羽村仁成・ジェシー出演「リボルバー・リリー」カットされたのがもったいない! 650ページの原作でわかること 二人の背景を知ることであのシーンの見方が変わる
この世界中の元気抱きしめる皆さんと、誰もコピれない100パーリアルな皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はふたりのジャニーズが出演したこの映画だ! 勇気もリアルも100%で行くよ~。
■羽村仁成(ジャニーズJr./Go!Go!Kids)、ジェシー(SixTONES)・出演!「リボルバー・リリー」(東映・2023)
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- リボルバー・リリー
- 価格:1,144円(税込)
キャストが発表されたとき何に驚いたって、羽村くんの大抜擢ですよ。原作を先に読んでる人はおわかりの通り、彼が演じた細見慎太という役はめっちゃ重要、というか主演の小曾根百合(綾瀬はるか)に継ぐ副主人公なんだから。いくら14~15歳(原作)の役とはいえデビュー前のJr.がオーディションで選ばれるとは、大抜擢じゃん!
──とひとしきり驚いたあとで我に返ったが、いやいや、驚くことはないのだった。だって羽村くんは確かに「デビュー前のJr.」ではあるけれど子役としてのキャリアは長い。2019年にジャニーズ事務所に入る前に、「貴族探偵」で相葉ちゃんと、「新宿セブン」でKAT-TUNの上田くんと、「家政婦のミタゾノ」でTOKIO松岡くんと、すでに共演済みの役者なのだった。大河の出演経験もある、Jr.の中では飛び抜けて演技歴の長い子なのだからむしろ順当か。
てな話は後半たっぷりするとして、まずは原作から紹介しよう。原作は長浦京の同名小説『リボルバー・リリー』(講談社文庫)。大正12年、関東大震災直後。かつて優秀なスパイとして名を馳せた小曾根百合は、縁あった人の訃報を知って秩父へ出かける。そこで彼女が出会ったのは、陸軍絡みの秘密を父から託された少年、細見慎太だった。
家族を皆殺しにされ、行く当てのない慎太を保護する百合。しかし陸軍は圧倒的な人数と銃火器でふたりを追い、さらにふたりに懸賞金がかけられたことでヤクザも追跡に加わる。慎太が持っている秘密とは何なのか、ふたりが助かる道はあるのか。帝国陸軍を相手に伝説の女性スパイが敢然と立ち向かう──という大正ロマン×アクション×ノワール×ダークヒロイン小説である。
壮絶にしてエキサイティングなアクションシーンもさることながら、本書の魅力のひとつに大正のファッションや生活の描写がある。花街の猥雑さ、日常の中に当たり前に軍人がいる光景。そして足に怪我を負っても草履を履くなどもってのほかとばかりにハイヒールを離さない百合の美意識。これらが映画によってビジュアルで再現されたのには感動した。綾瀬はるかさんのワンピース姿がどれもかっこよかったことといったら! 近所に野村萬斎の洋裁店があったら絶対通い詰めるね。
イラスト・タテノカズヒロ
■文庫650ページを超える原作を139分に濃縮
さて、原作はとにかくめちゃくちゃ長いので、それを映画にするとなれば当然、さまざまな改変がなされている。いろんなエピソードがカットされており、特にヤクザの描写についてはかなりの部分が簡略化されていた。そんな中、ある人物の来歴を大きく変えてきたのには驚いたなあ。原作では別の人物だったのを、ひとりに統合(という言い方も正確ではないのだが、正確に説明するとネタバレになる)したのには思わず唸った。
この「統合」により、百合の過去と現在の行動に一本筋が通った。この手があったか、と思ったね。同時に原作よりメロドラマ具合が増している。原作の百合は徹底してクールで、涙を流す場面は1箇所しかない。けれど映画では原作より感情の振り幅が大きくなっていた。
これは映画のテーマにも関連している。映画では戦争を回避する、平和を希求するというテーマが前面に出ていた。原作はそれを言葉にして声高に叫ぶことはせず、むしろ当時のきな臭さをリアルに描くことで逆説的に「戦前やべえな」という印象を読者に与えていたのだが、映画は明確に戦争を防ぎたいと言葉にしてきた。どっちがいいかは好み次第だけれど、映画の終盤の山本五十六(阿部サダヲ)のセリフはかっこよかったね。
もうひとつ、原作から大きくカットされていたのは登場人物たちの過去だ。たとえば長谷川博己さん演じる弁護士の石見。彼がなぜ海軍をやめたのか、なぜ弁護士として百合の店のために働いているのか、原作ではきちんと説明される。原作は関東大震災直後の混乱の中、ヤクザに拉致された石見を助け出す百合の場面から始まるんだよ。
過去という点では、百合の店にいる奈加(シシド・カフカ)や琴子(古川琴音)の来し方も、原作ではきっちり描かれている。これがなかなかに辛い。大正という時代──江戸時代の人買いがまだ続いていた時代ならではの、女性に課せられた運命の具現者として彼女たちは登場するのだ。映画で奈加や琴子が銃撃にやたら強かったのも、原作を読めば納得するはず。
そしてやはりなんといっても、羽村くん演じた慎太とジェシー演じた津山ですよ! このふたりの来歴も、原作にはたっぷり出てくるのだ。ああ、カットされたのがもったいない。
■映画でカットされた慎太と津山の生い立ちを原作でチェック!
まず、慎太からいこう。原作では生まれつき左足が悪かったこと、母は自分を産んだあと家を追い出されたこと、腹違いの姉と弟がいることなどが綴られる。震災後に東京から秩父に引っ越したものの、余所者として兄弟ともども学校でいじめられる日々。だがそんな兄弟の心を癒やしたのは、近くに住む国松老人と、彼が飼っているニホンオオカミだった。
弟を庇う兄としての慎太や、いじめに立ち向かう勇気、老人との交流などなど、慎太の場面は実に読み応えがある。陸軍に家族が殺されたあと、逃げ出すのも原作では弟と一緒なのだ。弟の手を引いて一心に歩くお兄ちゃん……泣ける……。なのに弟まで亡くしてしまったことが、彼にとって大きなトラウマになる。
映画の慎太は百合に守られる立場だったけど、原作ではけっこうしたたかなところもあって小気味いい。何より逃避行の間に彼はぐんぐん成長するのだ。羽村くんは映画の撮影中に身長が3センチ伸びて衣装のサスペンダーが切れたというが(おそるべし成長期)、原作の慎太も心身両面での成長著しく……ラスト、百合と最後に会う場面で何があったか、ここは必読! きゅんきゅんするよ!
翻ってジェジーである。いやもう悪ジェシー! 部下を盾にして自分は助かる卑怯っぷりもいっそ清々しいほどの悪ジェシーである。最後の一騎打ちの場面での憎々しい表情といったら!
ところが原作を読むと少し印象が変わる。ドイツ人の母と日本人の父を持つ彼は、日本贔屓の母方の祖父に喜んでもらいたくて軍に入り、積極的に前線に立った。彼がどんな作戦やどんな戦いに加わったか、そこで何があったかが原作では綴られる。ドイツ人の血が入っている津山は「敵国人」と差別され、上官からはセクハラ(という表現は優しすぎる)を受けている。津山の入隊を喜んでくれた祖父も両親ももう亡くなり、引き止める者はいないのに、それでも彼は軍を離れられず、やみくもに成果を上げようとする。
ねえちょっと悲し過ぎない? あの悪ジェシーの背景がこんなだったと思うと、あの場面もこの場面もぜんぜん意味が違ってくるじゃん……。彼こそ救われなくちゃならない立場じゃん……。映画の津山の最期は、もしかしたら彼にとって解放だったのかもしれないとすら思えた。
これらふたりの生い立ちを踏まえ、そして映画ではカットされたふたりの対決場面(一度じゃないのよ)を読めば、また違った感想を抱けるはず。カットされた部分にこそジャニ読みの真髄あり、な作品なのだ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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