大矢博子の推し活読書クラブ
2018/02/21

「バディ」の良さを誰よりも知るジャニーズ 堂本光一が挑んだテレ朝版「陰陽師」

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 子供みたいにあまえる顔も急に男らしくなる顔もすべてが宝物の皆さん、こんにちは。2月ですがバレンタインなんていらないくらい、日々が愛のかたまりのことと思います。前回、稲垣吾郎版「陰陽師」を扱った時から、次はこれに決めてましたよ。

■堂本光一・出演!「陰陽師」

 2015年、テレビ朝日系で放送された「陰陽師」は、主役の安倍晴明を市川染五郎(現・松本幸四郎)さんが、謎の白拍子・青音を山本美月さんが演じた単発の2時間ドラマ。光一の役どころは、晴明の親友にして雅楽の才能を持つ貴族、源博雅だ。まずドラマの粗筋から紹介しておこう。

 平安時代、焼失した内裏の再建を祝う宴で舞う白拍子・青音に、源博雅が恋をする。だが彼女を見初めた者は他にも多くいた。そんな男たちに青音は「船岡山に行く途中の首塚に手向けられた石をいちばん最初にとってきた人の申し出を受ける」と告げる。ところが首塚に向かった男たちが次々と変死。藤原兼家は死こそ免れたが、胸から下が消えて頭部と腕だけの姿になってしまい、安倍晴明に助けを乞う……。

 青音の正体は何なのかというミステリ的興味と、どうやらヤバい相手に惚れてしまったらしい純朴青年・博雅の運命やいかに、という二つの筋で視聴者を引っ張っていく構造。元ネタになったのは夢枕獏『陰陽師 龍笛ノ巻』(文春文庫)に収められている短編「首」だ。そちらはこんな話。

 藤原為成が藤原長実の娘・青音のもとに通っていると、ある日、そこで橘景清と鉢合わせしてしまう。どちらか選べと詰め寄られた青音は、船岡山に行く途中にある首塚に置いてある石を持ち帰ってほしい、と言う。ところが最初に塚に向かった景清は何者かに惨殺され、その死体が掴んでいた石を持ち帰った為成のもとには毎夜、首だけの化け物がいくつも現れるようになった……。

 小説の方はその首の正体を安倍晴明が見抜き、魂を鎮めて終わるが、ドラマは別の展開と真相を用意し、後半は完全オリジナルになっていた。だが各所に原作リスペクトが見られる。たとえば、首だけになるのは原作では怨霊、ドラマでは被害者側の公家と正反対の改変をしているのに、同じセリフを言わせてそれを成立させてるんだからすごい。そう来たか、とニヤリとしたね。


イラスト・タテノカズヒロ

■光一だからこそできる〈バディ役〉

 光一が演じた源博雅は、過去に杉本哲太さんや伊藤英明さんが演じてきた。原作の博雅は無骨で一本気でロマンチスト。抜けたところも多々あって、晴明にしょっちゅうからかわれている気のいい男。だから杉本哲太さんや伊藤英明さんというのは、とても似合っていた。

 そこに光一? いやいや、無骨な一本気男にしては、ちょっとキレイ過ぎない? というのが配役を聞いたときの印象だった。だって光一って王子様じゃん(断言)。むしろ安倍晴明役の方が似合ってるんじゃ?

 ところが「いいかも」と思ったのは、「陰陽師」の半年前、「天才探偵ミタライ」に出た光一を見たときだった。島田荘司原作「傘を折る女」(講談社文庫『UFO大通り』所収)のドラマ化で、天才探偵・御手洗潔のワトソン役、石岡和己を光一が演じたのだ。
 このドラマで光一は、トナカイの着ぐるみや割烹着などコスプレ祭り(萌え死んだわ!)を展開。原作の石岡くんはけっこう屈折キャラなんだけど、ドラマでは気難しい御手洗が何をやっても丸ごと受け止め、そして相手の推進力になるバディだった。これはそのまま安倍晴明&源博雅の関係と同じなのだ。そして──KinKi Kidsも同じなんじゃないか?

 KinKi Kidsはジャニーズの中でもちょっと異色。光一はドS王子で毒舌だし、剛はキラキラが苦手の人見知り。互いのことに興味がなくて連絡先も知らないなんて言ったりもする。けれど淡々としているようでいて、相方に何かあったら全力でフォローする姿を、昨年私たちは目の当たりにした。バディというものの本当の意味と強さを、誰よりも知っているのがKinKiのふたりじゃないか。ファンから熟年夫婦と称されるほどに。

 そんな光一が、安倍晴明から「良い漢(おとこ)だな」と言われ、「博雅という呪(しゅ)がなければ安倍晴明という呪もない」と言われるほどのバディである博雅を演じるのは、似合わないどころか、むしろ最高の適役と言っていい。しかもイメージの齟齬をこのドラマはとある工夫で見事にクリアし、〈王子様の光一〉と〈原作の源博雅〉を見事に両立させてみせたから驚いた。

■光一版・源博雅を知るための3編と1曲

 このドラマとNHK版・映画版との最大の違いは、源博雅の使い方にある。テレ朝版での博雅にコメディ色は薄く、笛の名手というところがクローズアップされている。彼が吹く笛の音に惹かれて青音が登場したり、クライマックスのここぞというところで博雅の笛が大活躍したり。彼の笛で怨霊が鎮まり、浄化されるのだ。

 これは完全にドラマオリジナル──と思いきや、実はそうじゃない。源博雅(実在した人物ですよ)は醍醐天皇の孫という血筋で、笛だけでなく雅楽の腕が素晴らしかったことが多くの史料に残っている。彼の笛にまつわる不思議な話は今昔物語にも書かれているほど。つまりこのドラマは、「晴明を引っ張り出す」という役割だけになりがちな源博雅の、本来の魅力と能力を存分に発揮させているのである。

 原作小説の中にも、源博雅をメインに書かれた短編がある。『陰陽師 飛天ノ巻』所収の「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」だ。博雅の出自や彼が持っている笛の来歴が語られるとともに、夢枕獏は彼をこう評している。

「どんなに哀しい時でも、この男は、のびやかに、真っ直ぐに、正面から哀しんだことであろう。/誰の心にも時として宿る、悪意という負の感情を、この源博雅という男は、自分の内部に見ることのなかった稀有な人間であったろう」
「博雅という漢は可愛い。/男が有する色気の中に、この博雅のような可愛気というものが入ってよいのではないか」

 つまりどこまでもピュアで、色気と言っていいほどに可愛いのが源博雅なのだ。『陰陽師 付喪神ノ巻』所収の「鉄輪」(稲垣版「陰陽師」第4話ね)や、それを長編化した『生成り姫』を読めばわかる。愛した女性をとことん慈しみ、その女性が鬼となってしまっても俺を食えと言ってやれる、自分が傷だらけになっても、相手のために泣くことができる──そんな男として博雅は描かれている。これらの小説を読んで、あらためてドラマを見ると、光一版の博雅が原作通りだということに納得がいくはず。

 ところで、気づいた? 博雅から見たこのドラマのストーリーって……knifeを隠して誘惑したり、傷だらけになって走り続けたり、ひび割れた心に魔法のCologneだったり、夢を消さないでと願ったり……「やめないで,PURE」の歌詞そのままなんだよ。

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2017/03/07
第20回アンケートの受付は終了いたしました。

 平安ミステリコミックの灰原薬『応天の門』。菅原道真のバディである左近衛権少将のイケメンモテモテ中年・在原業平を演じ欲しい俳優には1位に堂本光一(KinKi Kids)さん、2位に稲垣吾郎さん、3位に松岡昌宏(TOKIO)さんでした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第21回は、日本の法廷ミステリの最高峰、大岡昇平の『事件』。被告の自動車工場の工員・上田宏は勤勉で温厚な工員なのに、恋人の姉を殺してしまった? 法廷でも動揺が隠せない、上田を演じるなら……。あなたは誰に演じて欲しい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【21】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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