大矢博子の推し活読書クラブ
2023/04/19

井上瑞稀、作間龍斗、高橋優斗主演「DIVE!!」コメディ寄りの演出にびっくりも最後は原作のテーマに回帰 Jr.が演じる意味とは

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 焼き付けたい瞬間は誰にも譲れない皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はHiHi Jetsの3人がトリプル主演したこのドラマだ!

■井上瑞稀、作間龍斗、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)・主演!「DIVE!!」(テレビ東京・2021)

 うわっ、ストーリーは同じなのに原作と雰囲気が全然違う! こういう改変もあるのかあ、と12回分を一気見した。ありがとう配信サービス。

 原作は森絵都の同名小説『DIVE!!』(角川文庫・上下巻)。飛び込み競技に懸ける青春を描いたもので、もともと2000年から2002年にかけて講談社からティーンズ向けに全4巻で刊行された。1~3巻は少年3人がひとり一冊ずつ主人公として描かれ、4巻は3人が集う群像劇としてクライマックスを迎えるという構成だった。

 主人公のひとりめは坂井知季。ミズキダイビングクラブ(MDC)に通う中学生で、飛び込みを友達とわいわい楽しんでいたが、アメリカ帰りのコーチに素質を見出され急速に成長する。ふたりめは沖津飛沫(しぶき)。伝説のダイバーを祖父に持ち、津軽の海で断崖から飛び込んでいる高校生。コーチに勧誘されて上京、MDCに加入する。3人目は同じく高校生の富士谷要一。両親がオリンピック選手というサラブレッドで、MDCでもダントツの実力を持つ。

 この3人がオリンピック(原作では2000年のシドニー五輪)の飛び込み日本代表を目指して鎬(しのぎ)を削るんだけど、ピュア・ワイルド・クールという、まったくタイプの異なる3人の、ある意味「お好みのタイプすべて取り揃えました」的ラインナップにもうどこからでも萌えます。ソースの小袋並みにこちら側のどこからでも萌えます。だけど。

 いやドラマ見て驚いたわ! 原作はめちゃくちゃシリアスなのよ。もちろん楽しい会話やコミカルな場面もあるんだけど、基本的には若者の苦悩と足掻きと、そしてそれらを乗り越えた先にある成長を描いてるわけですよ。それがまさかこんなコメディタッチになるとは。原作には小宮プロ出てこないからね? ただ、それがダメというわけでは決してない。

 この感覚、既視感があるぞ──と考えて思い当たったのが、東野圭吾原作、ニノと(錦戸)亮ちゃんが主演した「流星の絆」(2008年、TBS)だ。あれも原作はシリアスなガチのミステリだったが、クドカン脚本でコメディ要素がグンと増えた。これ原作と全然違わない?と思ってたら一周回って絶妙に原作のクライマックスにつなげたのだった。あれと同じだ。「DIVE!!」も最後は原作の青春の足掻きに見事につなげてみせた。つまり、演出を変えてもテーマは変えていないのである。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作はひとりずつの物語。推しの青春をたっぷり味わえ!

 だからこそ、ひとりひとりを深掘りした原作を読んでほしいんだなあ。3人それぞれが主人公となってその内面にぐっと潜っていくので、読み応えは抜群なのだ。

 ひとりずつ行こう。原作上巻第1部「前宙返り3回半抱え型」は知季の話。飛び込みは好きだけど自分は「普通」だと思っていた。ところが強化選手に抜擢されたことで、友人たちとの間に溝ができる。ガールフレンドからは手痛いしっぺ返しを受ける。そんなことを望んでいたわけじゃないという思いと、もっとうまくなれるというアスリート魂の間で揺れる。大事なものを失って、それが自分の選択だということを咀嚼できない青い魂。

 上巻第2部「スワンダイブ」は飛沫の話。津軽の海に飛び込んでいればそれで充分、狭い室内で、薬臭いプールで、しかも飛び込みを採点されるなんて冗談じゃない。コーチとある「契約」をして上京したが、そんな思いが拭えない飛沫は徹底して他者と距離を置く。飛沫がいちばんドラマと原作で違っていた。ひたすら孤高。しかも喧嘩腰。笑わない。けれどそんな飛沫にある変化が訪れる。そこが読みどころ。

 下巻第3部「SSスペシャル’99」は要一の話。ライバルたちを正々堂々と打ち負かしてオリンピックに行くはずだった。なのに予選もなしに代表が決定。何か裏があるらしいと感じた要一は、ある行動に出る。利得ではなく自分自身に恥じないために。しかし常にトップを走ってきた選手だからこそのプライドが、逆に彼を窮地に追い込んでいった……。

 これね、面白いのはそれぞれの話に別の2人の少年も当然登場するわけですよ。そしたらば、第1部でうじうじ悩んでいた知季が第2部や3部に顔を出したときにはすごく成長してたり、第1部や2部ではミスタ・パーフェクトぶりを発揮していた完全無欠の要一が第3部で初めて人間らしさを出したりという、そんな変化が見えるわけ。この構成がうまいんだなあ。

 そしてひとりひとりにたっぷり感情移入させた上での第4部はオリンピック代表決定戦なわけで、もう誰を応援すればいいのか! 3人の物語を個々に読んできたからこそ、全員に勝たせたいというジレンマに読者は身悶えることになる。そこに用意された奇跡的なエンディングには「この手があったか!」と、思わずブラボーと叫びたくなるほどだ。

■未熟な少年たちをJr.が演じることの意味

 そういうシリアスな場面も、もちろん原作通りに描かれてはいた。けれどドラマを見ての印象は、彼らの(特に飛沫の)めっちゃ楽しそうなわちゃわちゃなんだよね。特に3人と、大東駿介さん演じる小宮プロのかけあいなんて、途中からアドリブで遊んでない?と思うほどだったし、選手たちだけの場面なんてオフショットかな?と感じるくらい和気あいあいだった。

 だからこそ原作とイメージが違う、という印象を持ってしまうわけだが、でもそれは表面的なことだ。この原作は2008年に映画化されており、3人の主人公を林遣都、溝端淳平、池松壮亮が演じた。当時はまだ経験の浅い若手だったが、今では人気と実力を兼ね備えた主役級の俳優の3人だ。

 それと同じなのだ。楽しくわいわいやっているJr.たちが、大勢の中から才能を見出されたり、さほど興味はなかったのにグループに選ばれたり、絶対的エースが人知れず苦悩を抱えていたり。3人だけじゃない。知季に水をあけられて劣等感に苛まれ、飛び込みをやめてしまう陵、目立つ場所にはいけないが自分なりに結果を出そうとするレイジ、兄だけが先に行ってしまう弟のヒロ。みんな、Jr.の中にいそうじゃないか。

 第4部は、そんな周囲の人々の視点も描かれる。彼らが応援席から3人を見つめる様は、一足先にデビューしていく同僚のステージを見つめるJr.の姿でもあるのだ。だから3人は仲間たちの思いを受け止めて飛ぶし、仲間は嫉妬や劣等感を抱くと同時に、彼らを応援せずにはいられないのである。

 第4部の、周囲の人々の視点で語られる章は本当に素晴らしいので、ぜひ読んでいただきたい。ドラマでも登場人物がそれぞれトークを担う演出はされていたが、かなりコミカルな感じだったので、原作で読むとまた違った印象に驚くはず。オリンピックに行けるのはひとりだけでも、そこに挑戦しようとする者、応援する者、あきらめた者──それぞれの思いが集まってのステージなのだということがよくわかる。これは3人だけの物語ではない。それはジャニーズがデビュー組だけのチームではないのと同じなのである。

 さて、今回は敢えて3人を誰が演じたのかは書かなかった。ドラマを見てない担当さんたち、誰が誰だと思う? たとえ違っていてもそのイメージで原作を読むのも面白いかもよ。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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