大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2018/03/07

滝沢秀明主演「家族の旅路」にみる原作改変の成功ポイント

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 女と男のLOVEと書いてこれを革命と読む皆さん、こんにちは。そろそろファンも「滝沢歌舞伎2018」に向けてアップを始めた頃でしょうか。今年は4年ぶりに長谷川純くんが出演、そして名古屋での初上演も予定されてますね。まるでその先駆けのように、名古屋のテレビ局が制作しはせじゅんとも共演しているドラマが、これだ!

■滝沢秀明・主演、長谷川純・出演!「家族の旅路」

「家族の旅路」(東海テレビ制作・フジテレビ系列)の原作は、小杉健治『父と子の旅路』(双葉文庫)。実はこのタイトルの変更にもちゃんと意味があるのだけれど、まずはドラマの設定から見てみよう。

 弁護士・浅利祐介は、30年前に起きた一家惨殺事件の犯人として収監されている死刑囚・柳瀬光三の再審請求を依頼される。だが祐介にとってこの依頼は青天の霹靂だった。なぜなら祐介は、柳瀬に両親と祖父を殺された遺族だったのだから。自分の家族を殺した男が、実は冤罪かもしれないと聞き、遺族としての情と弁護士としての正義の間で揺れ動く祐介。しかし隠された事実はそれだけではなかった……。

 ドラマでは依頼者の河村礼菜がいきなり祐介のもとを訪れるが、小説では、まず礼菜の視点でそこに至る状況が説明され、続いて死刑囚・光三の視点で過去の回想が挟まれた上で、礼菜が祐介のもとへ赴くという手順。祐介が登場するのは第3章も半ばになってからで、その後も視点が行き来する。3人ともが主人公だと言っていい。

 だがそういう構成上の変更はあるものの、物語の流れは極めて原作に忠実だ。違いといえば、柳瀬の故郷が山口から甲府になっていたり、拘置所でのエピソードが割愛されていたり(これ原作ではとても良い場面なのでカットされたのもったいない!)、礼菜や弁護士事務所の所長のキャラクターが少し違っていたりという程度。うん、原作通りだな──と、思っていた。第4話までは。

 あ、いや、第4話で原作にない展開があったというわけではないのだ。原作通りであることに間違いはない。ないのだけれど、原作通りなんだけど、変わっている。こういう「改変」がありなのか!


イラスト・タテノカズヒロ

■たったひとつの、小さくて大きな改変

 この小説には、解かれるべき謎が二つある。ひとつは行方がわからなくなっているとある人物がどこにいるのか、という謎。もうひとつは、柳瀬が無実なら真犯人は誰なのかという謎だ。原作では前者が物語の半ば過ぎに判明し、それを踏まえて後者が終盤に解き明かされるという構成になっている。

 ところが。原作では最後にわかるはずの真相(の一部)に第4話で到達してしまったから驚いた。え、そっちが先なの?と。そして畳み掛けるように、第5話で行方不明者の現在が判明。順序が逆なのだ。事件としての全体の構図は変わらない。だがこの順序を入れ替えることで、弁護士の矜持と〈父と子〉を描いた原作小説が、ドロドロの家族ドラマになりつつある。ただエピソードの順番を変えただけなのに、話のテーマが変わってしまうなんて!

 なので、これは是非、原作と読み比べてみていただきたい。言われてみれば確かにこの物語は、ドロドロの家族の話になり得る要素を多分に含んでいる。しかし著者はそこに筆を割かない。ドロドロを排除し、あくまで理と情の間で揺れ動く人間心理の描写に徹している。時として易しすぎるヒントを読者に与えることで、読者は登場人物の心の底の底を想像せずにはいられなくなる。そして最後のサプライズ。原作者の小杉健治氏は大べテランで、日本における法廷ミステリの第一人者だ。さすが手練れの作と言う他はない。

 だが手練れといえば東海テレビも、ことドロドロのドラマについてはまさにお手の物。今や伝説ともいえる昼ドラ「愛の嵐」「華の嵐」「真珠夫人」「牡丹と薔薇」など(古い話でごめんね)、ドロドロさせたら右に出るものはいないってくらいドロドロのドラマを作り続けてきた局なのだから。そしてこの「家族の旅路」が放送されている「オトナの土ドラ」枠は、実質、昼ドラの後継枠なのだ。そりゃドロドロさせるわ! そのうち、いしのようこがたわしコロッケを出しても驚かないね(いや、驚く)。

 おっと、先走った。実際はまだエピソードの順序を変えただけで、ドロドロは萌芽がちらっと見える程度。ここから小杉健治が得意とする「理と人情のリーガルミステリー」に徹するのか、東海テレビのお家芸である「ドロドロ愛憎劇」に転じるのか、終盤の展開にワクワクしている。

■苦悩するタッキー、癒しのはせじゅん

 タッキーはこのドラマで、冤罪事件という99.9%有罪をひっくり返す(あれ?)若き弁護士役に挑戦している。こういったリアルな社会派ドラマはキャラに頼れない分、演技のごまかしが利かない。特に今回は感情の振れ幅が大きい役で、思いを爆発させる場面あり、じっと静かに涙を流す場面あり。実力派のベテラン俳優陣と一対一で対峙する場面も多く、俳優・滝沢秀明の力がこれでもかとばかりに発揮されている。いやあ、引き込まれるぞ! タッキーの芝居を真正面からじっくり堪能できる作品なのだ。

 タッキーは笑顔もいいんだけど、こういった重くて苦悩する役は実はとても似合う。悩みや苦しみを湛えた表情がすごくキレイなんだよね。この手の役で思い出すのが「魔女の条件」(TBS)だ。もしドラマが予想通りドロドロ方向に行くのだとしたらなおのこと。松嶋菜々子演じる教師と、タッキー演じる高校生の禁断の恋ですよ。もう一回見たいなあ。美少年(いやもう大人だけど)には苦悩が似合うのだ。

 そんな苦悩しっぱなしのドラマの中で、ほっとするのがはせじゅん演じる桜井医師(はせじゅんの白衣!)。原作にはないオリジナルキャラで、残念ながら決して出番は多くない。礼菜の母の主治医なので、病院の場面で一言二言ある程度だ。でも丁寧で穏やかな物言いは、怒鳴ったり叫んだり泣いたりばかりのこのドラマで、ふっと息がつける貴重な一瞬。しかも第5話では短いながらタッキーとはせじゅんの会話もあったし! このドラマを見て「滝沢歌舞伎2018」に行けば、舞台がいっそう楽しめるかも。

 なお、原作『父と子の旅路』は過去にも1度ドラマ化されている。単発の2時間もので、そのときの祐介役は中村俊介さんだった。他にも小杉作品の映像化はとても多いのだけれど、ジャニヲタとして押さえておきたいのは2015年の「決断」(テレビ東京)。オカケンこと岡本健一さんが代議士の役で出演しているのだ。これがまた原作『決断』(双葉文庫)の人物造形とまったく違っててビックリするぞ。どうか原作をお読みいただきたい。え、この役を?と驚くこと間違いなしだから。

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2017/03/22
第21回アンケートの受付は終了いたしました。

 日本の法廷ミステリの最高峰、大岡昇平の『事件』。被告の自動車工場の工員・上田宏演じて欲しい俳優には1位に滝沢秀明さん、2位に風間俊介さん、大野智(嵐)さん、二宮和也(嵐)さんでした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第22回は、伊勢湾に浮かぶ小さな島を舞台に、海女の初江と漁師の新治の恋を描いた『潮騒』。勉強はできないけど運動神経がよくて泳ぎは大の得意、無口で思慮深い新治。初江と裸で抱き合う場面がありつつも一線を越えない意志の強さを持つ、そんな漁師・新治を演じるなら……。あなたは誰に演じて欲しい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【22】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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