の2日前だったのだ。だからこれはりゅちぇが関西ジャニーズjr.として参加した最後の映像作品、ということになる。これから多くの作品に出るであろうりゅちぇだけど、そういう意味ではこれは記念碑的作品と言えるんじゃないかな。
この映画ではりゅちぇ演じる純がまず、何かを調べているところから始まる。母親と同じ症状の人の写真を撮ったり、なぜか窪司朗を付け回したり。花ちゃんとのひとときはとてもピュアでリリカルな感じ(ここはむしろ映画よりノベライズの方が心の交流が深く描かれる)だけど、その背後でこの子何か企んでるぞ、というのがわかる作りになっているのだ。
これまでりゅちぇの映像作品といえば、パンダの着ぐるみも印象的な「夢中さ、きみに。」(2021年、MBS)やツンデレ毒舌の「鹿楓堂よついろ日和」(2022年、テレビ朝日」など、見てるだけで可愛いが渋滞を起こすような作品が多いが、この「この子は邪悪」は一味違った。過去に謎を、心に鬱屈を抱えた少年が、母のために謎解きに乗り出す。その結果……という幻想的にして怖い話で、まったく新しいりゅちぇを観ることができた。
インタビューによれば、ライブのリハーサルと撮影が並行して行われていたため、アイドルとしての「キラキラ、隠すように頑張りました(笑)」とのこと。アイドルのりゅちぇと映画の純にギャップがありすぎて「帰りの車の中で『あ、自分ってどっちやっけ?』みたいに分からなくなることすら」あったという。初々しい……多くのジャニーズアイドルが役者として研鑽を積むうちに「オーラの出し入れも目力のオンオフも自由自在」になっていく、あの過程をこれから見れるんだと思うと楽しみで仕方ない。
ところで、映画で純が××になってしまう衝撃的な場面、最初に見たときは怖いんだけど、すべての真相がわかってからもう一度見ると、ちょっと可愛く感じてしまうのは私だけ? だって、あれだよ? あれをりゅちぇがやってるんだよ? そんなもん絶対可愛いじゃないか、なあ?
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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