大矢博子の推し活読書クラブ
2017/11/29

丸山隆平主演「泥棒役者」は“フリに全部のっかる”丸ちゃんのハマり役[ジャニ読みブックガイド第14回]

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 垂直ジャンプ0.5秒、20センチの皆さん、こんにちは。ジャケ写を見たとき、思わずネットでモールス信号を調べたのは私だけではないはずだ。ということでもちろん今回はこの映画!

■丸山隆平(関ジャニ∞)主演!「泥棒役者」

 昔、泥棒に手を染めて少年院に入っていた大貫はじめ。今は更生して真面目に働いているが、昔の仲間に脅迫されてしぶしぶ盗みの手助けをすることに。忍び込んだ先は絵本作家・前園俊太郎の豪邸。
 ところが物色中にいきなりセールスマンがやって来た。「ご主人様ですか」の問いに思わず「そうです」と答えてしまうはじめ。なんとかセールスマンを追い返したと思ったら、今度は、突然奥の部屋から前園本人が現れ、はじめを編集者と勘違いする。次に訪れた本物の編集者は、はじめを前園だと思い込んだ。さらに先ほどのセールスマンも戻ってくる。三者三様の勘違いに乗っかって、こっちでは編集者、あっちでは絵本作家のふりと芝居を続けることになる。状況はすっかりカオス。ところがなぜかそれが上手く噛み合って……。

 11月18日に公開された映画「泥棒役者」(ショウゲート)。もともとは西田征史監督が作・演出を手がけ、「劇団たいしゅう小説家」によって上演された舞台劇である。この度の映画化に際し、小説家・三羽省吾によるノベライズ(芝居やアニメなど他のメディアで既に発表された作品を小説の形で表現し直すこと)が出版された。それが『泥棒役者』(角川文庫)だ。だから映画と小説に違いは殆どないのだが、ノベライズについては後述。

 この映画の魅力は、その場しのぎが巧い具合に積み重なる絶妙な構成と、それをテンポよく表現していく俳優たちのコミカルな演技だ。笑いどころ満載のコメディだが、実は登場人物の皆がそれぞれ心に屈託を抱えているというのがミソ。ほんの半日ほどのドタバタの中で、ひとりひとりが自分の過去と向き合うことになる。

 9割の笑いと1割のシリアス。笑いの部分が大きければ大きいほど、1割がすっと心にしみる。つまり、その落差が感動を倍加させているのだけれど、いやあ、よくここに丸ちゃんをはめ込んだものだと思ったよ。それには三つの理由がある。

イラスト・タテノカズヒロ

■「泥棒役者」の主役が丸ちゃんにピッタリだった三つの理由

 丸ちゃん演じる主人公の大貫はじめは、「ご主人様ですか」「編集者か」「前園先生ですね?」という相手の振りにすべて乗っかっていく。それは自分が泥棒だとばれないうちに逃げたいからなのだけれど、この「断らない感じ」がすごく丸ちゃんぽいのよ。断らない結果、ドツボにはまるというところまで含めて。丸ちゃんと言えばライブでもバラエティでもどんな振りにも乗っかって、それがスベるところまでがお約束。その丸ちゃんがそのままそこにいるようで見ててニコニコしてしまった。これが理由の一つめ。

 二つめは、前述した「落差」だ。丸ちゃんと言えばどうしてもお笑い担当という印象が強い。けれど歌が始まるとエイト随一の甘い声で、ドキッとするような色気を見せる。私が驚いたのは〈十祭〉で「硝子の少年」と「愛・革命」を歌ったときだ。甘さ・かっこよさ・お茶目・クールがころころ変わる。そしてそのあとの、「いっこにこにこ」を聞いているときの表情たるや!
 この「落差」はそのまま、ドタバタコメディを演じるはじめと、自分の過去に向き合うことを恐れるシリアスなはじめに通じる。丸ちゃんがはからずも持っている多面性が、その割合も含めて実にうまく物語に投影されている。

 そして三つめの理由は、「チーム」だ。これまで丸ちゃんは「ストロベリーナイト」(2010年、フジテレビ)「フリーター、家を買う」(同)ともに姫川班・大悦土木というチームのムードメーカー的役割で、これは関ジャニでの丸ちゃんの位置に近かった。そして本作でも、最初はバラバラだった登場人物たちが、いつしか一つの目的のためにチームになっていく様がいちばんの見どころなのだ。

「泥棒役者」というチームの中で、丸ちゃん演じるはじめはスベったり焦ったりしながら、ちょっとずつチームの人々を好きになっていく。名俳優さんたちにいじられる中で、はじめの人柄が滲み出る。これが関ジャニに重なったのよ。丸ちゃんが関ジャニ∞というチームに対して抱いている愛情は、eighterさんたちには今さらのことだろうけど、ジャニーズファン以外の方に声を大にして言いたい。丸ちゃんはね、ホントに関ジャニが好きで、そんな丸ちゃんを見るのがファンはとても嬉しいんだよ。

■映画に準じるノベライズだからできること

 ということで、話を最初に戻す。三羽省吾『泥棒役者』はオリジナルの小説ではなく、このお芝居のノベライズだ。だからこれまでこのコラムで書いてきたような「映画は小説のここを変えている」というようなことはなく、ストーリーも構成も場面もセリフも、映画とまったく同じなのだ。

 じゃあ、丁寧に書いた脚本みたいなもの? いやいやいや、そうじゃないから面白い。映画と寸分違わぬ物語でありながら、テキストならではの面白さが加えられているのよ。その秘密は地の文にある。映画では言葉にされない登場人物の思いが、ノベライズには描かれているのだ。これがコミカルな場面はよりコミカルに、シリアスな場面はよりシリアスに、物語を盛り上げている。

 たとえば前園とはじめが初めて出くわした場面。誰だ、ああ編集者か。鍵は? 開けっ放しだったか。インターホンは? そういえば壊れてた。なぜ土足? わかった、帰国子女だな? と市村正親演じる前園の畳み掛けるようなセリフが続く。映画での丸ちゃんは懸命についていくだけだが、ノベライズにはこうある。

「凄い。奇跡だ。ぐうの音も出ない質問を繰り出しながら、すべて質問した側が解決している。ラッキーだ。俺はツイている」

 地の文は映像には現れない心情描写であり、ツッコミでもある。ノベライズは映画をより楽しむための解説本なのだ。本来、三羽省吾は世界やキャラクターを作るのがとても巧い作家さんで、しかも文章が抜群に面白い。ところが今回は自分の色を封じ込めて映画「泥棒役者」を前面に出している。映画の風味を損なわず、映像ではなかなか表しにくい深い部分をちゃんとすくい上げて描写している。これはなかなかできることではない。

 どうか映画の記憶の新しいうちにぜひ本書を読んでほしい。読むたびに、その場面の丸ちゃんが眼前に蘇るはずだ。映画の楽しみは、見終わってもまだ終わりじゃないニャー!

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2017/12/13
第14回アンケートの受付は終了いたしました。

三羽省吾『イレギュラー』(角川文庫)の田舎チームの天才エースピッチャー、コーキを演じて欲しいジャニーズには同率1位で佐藤勝利(Sexy Zone)さん、中島裕翔さん(Hey! Say! JUMP)、岡本圭人さん(Hey! Say! JUMP)、髙木雄也さん(Hey! Say! JUMP)、菊池風磨さん(Sexy Zone)でした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第15回は、池井戸潤・著、半沢直樹シリーズ『ロスジェネの逆襲』で半沢に楯突く「森山雅弘」です。無能なバブル世代に反感を持ち、組織に媚びず、はっきりと物を言う。仕事はできるが生意気なヤツ。あなたなら、誰に演じてほしい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【15】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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