大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2017/05/22

「貴族探偵」に相葉雅紀が最適だったワケ[ジャニ読みブックガイド第1回]

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 真実のJust oneを追いかける皆さん、はじめまして。この世には2通りの人間がいます。ジャニーズが好きな人と、ジャニーズが大好きな人です。自担(※1)の出るドラマや映画は漏らさずチェック、写真帯が巻かれた原作本は読まなくてもとりあえず購入……いや待て、そこは読もう。ジャニーズファンだからこそ楽しめる読み方があるんだから。

1)まず、先入観を持たずに小説を読んでみる。
2)ドラマとの違いを探しながら読んでみる。
3)自担がなぜこの役なのかを考えながら読んでみる。
4)脳内ジャニーズ配役で同じジャンルの小説を読んでみる。

 これがジャニ読み。というわけで、40年来のジャニーズファンであり書評家でもある(どっちがメインの属性か自分でもわからない)ワタクシが、僭越ながらジャニーズドラマ原作小説のガイドを、おもにミステリを中心にお送りしようという次第。よろしくおつきあいのほどを。

■嵐・相葉雅紀主演!「貴族探偵」

 第1回はもちろん、相葉雅紀主演で狂喜悶絶爆笑感激放送中の「貴族探偵」(フジテレビ)から、麻耶雄嵩『貴族探偵』『貴族探偵対女探偵』だ。SNSでも指摘されているが、オリジナルからかなり改変されているにもかかわらず、ドラマに対する原作ファンの評価がとても高い。なぜか。原作の最も大事な部分がちゃんとリスペクトされているからである。

 原作の第1作『貴族探偵』は一編ごとに視点人物が変わる短編集。密室殺人やバラバラ死体事件などが起き、関係者や捜査陣が右往左往しているところに〈貴族探偵〉が召使いを従え颯爽と現れる。彼はなぜか警察上層部に影響力を持ち、自分が事件を解決する、と宣言。
 ところが実際に推理を披露するのは〈貴族探偵〉ではなく、執事・メイド・運転手・料理人(ドラマには登場しない)ら召使いたちなのである。「推理なんて雑事は使用人に任せておけばいいんですよ」──というのはドラマ視聴者もご承知の通り。
 女探偵の高徳愛香(四国四県の頭文字だって気づいてた?)が登場するのはシリーズ2作目の『貴族探偵対女探偵』から。偉大な師匠(ドラマとは設定が異なる)から探偵としての薫陶を受けた愛香だったが、彼女の推理はいつも〈貴族探偵〉の召使いによって否定されてしまう──。

 このシリーズの謎解きはとても堅実だ。だが麻耶ミステリの特徴は探偵の造形にある。
 たとえば別シリーズのメルカトル鮎という探偵は傲岸不遜で、絶対に推理を誤らないという設定でありながら事件解決より自分の利益や楽しみを優先したり、実情に合わない推理をしたり。『神様ゲーム』に登場するのは小学生の姿をした神様だ。神様なので推理せずとも真相を知っている。おまけにジュヴナイルなのにトラウマ展開。そして推理をしないのに探偵を名乗る貴族。なんだこのキテレツ設定は。
 これは、探偵とは何か、というミステリの究極のテーマに麻耶雄嵩が挑戦しているからに他ならない。

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イラスト・タテノカズヒロ

■原作のキモを押さえたドラマ化

 ミステリを読んでいて、探偵の万能っぷりを不審に思ったことはないだろうか? 探偵の知らない事実や手がかりがもっと他にあるかもしれないのに、なぜその謎解きが唯一無二の正解としてみんな納得しちゃうのかと。
 『貴族探偵』はそこを突き詰めている。高徳愛香の推理は、手持ちのカードで合理的な解を出すという点においては、決して間違いではない(原作にはない愛香のダミー推理を毎回作り上げるスタッフのすごさ!)。けれど〈貴族探偵〉の召使いが別の解を出す。この多重解決は、探偵の推理が絶対ではないことの表現だ。だから推理をしない探偵を創造した。
 こういうこねくり回したことをしてくるので、読者は時としてわけがわからず混乱する。麻耶作品が「本格ミステリの極北」と呼ばれる所以だ。「ミステリ? 『謎ディナ』くらいかな」という人に麻耶雄嵩を薦めるのは、「ジャニーズ? 『vs.嵐』くらいかな」という人をいきなり滝沢歌舞伎に連れていくようなものである。空中で回転しながら和太鼓叩くからね、滝沢歌舞伎。(でもハマるよね)

 推理が絶対でないのなら、では探偵とは何か? いみじくも初回の放送で、推理をしないあなたを探偵とは認めない、と言った高徳愛香に対し、相葉くん演じる〈貴族探偵〉はこう返した。

「どうぞご自由にとしか。ですが、探偵とは何ですか? 事件を解決できない者は探偵ではないですよね、女探偵さん」

 原作ファンが喜んだのはここだ。探偵とは何かに触れた、原作の最も重要なこのセリフが、一文字違わず再現された。
 麻耶雄嵩は、探偵を推理する者ではなく〈事件解決の機能〉と捉え、その〈装置〉として〈貴族探偵〉を据えているのだ。麻耶雄嵩はインタビューで〈貴族探偵〉を水戸黄門になぞらえている。登場しただけで事件が解決するアイコン、あるいは記号なのである。月9スタッフはそれをわかってる! 原作のキモをちゃんと押さえてる!
 だから、原作ではひとりずつしか登場しない召使いが3人一緒に再現VTRを作っても、原作には登場しない人物やトリックが加えられても、麻耶ワールドが揺らがない。田中さんまとめ素晴らしいよ佐藤さんVTR見事です山本さん女装って! と喝采できる。これはとても幸せなドラマ化なのである。

■相葉くんだからこそ

 さあ、そこでわれらが相葉くんだ。
 親しみやすくて癒し系の相葉くんが貴族? という戸惑いは、すぐに払拭された。
 クールな見た目に無邪気な微笑み。利口なのか無能なのか、高貴なのかカジュアルなのか、マジなのかふざけてるのか、優しいのか冷たいのか、どちらともとれる中間地点を絶妙にキープしつつ、カリカチュアされた演技はあくまでも〈装置〉であることをはずさない。
 これは相葉くんだからこそだ。最初から貴族イメージに近い俳優では、普通に貴族になってしまう。それではダメなのだ。麻耶雄嵩の狂った世界を象徴する美しき装置として、相葉くんの貴族探偵は大正解なのである。

 ところがその〈装置〉にふと人間味が混じる瞬間がある。その揺らぎにどきりとした。これは原作にはない華だ。
 相葉くんの演技の最大の魅力は、一瞬の表情にある。たとえば2001年放送の長瀬智也主演「ムコ殿」で見せた荒んだ目は、今も忘れられない。
 その力は今回も発揮されている。初回、常ににこやかで飄々としていた〈貴族探偵〉が、一度だけとても冷徹な表情を見せた場面にお気づきだろうか。前述したセリフ「事件を解決できない者は探偵ではないですよね、女探偵さん」の直後だ。視線を愛香からはずし、前に向き直った瞬間の、あの表情。あるいは第3話で、依頼者に対し警察に謝罪を要求したときの、あの目。
 装置が、その記号性を突き抜けた先に見せる一瞬の人格。これが相葉雅紀の〈貴族探偵〉なのである。

 これから原作を読む人には、『貴族探偵対女探偵』の最終話「なほあまりある」を楽しみにしてほしい。なんと召使いたちから離れ、〈貴族探偵〉がひとりで女探偵に相対する。え、誰が推理するの? ……この結末には驚き、そして膝を打つに違いない。このドラマは原作を知っていると一層楽しめる。原作の改変が実に上手いので、どう変えてくるか毎回ワクワクしているほどだ。ぜひ原作を、そして「探偵」を追求する他の麻耶作品を読んでみていただきたい。

(※1)最も応援しているグループやメンバーのこと。自分の担当の意味

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アンケート この探偵にはどのジャニーズ?【1】

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麻耶雄嵩作品を代表する探偵、メルカトル鮎。
シルクハットにタキシードがトレードマーク。口調は高慢、態度は尊大、性格は最悪。推理は絶対に間違わないが自分の楽しみの方が大事という「銘」探偵。
こんなメルカトル鮎を演じるなら……大矢のチョイスはヒガシこと東山紀之!
あなたなら誰に演じて欲しい?

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2017/06/07
第1回アンケートの受付は終了いたしました。
1233名もの方々にご回答をいただきました。探偵「メルカトル鮎」を演じて欲しいジャニーズには回答全体の49%、613名の方が稲垣吾郎さんと回答しました。次点は嵐の松本潤さんで128票。大矢さんイチオシのヒガシこと東山紀之さんは66票で3位でした。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第1回
多くの方のご参加をありがとうございました!

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