大矢博子の推し活読書クラブ
2017/12/13

「陸王」出演の風間俊介 歌い踊るだけがジャニーズではないことを熱演で証明[ジャニ読みブックガイド第15回]

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 幾つもの波に打ち砕かれ、それでも歩き続けてた皆さん、こんにちは。かざぽん回ということで、今回は冒頭の挨拶もあの伝説のグループの名曲から持ってきましたよ。また4人で歌うところ見たいなあ、FOUR TOPS。カウコンとかでやってくれないかしら。

■風間俊介出演!「陸王」

 今年10月から放送が始まった連続ドラマ「陸王」(TBS)、すでに8回の放送を終え、最終回に向けていよいよ大詰めを迎えている。原作小説はヒットメーカー池井戸潤による同名小説『陸王』(集英社)だ。

 埼玉県行田市で100年の暖簾を守る老舗の足袋メーカー〈こはぜ屋〉。だが年々需要は減り、経営はジリ貧。そこで社長の宮沢は新規事業を立ち上げる。足袋のノウハウを使ったランニングシューズ〈陸王〉の製作だ。
 大手がしのぎを削る分野に、従業員20名の零細企業が殴り込みをかける。だが資金繰りも素材探しも売り込みも、失敗に次ぐ失敗。大手メーカーの妨害にも悩まされる。果たして〈陸王〉の運命は……。

 というのが原作・ドラマの両方に共通する基本設定。ドラマは原作のエピソードの順序を入れ替えたりオリジナルの場面を挿入したりはしているが、それらは〈変更〉ではなく〈補強〉であり、基本的には原作に忠実だ(──と思ってたんだけど、10日放送の第8回でちょっとアレンジ加えてきたぞ、どうなるんだろ)。

 原作を変えずに連ドラ化できるのには理由がある。もともと『陸王』は雑誌「小説すばる」(集英社)に連載されていた。連載の場合、間隔が開くぶん読者を離さないために、一回の中にさまざまな見せ場と次号への強い引きが必要になる。それは連ドラにも必須要素なので、そのまま使えるという次第。そしてそんな連載が一冊にまとまると、一章の中でピンチとチャンスが何度も畳み掛けるようにやってくるので、読んでいてとても興奮できるのだ。

イラスト・タテノカズヒロ

■物語以外のところに仕掛けられた、ドラマでの大きな改変

 原作を〈補強〉したオリジナルエピソードは、いきなりドラマ初回に訪れた。われらがかざぽんこと風間俊介が演じる銀行員・坂本太郎が、こはぜ屋に肩入れし過ぎて上司に疎まれ、転勤させられるくだりだ。
 この場面、ドラマでは初回のクライマックスだった。〈陸王〉を手伝えない無念をにじませ、誰もいない夜の銀行の中で、絞り出すように宮沢へエールを送る坂本。坂本を軽んじる上司の態度に、「坂本さんは同志だ。その同志をバカにしないでいただきたい!」と涙ながらに声を荒らげる宮沢。いやあ、泣いたわー。

 ところが実はここに、原作と大きな違いがある。確かにドラマは物語としては原作に忠実なのだが、実は物語以外のところに大きな変更があるのだ。感情表現である。原作の登場人物は、それほど泣かない、のだ。

 坂本が事実上の左遷である転勤を食らうのは原作通りだし、それを宮沢に告げるのも、直接会うか電話かという違いこそあれ、同じだ。引き継ぎのため、上司の大橋と一緒に挨拶に来るのも同じ。だが原作はとても淡々としている。坂本が泣くことはなく、引き継ぎの上司も、冷たそうな人ではあるけれど淡々と挨拶を終え、ドラマのような言い合いにはならない。原作では特に感動的な場面として描かれてはいないのである。

 小説『陸王』の最大の面白さは感情描写より、追い詰められてからの逆転劇だ。追い詰めたものの中にこそ逆転のヒントがある、というのが池井戸潤の得意技。たとえば坂本が繭を使った靴底素材の発見に一役買うという展開は、養蚕業が盛んな前橋に転勤したからこそ成立する。ドラマでは転勤前に偶然見つけたという設定で前橋は関係なくなっていたが、こういう細部に意味を持たせる構成は池井戸小説の特徴なのだ。感情はあとからついてくるのである。

 読者が池井戸作品に感動するのは、諦めないプロ魂と、プロならではの、情ではなく理にかなった鮮やかな打開策を味わえるからだ。それが逆に読者の情を揺さぶる。原作を読めばそれがよくわかる。登場人物の感情は文字として書かれていないのに、なぜか彼らの涙や笑顔が浮かび、いつしか自分も同じ表情をしてしまう。それが小説の力だ。ドラマはそれを可視化してくれるけれど、書かれないものが浮かび上がる快感はぜひ小説で味わってほしい。

■伝説のグループFOUR TOPSで『陸王』をジャニ読みする

 風間俊介は、ジャニーズでは異色の存在だ。歌わず、踊らず、役者一本。生田斗真と並んで、ジャニーズ役者部門を牽引している。「陸王」でもその演技力は遺憾無く発揮された。たとえば前述の、原作にはない初回の転勤の感動的場面。かざぽんの追い詰められた豆柴のような目と涙声を振り絞る様子に、母親を刺した後の兼末健次郎(「3年B組金八先生」第5シリーズ)を思い出したのは私だけじゃないはずだ。

 そんなかざぽんがJr.時代に所属したユニット、FOUR TOPSをご存知だろうか? 風間俊介、生田斗真、山下智久、長谷川純。くらくらくるような豪華なメンツの、伝説のグループである。だが実は最初からデビューは想定されていなかったことを、今年4月の「TOKIOカケル」(フジテレビ)でかざぽんが明かしてくれた。それぞれピンで頑張れる4人だからFOUR TOPSと社長が名付けた、と。膝を打ったね。だって実際、4人とも立派にピンで活躍してるんだもの。

 いきなりFOUR TOPSの話を出したのには理由がある。『陸王』には坂本以外にも、社員ではなく外部からこはぜ屋を支える協力者が登場する。靴底の素材の特許を持つ曲者の技術屋、飯山。論理的なランニング・インストラクター、有村。情熱的なシュー・フィッター、村野。こはぜ屋(グループ)に属さず、自分の得意分野で結果を出したプロフェッショナルたちだ。そして個人での活動が、こはぜ屋とそこで働く人々に還元される。グループには属さないけれど、チームであり、同志。これって、まるで元FOUR TOPSの4人と他のジャニーズの関係みたいでしょう?

 こはぜ屋をサポートするこの4人のプロを、もしFour Topsで演じるなら。ドラマのイメージや小説の設定年齢はしばし忘れ、考えてみてほしい。飯山だけは年代が大きく違うから想像しにくいかもしれないけど、だったらその助手の青年、大地でもいい。山P、ハセジュン、トーマ、かざぽん。誰がどれかはお好みで、原作をジャニ読みしてみて。
 グループに属して歌って踊るアイドルだけがジャニーズではないことを知っているファンなら、社員だけではない『陸王』のチームプレイの崇高さが、より深く胸にしみるはずだ。

————
2017/12/27
第15回アンケートの受付は終了いたしました。

池井戸潤・著、半沢直樹シリーズ『ロスジェネの逆襲』で半沢に楯突く「森山雅弘」を演じて欲しいジャニーズには1位に山下智久さん、2位に二宮和也(嵐)さん、3位に加藤シゲアキさん(NEWS)でした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第16回は、2時間ドラマでお馴染みの西村京太郎「十津川警部シリーズ」の十津川警部です。40歳、冷静沈着だけど実は熱血漢。学生時代はヨット部所属、ダイビングも得意。出世に興味はなく、犬と猫を飼っている。あなたなら、誰に演じてほしい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【16】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

連載記事