大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2018/04/04

森田剛の魅力は「アンビバレントな佇まい」映画「人間失格」でその魅力を再確認

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 たった一つだけその命の音色を奏でてみる皆さん、こんにちは。配達日指定で封書が届くのにも何だか慣れたような気がする今日この頃です。複雑な気持ちのファンもいるかもしれないけど、好きな人の幸せはやっぱり嬉しいもの。ということで今回は森田剛スペシャルだよ!

■森田剛・出演!「人間失格」

 ええ、わかってます。主演は生田斗真です。しかも斗真の記念すべき銀幕デビュー作です。わかってます。ええ、わかってますとも、でも! 今回ばかりは! 脇で出演した森田剛くんにフォーカスさせてください。斗真ファンの皆さんごめんね。斗真については来月『友罪』でたっぷりやるから待ってて。

「人間失格」(2010年・角川映画)の原作はご存知、太宰治の同名小説『人間失格』(新潮文庫他)。太宰が亡くなる1ヶ月前の脱稿であり、彼自身の体験が色濃く反映された自伝的要素の強い作品としても有名だ。心中の鬱屈を道化の面で隠しながら育ってきた津軽生まれの青年・大庭葉蔵が、女性、酒、薬に溺れ、彷徨う様が描かれる。

 この映画での剛くん(字面だとKinKi剛や草なぎくんと混同しちゃうけど、心の中で「ごーくん」とルビを振ってください)が演じたのは、詩人・中原中也(1907ー1937)。「汚れつちまつた悲しみに……」や、ゆあーんゆよーんゆやゆよんの「サーカス」など多くの詩を残しながら30歳で亡くなった、夭折の天才である。

 黒いソフト帽をかぶった黒目がちの中也の写真を見たことがある人は多いんじゃないかな。配役を聞いたときは「剛くんが中也?」と思ったものだが、映像を見ると実に中原中也だった! 小柄で、ソフト帽の奥にはくりくりとした鋭い目。繊細さと無頼が同居する感じが見事にはまっていた。まあ、中也のあの写真は複写とレタッチを重ねたせいで本人の顔とはかなり違っていたらしいけれど。

 原作に忠実に作られたこの映画での唯一の大きな改変が、原作には出てこない中原中也を葉蔵に絡ませたことだった。中也が登場したのは、エンディングを除けば2場面。葉蔵が堀木に連れていかれたバーに、井伏鱒二、小林秀雄、檀一雄といった錚々たる面々が現れる。その中に中原中也がいて、葉蔵に絡んでくる。もうひとつは、古本屋で中原中也の詩集『山羊の歌』をめくる葉蔵に、当の中也が話しかけ、そのまま葉蔵を鎌倉の寺に誘う場面。

 だがこの2場面、原作には出てこないとは言え、決してオリジナルではない。どちらも実際にあった中原中也のエピソードなのである。


イラスト・タテノカズヒロ

■酒場とお寺のシーン、本当の相手は……

 まずバーで中也が葉蔵に絡んだ場面。あれは中也が酒場で太宰治に絡んだ場面そのままなのだ。檀一雄「小説 太宰治」(岩波現代文庫他)によれば、「おかめ」という店で中也と太宰は最初は睦まじげに語り合っていたが、もともと酒乱の気がある中也が太宰に絡み始めたという。「青鯖が空に浮かんだような顔しやがって」「おめえは何の花が好きなんだい」と詰め寄り、太宰が泣きそうになりながら「モ、モ、ノ、ハ、ナ」と答えた──これがそのまま映画に使われている。

 また中也が葉蔵に投げかけた「戦争は何色だ?」という問いも、中也の詩にも出てくる表現。そのあと、映画では中也が檀一雄に投げ飛ばされ「おめぇは強え……」と呟くが、これまた実際にあった話だ。「おかめ」とは別の日に、太宰の下宿に押しかけた中也があまりに騒ぐので檀は外に引きずり出し、中也を雪の中に放り投げた。そのときの中也のセリフがこれだ。

 そしてトンネルと寺のシーン。トンネルの中の舞い散る火花、寺で舞い落ちる海棠をふたりで眺める場面の絵的なことといったら! そこで中也は「ああ、ボーヨー、ボーヨー」と歌うように呟く。「ボーヨーって何ですか」「前途茫洋さ」……。
 この会話も実際に交わされたものだ。ただし相手は太宰ではない。小林秀雄(批評家・1902ー1983年)だ。小林秀雄のエッセイ「中原中也の思い出」(「文藝」1949年8月号初出、新潮文庫『作家の顔』所収)に、こんな一節があるのだ。

〈晩春の暮方、二人は石に腰掛け、海棠の散るのを黙って見ていた。花びらは死んだ様な空気の中を、まっ直ぐに間断なく、落ちていた。(中略)二人は、八幡宮の茶店でビールを飲んだ。夕闇の中で柳が煙っていた。彼は、ビールを一と口飲んでは、「ああ、ボーヨー、ボーヨー」と喚いた。「ボーヨーって何んだ」「前途茫洋さ、ああ、ボーヨー、ボーヨー」と彼は目を据え、悲し気な節を付けた。私は辛かった。詩人を理解するという事は、詩ではなく、生まれ乍らの詩人の肉体を理解するという事は、何と辛い想いだろう〉

 小林秀雄とのこのエピソードを葉蔵に置き換えて、映画に登場させたのである。その後まもなく世を去ることになる中原中也が幻想的に浮かび上がり、実に美しかった。ちなみに小林秀雄のこのエッセイは中原中也という天才詩人を知るに絶好の名文なので、映画を機に中也に興味を持った人はぜひご一読を。

■森田剛にはアンビバレントな役が似合う

 この寺のくだりは映画では葉蔵と中也の奇妙な友情を示唆する美しい場面だったが、実際の中也と小林秀雄には複雑な因縁があった。中也が長年同棲していた女性が小林秀雄のもとに走るという修羅場があったのだ。しかし彼女はしばらくして小林のもとからも去っていく。2人が再会し、ともに海棠(かいどう)の散るのを眺めたのは、それから8年ののちだった。

 小林秀雄は「中原中也の思い出」の中で、自分と中也の関係を「嫌悪と愛着との混淆」と表現している。そしてそれはおそらく、太宰と中也の関係にもあてはまるのではないか。太宰は同人誌を発行するも中也とケンカして1号で廃刊したかと思えば、中也が死んだあとにその才を惜しんだりもしている。映画では葉蔵は中也に対してストレートな尊敬を抱いていたように描かれていたが、実はお寺のシーンは「嫌悪と愛着との混淆」の象徴なのだ。

 私が初めて俳優・森田剛を意識したのはNHKの大河ドラマ「毛利元就」(1997年)での、元就の少年時代。あのときもやんちゃと鬱屈が混在する役を見事に演じていて感心したものだった。剛くんにはアンビバレント(相反する態度や感情が同時に存在するさま)な役が似合うのだ。ただ、毛利元就役は中村芝翫さんで、森田剛が成長して中村芝翫になるのはさすがに無理があったぞNHK。顔立ちに共通点が何もないじゃないか……。

 ところで小林秀雄が中也の元カノに去られた際、小林を心配してみせる中也が妙に嬉しそうだったそうで(おいおい)、作家の大岡昇平はその時の中也を「おたんこなすの顔」と評している。おたこんなす! そういう可愛いところと、狂気に至るほどの峻烈さを併せ持った天才詩人。剛くんで、小林秀雄との因縁も含めた中原中也の物語を見てみたいなあ。

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2017/04/18
第23回アンケートの受付は終了いたしました。

 森田剛の中原中也で小林秀雄「中原中也の思い出」を脳内映像化。狂気の淵にある天才詩人をなんとか理解しようと努める知性の人──小林秀雄を演じて欲しい俳優には1位に稲垣吾郎さん、櫻井翔(嵐)さん、風間俊介さんでした。
ご参加をありがとうございました!

第24回は、本編でも紹介した葉室麟『天翔ける』(KADOKAWA)は、福井藩主・松平春嶽の物語だ。春嶽は開国と大政奉還を平和裡に行うよう、奮闘する。彼の両輪となったのが橋本左内と横井小楠だ。平和を願い、個性的な大名たちの間で常に〈調整役〉として能力を発揮した賢君・松平春嶽。橋本左内を有能な懐刀として信頼し、その能力を愛で、左内からも尊敬され、彼の刑死に責任と後悔で慟哭する春嶽。大河ドラマでは津田寛治さんが演じているが、これを左内役のかざぽんとセットでジャニーズがやるなら……大矢のチョイスはヒガシこと東山紀之! あなたは誰に演じて欲しい?
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大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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